IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 447

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

副作用は、数字が悪くなることで知らせてくれる——そう思って指標を眺めていると、たぶん見落とします。この号で読む研究では、良いほうの結果と悪いほうの結果が、同じ紙の上に並んでいました。別々の研究にではなく、同じ実験の、別の条件として。

たとえば評定を「上位から順に何割」と割り振る仕組みを、実験の課題に持ち込んだとき。生産性はむしろ高く出ています。裏返ったのは、そこに条件が一つ足されたときでした。

強制分布(forced distribution)は、評価者に差のついた評定を割り当てさせる仕組みです。毎年一定の割合を解雇することを前提に置いた設計まで含めて、研究されてきました。この号は、その仕組みを扱った研究を、効いた側と裏返った側の両方から読みます。出てくるのは、実験室の課題・模擬計算・単一企業の記録・概念モデルという、層の違う研究です。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真
割合を先に決める仕組み。効いた結果と裏返った結果は、同じ研究の中に置かれていた。 Visual: ALIFE

副作用という言葉は、指標が悪化して知らせてくれるもののように響きます。けれど読めた範囲で、それは指標の変化としてではなく、結果に付いていた条件として書かれていました。まず、三つ。

01生産性は、高く出た。実験室の課題で。監督者が一人ひとりの成績を評定し、その評定で賞与が決まる課題です。評定に制約のない条件と、差をつけて割り振る強制分布の条件を比べると、生産性は強制分布のほうが有意に高く、刊行された報告ではおよそ 6〜12% 高い値でした。経済実験室で行われた、体を使って作業する課題であり、現場の評価者ではありません。

02有害に転じたのは、妨害できる条件。同じ実験は、作業者が互いに簡単に妨害(サボタージュ)できる選択肢を持つ条件も置いています。そこでは強制分布は有害になった、と報告されました。さらに、参加者が先に制約のない条件を経験していると、生産性の効果はそれほど明確ではなくなるとも書かれています。効いたという結果と裏返ったという結果は、同じ実験の中に並んでいます。

03模擬計算の改善は、切る人数と結びつく。毎年一定割合を解雇する設計を、評定の信頼性・選抜の妥当性・自発的な離職と組み合わせて回した模擬計算(シミュレーション)があります。労働力の潜在力は目に見えて改善しうる——ただし改善の大半は最初の数年に見込まれ、解雇する割合が高く、自発的な離職が低いほど改善は大きい。観測された実データではなく、置いた条件から出る計算です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
実験室の課題・模擬計算・概念モデル。層の違う3本は、同じ強さでは読めない。 Visual: ALIFE

指標そのものではなく、指標に付いていた条件のほうへ目が行っているか。別の研究では、こんな形で現れていました。

01数字が動いた理由を、見ていない。成果連動の報酬制度を敷く一社の販売記録を調べた研究では、取引をまとめる金銭的な動機が働く四半期に、営業担当が大幅に低い価格で合意していました。その価格の付け損ないは、その会社の売上に対して6〜8%に当たると報告されています。数字は動いていますが、動かしたのは条件のほうでした。

02甘い評定を、欠陥として数えている。ある一社の評価記録をたどった研究は、寛大化(甘くつける)と中心化(真ん中へ寄せる)の両方を扱いました。中心化は業績の改善と負の関係だったいっぽう、寛大化には業績との明確な負の関係が見えず、むしろその後の業績と正の関連がありました。単一の企業の記録で、データは守秘のため公開されていません。

03短い期間の結果だけを、見ている。強制分布について理論と実証研究を束ねた概念モデルの論文があります。比較的短い期間には課題の遂行が高まりうるいっぽう、不公正の知覚と競争の行きすぎを通じて、助け合いの行動が減り、逆生産的な行動が増えるリスクが挙げられ、時間がたつほどリスクが初期の利益を上回りうる、とされています。実証研究ではなく、モデル上の整理です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
動いた数字の理由・甘い評定の扱い・見ている期間の長さ。 Visual: ALIFE

ここまでに出てきたのは、実験室の課題が1本、模擬計算が1本、単一企業の記録が2本、概念モデルが1本です。どれも、あなたの職場で同じことが起きる証拠ではありません。実験室の生産性は現場の業績ではなく、一社の記録はその会社の外へ広がらず、模擬計算は置いた条件が変われば数字も変わります。

この号が使った研究は6本。全文まで読めたのは1本で、4本は公式の抄録まで、1本は書誌までです。読めていないものについては書きません。評価者の裁量と偏りを論じた理論の論文は、掲載誌が抄録を載せていない年代のもので、書誌までしか確かめられていません——中身はこの号に書きません。

効いたという結果と、有害だったという結果は、
同じ実験の、別の条件に並んでいた。

だから副作用に気づくというのは、指標が赤くなるのを待つことではなく、その数字がどんな条件のもとで出たのかを同じ紙の上で読むことに近い——というのが、この号の読み筋です。制度をどう設計するかの判断そのものは、労務・法務の専門家の領分です。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    自分の評価や処遇の決め方に潜んでいそうな副作用を、一つだけ書く。

  2. 02FIND

    指標ではなく指標の外から、その兆候を一つ探して書く。誰も引き受けたがらない仕事はどれか、など。

  3. 03RECORD

    日付を添えて残す。特定の誰かを観察の対象にはしない。点検するのは人ではなく、自分の決め方のほう。

10分。書き出して分類するだけの作業です。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。評価・処遇や労務の判断そのものは、社会保険労務士・弁護士などの専門家の領分で、この課題が代わりを務めるものではありません。

強制分布をめぐる研究を並べると、効いた側と裏返った側は、別々の論文にではなく、同じ研究の別の条件に載っていました。模擬計算のほうでは、改善の幅は解雇する人数と結びついていました。副作用に気づけるかどうかは、数字を何度見たかではなく、その数字に付いていた条件を最後まで読んだかどうかで決まる——読めた範囲では、そう見えます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS制度の副作用に気づくには?を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。