IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 460

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

情報が漏れないようにするには、規程を作って、署名をもらう。そう考えたくなります。この号が最初に置くのは、書いてあることと、行われていることは別、という見方です。

はじめに、書かないことを二つ。漏えいの何割が内側から起きるか、という割合の数字は出てきません。読めた六点に、その割合を測った記述が無いからです。もう一つ、個別の情報が法律上どう扱われるかの判断もしません。規程や誓約書の文面も渡しません。

情報漏えいは、外に出てはならない情報が、意図せず、あるいは持ち出されて外に出ることを指します。その中心にあるのが営業秘密です。経済産業省のページは、これを不正競争防止法で定義された情報とし、「有用性」「秘密管理性」「非公知性」の三つの要件を満たすものだと書いています。ここは俗説ではなく、辿れば発行元のページに行き着く公式の事実です。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
法が定めているのは、三つの要件を満たす情報を営業秘密として扱うこと。漏えいが起きないことの約束ではない。 Visual: ALIFE

では、要件を満たす体裁を整えれば、情報は守られるのか。ここから先は法の話ではなく、人がどうふるまうかの話になります。この号が読めた学術の五点は、いずれも公開された要旨まで。そのうち三点が数えていたのは、実際の行動ではなく「そうするつもり」でした。

01遵守の「意図」と、信念や手応えが結びついた。2010年に経営情報システムの専門誌へ出た質問紙の研究は、規程を守る意図が、守ることへの態度・まわりがどう見ているかという規範の信念・自分にできるという手応えと結びついていたと報告しました——“an employee’s intention to comply with the ISP”(従業員の、規程を守ろうとする意図)。測られたのは意図で、実際に守ったかどうかではありません。

02悪意のない逸脱も、「意図」として数えられた。2011年に同じ分野の専門誌へ出た質問紙の研究は、働く人が悪意なく規程を外れる行為に踏み切る意図を測りました。仕事が進むかどうか・職場の規範・自分らしさとの一致が決め手で、いっぽう規程への態度と罰の受け止めは、はっきりした関係を示しませんでした——“the influences of attitudes toward security policy and perceived sanctions are not significant”。

03誤用の「意図」は、八つの会社の269人で測られた。こちらも2009年の質問紙の研究です。対策を知っていることが、罰の確からしさと重さの受け止めを通じて誤用の意図の低さと結びつく、というモデルが八つの会社の利用者269人で検証されました。罰の重さの受け止めのほうが確からしさより効いた、とも報告されています。269人が答えたのは意図で、持ち出しの件数ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
まず測られたのは、この三つ。遵守・逸脱・誤用——いずれも数えられたのは「つもり」のほうだった。 Visual: ALIFE

自分の手元がどのあたりにいるか。手がかりは割合の数字より、日ごろの言い方のほうに出ます。

01署名をもらった日で、話が終わっている。署名は、渡したことの記録です。読めた五点のどれも、署名や誓約の有無そのものを測ってはいません。測られていたのは、守る意図を何が動かすか、でした。この対比は、この号の整理であって測定ではありません。

02割合の数字を、出どころごと持ってきている。「漏えいの多くは内側から」という言い方は、あちこちで見かけます。この号が読めた六点に、その割合を測った記述はありません。一点だけ割合を引いている研究がありますが、それは背景として他所から借りた数字で、その研究自身が測った値ではありません。

03罰を強めることだけを、考えている。罰の受け止めについては、読めた範囲で向きが割れています。一つの質問紙では罰の重さの受け止めが誤用の意図の低さと結びつき、別の質問紙では罰の受け止めがはっきりした関係を示しませんでした。どちらが正しい値かを、この号は決めません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
署名の日・割合の数字・罰の強さ——紙のままかどうかは、この三つの言い方に出る。 Visual: ALIFE

借り先を正直に書きます。この号が読んだ学術の五点は、働く人に尋ねた質問紙が三点、理論の論文が一点、総説が一点です。読めた要旨に、対象の人数や職場の印字があったのは一点だけ——八つの会社の利用者269人と書いていたものです。残りの四点には、人数も国名もありません。日本の小さな商いを測ったものだ、とは書けません。

もう一度、書かないことを。規程を整えればこうなる、という効き目の話は出てきません。理論の論文は、抑止の手前にある思考の過程まで見るべきだと主張し、今後の研究課題を挙げたところまで。総説は114本の論文を見渡し、五つの中核的な関係と、食い違いや空白を示したところまでです。そしてこの号は、従業員を疑って見張る設計を勧めません。

測られていたのは、規程を守る「つもり」まで。
守ったかどうかは、読めた範囲の外だった。

この向きは、規程を捨てる理由にはなりません。発行元のページは、二つを別々に書いています。要件は、その情報が営業秘密として管理されていること。効果は、不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、民事上・刑事上の措置をとれること。要旨まで読めた研究が名指ししていたのは、規程の厚みではなく、態度・まわりの規範・手応え・仕事が進むかどうかという、人の側の手がかりでした。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付を書き、自分の商いで外に出たら困る情報を一つ挙げる。

  2. 02WRITE

    誰が見られるか、どこに置いてあるか、持ち出しが残るか、伝えてあるか、を書く。

  3. 03SORT

    四つを「ある」と「空白」に分け、空白の数だけを数える。

10分。人の行動を見張る作業ではありません。誰かを疑うのでも調べるのでもなく、自分が守りたい情報と、その扱いのいまを、手元で書き出すだけで終わります。ここで書いた「空白」は、その情報が法律上守られるかどうかの判定ではありません。判定や、持ち出しが起きたときの対応など、法律の判断が要る場面は、弁護士など、その領分の専門家に相談してください。

読んだ範囲で言えるのは、ここまでです。法は、三つの要件を満たす情報を営業秘密として扱う。要旨まで届いた研究が数えてきたのは、守る「つもり」と、悪意のない逸脱の「つもり」と、誤用の「つもり」。規程を何ページ書いたかを測った研究には、行き当たりませんでした。ここから先は、どの論文も言っていないこと——この号の見方です。書いた枚数は、まだ数えられていない。数えられてきたのは、そのつもりがあるかどうかのほうだった。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。