IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 461

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

訴訟に備えると聞くと、証拠を固めて法廷で戦う絵が浮かびます。ところが米国の連邦裁判所では、民事事件のうち法廷で決着をつける手続き——公判まで進んだものの割合が、1962年の11.5%から2002年の1.8%へ下がっていました。

では、減った分はどこへ行ったのか。和解が増えたのだろう、というのが多くの見立てでした。同じ年の同じ誌に出たもう一本は、そこを疑って、2000年の「終わり方」の記録そのものを点検します。この号は、米国の連邦民事の数字を日本の商いの見通しには当てはめません。個別の紛争の判断も書きません。

公判(トライアル)は、法廷で証拠と言い分を突き合わせて勝ち負けを決める手続きです。2004年に法と実証の査読誌へ出た論文は、その割合を“The portion of federal civil cases resolved by trial fell from 11.5 percent in 1962 to 1.8 percent in 2002”(連邦の民事事件のうち公判で解決した割合は、1962年の11.5%から2002年の1.8%へ落ちた)と書きます。公判の件数そのものも1980年代半ば以降に6割減り、裁判の大半が起きる州裁判所でも同じ向きの減少がある、とも。ここで読めたのは、公表された要旨の範囲までです。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
米国の連邦民事で、公判まで進む割合は1962年の11.5%から2002年の1.8%へ。公表された要旨で読めたところまで。 Visual: ALIFE

減ったこと自体は、要旨の範囲でも確かめられます。問題は、その行き先のほうです。同じ2004年の同じ誌に出たもう一本は、この流れが“an increase in private settlements (as many assume)”(多くが想定するとおりの、私的な和解の増加)を映しているのか、それとも法廷で争わないまま下される裁定の増加なのかで、意味が違ってくる、と書き出します。

01最も曖昧な分類に、最大7割の誤り。そのもう一本は、米国の連邦裁判所の事務局が2000年の事件に付けた「終わり方」の分類を、裁判所の電子記録と突き合わせて点検しました。最も曖昧で、いちばん効いてくる分類に“as high as 70 percent”(最大で70%)の誤りがある——だから生の分類をそのまま読むのは信頼できない、というのが点検の結果です。実験ではなく、記録の照合です。

02補正すると、和解の割合は下がった。点検で分かった内訳で2000年のデータを補正し、1970年の生データと並べると、和解で終わった事件の割合は1970年より2000年のほうが小さいという結果になりました。消えた公判の代わりに増えていたのは、和解ではなく、略式の判決や却下といった法廷で争わない裁定のほうです。ただし原著自身が“These conclusions are suggestive only”(これらの結論は示唆的なものにすぎない)と断っています。

039割が和解、を支える推定は出ない。2009年に同じ誌へ出た別の研究は、米国の連邦地裁2か所の約3,300件(2001〜02年)で和解率を計算しました。原告側の成功の代わりの指標として見ると合計66.9%、地区別では71.6%と57.8%、地区と事件の種類の組み合わせでは最高87.2%から最低27.3%。どの計算法でも、9割超という水準を支える推定は出ません——“no reasonable estimate of settlement rates supports an aggregate rate of over 90% of filed cases”(提起された事件の90%超という合計の和解率を支持する、妥当な推定はない)。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
最大7割の誤りを補正して1970年と並べると、消えた公判の代わりは和解ではなかった——原著は示唆的にすぎないと断る。 Visual: ALIFE

「訴訟のほとんどは和解で終わる」——この一文は借りやすい。借りる前に見ておけることが、三つあります。

01分母の付いていない割合を使っている。和解率は、測り方で動きます。合計では66.9%、地区では71.6%と57.8%、地区と事件の種類の組み合わせでは27.3%から87.2%まで。誰の、どの法域の、何を分母にした割合か。それが付いていない数字は、借りた時点では意味が決まっていません。

02米国の数字を、自分の見通しに当てている。ここまでの割合は、すべて米国の連邦裁判所の民事事件のものです。日本の民事事件の審理期間や終わり方は、裁判所が別の仕組みで公表しています。海を越えて同じ数字が当てはまるとは、この号が読めた範囲からは言えません。

03訂正の掲示を、見ないまま引いている。日本側の案内の頁には、報告書が第1回から第11回まで並び、そのうち複数回分には「統計数値の訂正について」の掲示が添えられています。何年の版か、訂正が出ているか。数字を引くなら、その二つが先に要ります。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
和解率は、合計・地区・事件の種類のどこで切るかで動く(米国の連邦地裁2か所・2001〜02年)。 Visual: ALIFE

日本について、この号が読めたのは公表の仕組みまでです。最高裁判所は、手続に要した期間の状況などの検証を行い、その結果を「二年ごとに、国民に明らかにするため公表しています」(裁判の迅速化に関する法律8条)。民事・刑事・家事の分野ごとに行われ、報告書は第1回から第11回まで。事件の終わり方の内訳は、年報と月報で公表される司法統計のほうです。平均の審理期間の月数を、この号は書きません。報告書の本体まで読めておらず、同じ頁に訂正の掲示もあるからです。

出どころの層も置いておきます。全文まで読めたのは6点のうち2点——いずれも日本の裁判所の案内の頁でした。3点は公表された要旨まで、1点は書誌だけです。判決まで残るのは勝敗の読めない事案になる、という1984年の理論は、その書誌だけの1点にあたります(この論文には、要旨の欄そのものがありません)。読めていないものについては、書きません。

公判が減った分は、和解へ行かなかった。
ただし原著は、示唆的にすぎないと断る。

この向きが言えるのは、米国の連邦民事について、点検で補正した2000年のデータを1970年の生データと並べたときの話です。自分の紛争が、どこで、どう終わるのか。その見通しは資格を持つ専門家の領分で、この号は代わりになりません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付と、自分が抱えうるもめごとを一つ、相手の名前を出さずに一行で書く。

  2. 02SORT

    それについて自分が持っている見通しを、「数字で言える」と「言えない」の二つに分ける。

  3. 03RECORD

    「言えない」に入ったものは、空欄のまま残す。埋めるために調べない。

10分。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。特定の相手を品定めする課題ではありません。個別の紛争の見通しや手続の選び方は、弁護士など資格を持つ専門家の領分で、この課題はその代わりになりません。

順番はこうです。2004年に二本、2009年に一本。公判が減ったことは要旨の範囲で確かめられ、その行き先のほうは、終わり方の分類を洗い直すと入れ替わりました。「ほとんどは和解で終わる」という一文は、短くて便利です。便利な一文ほど、分母が外れたまま歩いていきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「訴訟に備えるには?」を、もっと深く学ぶ。→

Next in legal execution

VIEW ALL
ISSUE 460守る「つもり」までは、確かめられている。ISSUE 462八社を調べたら、費用の七割は読む手間。
ALIFE · ISSUE 461

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。