IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 451
● 12 SEC契約が増えてくると、一覧にまとめれば安心だ、と思いたくなります。作成から更新・終了までを通して扱う仕組み——CLM(Contract Lifecycle Management)——を入れれば、抜け漏れが消える、と。この号が最初に置くのは、しまってあることと、使えることは別という見方です。
はじめに、書かないことを一つ。「入れると工数が何割減る」という型の数字は、この号には出てきません。探した範囲で、その効き目を独立に測り直した査読研究に行き当たらなかったからです。ただし、検証されていないことを、間違っていることとすり替えるつもりもありません。
契約の一元管理を、ここでは二つに分けて読みます。ひとつは、どこに何の契約があり、いつ更新や終了を迎えるかを一覧で見えるようにすること。もうひとつは、いざというときにその契約を引き当て、読み解き、判断に使うこと。前者が後者を連れてくるかどうかは、別に確かめられるべきことです。この二分は、読んだ論文が測った結果ではなく、この号の整理のしかたです。

では、契約を扱う力はどこから来るのか。ここには実証が一つあります。ただしそれは企業一般を測ったものではなく、たった一組の取引相手を追った事例研究でした。
01学習の証拠は、2社の11本だった。2004年に経営学の専門誌へ出た事例研究は、パソコンの産業に属する同じ二社のあいだで、1989年から1997年に結ばれた11本の契約を時系列で追いました——“a detailed case study of a time series of 11 contracts”(11本の契約の時系列を追った詳細な事例研究)。契約の変わり方は、危険にさらされる資産の変化だけでは説明しきれず、二社が一緒に働くやり方を学ぶ過程の結果だと報告されています。企業一般を測ったものではありません。
02原著は、先見的ではないと書いた。同じ事例研究は、そこで見えた学習の性質を自ら限定しています——“quite incremental and local, that is, not very far sighted”(かなり漸進的で局所的、つまりあまり先を見通したものではない)。契約が協働の知識の置き場になりうる条件も、示唆と境界条件として述べられるにとどまります。学習が起きたと読める範囲は、この一組の九年のなかまでです。
03能力として整えたのは、理論だった。2007年に経営学の理論誌へ出た論文は、契約の設計を企業の能力として捉え直す枠組みを示しました。どれだけの詳しさを、どんな種類で盛り込むかを学ぶことが、その能力の中身だとされます。判断の知識は経営者・技術者・法務の担い手に分かれて宿るとも論じられました——“resides differentially in managers, engineers, and lawyers”。新しい実測ではなく、理論の提案です。

自分の手元がどのあたりにいるか。手がかりは数字より、日ごろの言い方のほうに出ます。
01更新の日は言えるが、中身は言えない。一覧が見せてくれるのは、どこに何があり、いつ更新や終了を迎えるかまでです。そこから引き当てて読み解く動きまでが一覧の側から出てくる、と書いた研究には行き当たりませんでした。これはこの号の整理であって、測定ではありません。
02効き目の数字の、出どころを見ていない。探した範囲では、この種の仕組みの投資対効果や工数削減を、独立に測り直した査読研究に行き当たりませんでした。法学系の検索の入口は試していません。検証されていないことを、間違っていることとすり替えない——不在は、否定ではありません。
03入れた話を、効いた話として読んでいる。2025年に出たドイツ語の実務書の一章は、社内の契約の置き場を入れ替えた一社の導入過程を記述しています——“die CLM-Tool Einführung im Unternehmen”(社内へのCLMツールの導入)。選定・段階的な導入・変更の手当て・伝え方が並びますが、査読を経た文献ではなく、効果を測った記述でもありません。

借り先を正直に書きます。「入れたあとが続かない」という話でこの文脈に並べられる三本は、契約の管理ではなく、会社の業務を通して扱う基幹の業務システム(ERP)の導入後を調べたものです。2012年の論文はポルトガルとスペインの558社、2013年の論文は北欧とイベリアの中小企業883社——“a unique dataset of 883 SMEs from Scandinavia and Iberia”(北欧とイベリアの中小企業883社という独自のデータ)——を対象に、使うことと価値が出ることを別の段階として測っています。2014年の論文は、ポルトガルの中小企業を扱った題名までしか確認できていません。
読めた要旨に書かれていたのは、段階を分けたことと、どの要因が効くかが国や地域で違っていたことまででした。「中小はとりわけ後の段階で伸び悩む」という一般化は、その範囲には印字がありません。三本は同じ研究グループの近い仕事で、独立した三つの証拠としては数えられません。この号が読んだ六点は、いずれも公開された要旨か書誌まで。全文まで読めたものはありません。
確かめられたのは、同じ二社のあいだで
九年かけて結ばれた、11本の契約だった。
この向きは、仕組みを捨てる理由にはなりません。事例研究のほうは、契約が協働のやり方の知識を置いておく場所になりうることを、条件つきで示唆してもいます。理論の論文は、その知識が経営者・技術者・法務に分かれて宿ると論じました。業務システムのうち要旨まで読めた二本は、使うことに効く要因と、価値に効く要因を、それぞれ名指ししています。読めた範囲で言えるのは、しまうことと使えることが、別々に書かれてきた、というところまでです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日の日付を書き、自分が結んでいる契約を思い出せるだけ挙げる。
- 02WRITE
各契約の更新・終了の時期、今どこにあるか、中身を一言、を見ずに書く。
- 03SORT
三つとも書けた契約と、どれかで詰まった契約の件数を数えて分ける。
原著が書いたのは、同じ二社が九年かけて結んだ11本の契約のなかで、扱い方が少しずつ変わっていった、ということでした。その変化を、原著自身が漸進的で局所的だと限定しています。ここから先は、読んだどの論文も言っていないこと——この号の見方です。一覧は、どこに何があるかを見せてくれる。けれど、引き当て、読み解く動きまでを、その副産物として受け取れるとは限らない。先を見通した設計ではなく、その都度の手直しの積み重ねとして書かれた学習でした。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「契約を一元管理するには?」を、もっと深く学ぶ。→