IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 446

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

在宅、時短、フレックス、週休3日。柔軟な制度を並べれば多様な事情に対応できる——この号が向き合うのは、その言い方です。用意したことと、対応できたことは同じではない。柔軟を選んだ人が損をするなら、対応にはなっていない。 ここまではこの号の読み筋で、研究が出した結論ではありません。

そのうえで読み直すと、通説のほうが二か所で折れます。テレワークを扱ったメタ分析の一次の結論は、職場の人間関係に一般的な悪影響は無い、でした。そして離れて働く人の孤立について、辞めたい気持ちのほうは低いほうへ動いていた——著者自身が「予想に反して」と書いています。

テレワークは、会社以外の場所で働く仕組みを指します。2007年の心理学誌に、自然な職場で行われた46件の研究・のべ12,883人をまとめたメタ分析が出ています。裁量の感覚が増え、仕事と家庭の板ばさみが減るという、小さいが主に良い向きの関連が報告され、満足・業績・離職意図・役割ストレスでも向きは同じでした。観察研究を統合した値なので、効いたと言える形ではありません。

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布
46件・のべ12,883人の統合値。一次の結論は、職場の人間関係に一般的な悪影響は無い、だった。 Visual: ALIFE

ただし、この一覧は看板にはなりません。同じメタ分析が、損なわれる場面を一つだけ名指ししているからです。週2.5日を超える高頻度で使うときに限って、仕事と家庭の板ばさみへの良い向きはさらに強まり、同僚との関係のほうは損なわれる。条件つきの副作用です。

01一般的な悪影響は無い、が一次の結論だった。2007年のメタ分析は、テレワークが職場の人間関係の質に一般的な悪影響を持たなかった、と書いています——“telecommuting had no generally detrimental effects on the quality of workplace relationships”。46件・のべ12,883人の統合値であって、個々の研究が一様だったという意味ではありません。

02孤立と結びついたのは、業績と、逆向きの離職意図。2008年の調査は、専門職のテレワーカーとその上司261組に質問紙で尋ねています。専門的な孤立が強いほど業績は低く、辞めたい気持ちのほうは低い——“professional isolation negatively impacts job performance and, contrary to expectations, reduces turnover intentions”。テレワークの時間が長いほど影響は大きく、対面の接触と連絡手段への近さは影響を弱めていました。質問紙で測った関連です。

03場所を自由にしたあと、産出は4.4%多かった。2021年の経営学誌の研究は、米国で特許を審査する公的機関で、在宅勤務から場所を自由に選べる制度へ移る順番が労使の交渉で決まったことを使った自然実験です。移行のあと産出は4.4%多く、やり直しの発生率は変わらなかったと報告されました。個人の産出が測りやすい専門職での結果で、その場にいることが仕事の中身である働き方には当てはまりません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
名指しされた悪化は、週2.5日を超えたときの、同僚との関係だけだった。 Visual: ALIFE

柔軟策を使った人が不利になる、という話は、どこまで確かめられているのか。手がかりは、職場の言い方のほうに出ます。

01「本気度が低い」と、誰かが言っている。柔軟な働き方を使う人への負の見方——柔軟性の烙印を論じたのが、2013年の社会問題の学術誌に載った論考です。この号が読めたのは本文の冒頭段落までで、実証研究なのか概念の論考なのかは確かめられていません。読めた範囲の一文はこうです——“Flexibility programs have become widespread in the United States, but their use has not.”(柔軟策は米国で広まったが、その利用は広まっていない)。

02同じ在宅が、人によって違う話で語られている。2012年の経営学誌の研究は、上司が柔軟策の利用を仕事のための工夫と受け取れば得に、私生活の優先と受け取れば損になる、と述べています。ただし証拠の強さは非対称で、得の側に強い支持、損の側には限定的な支持でした——“strong support … and some support”。現場と実験室の両方で調べられています。

03週休3日の報告を、自分の職場の見通しに使っている。2023年に英国で公表された週休3日の試行の報告は、61社・約2,900人が2022年に参加し、終了後も56社(92%)が続け、18社が恒久化し、期間中の退職は57%減ったと伝えます。ただしこれは査読を受けた研究ではなく団体の試行報告で、参加企業は自ら手を挙げ、労働時間の減らし方も各社で違います。参加した会社での報告として読む範囲の数字です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
「本気度が低い」「あの人だけ」「うちでも同じ結果が出る」——先に出るのは、言い方のほう。 Visual: ALIFE

誰を調べた結果かを置いておきます。自然な職場の46件をまとめた統合値、専門職のテレワーカーとその上司261組、米国で特許を審査する専門職、そして自ら手を挙げた英国の61社。日本の職場も、数人の店も、この標本には入っていません。接客や現場の作業のように、その場にいることが仕事の中身である働き方も、ここでは測られていません。

読めた深さも揃っていません。6点のうち全文まで読めたのは団体の試行報告の1点だけで、4点は公開された要旨まで、1点は本文の冒頭段落までです。読めていないものについては書きません。査読を経た研究と、査読を受けていない団体の試行報告を同じ重みで並べないことも、ここでは同じだけ大事です。

「予想に反して」と書いたのは、
報告した著者のほうだった。

それでも、柔軟策を並べること自体が無意味だという話ではありません。読めた範囲が差し出したのは、条件のほうです——使う頻度、孤立の度合い、対面の接触、仕事の測りやすさ、そして見る側の受け取り方。条件は、制度の一覧の長さとは別の場所で点検できます。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分の職場(家業や店を含む)で使える柔軟策を一つ書く。在宅、時短、時差出勤、休みの取りやすさ、どれでもよい。

  2. 02RECORD

    その策を実際に使っている人がいるかを、いる・いない・分からない、の三つのどれかで書く。

  3. 03MARK

    評価・昇進・仕事の割り当てのうち、その策を使うと不利になりそうな箇所に印を付ける。数は数えなくてよい。

10分。特定の誰かを名指しで観察したり採点したりする作業ではなく、制度の設計のほうを書き出して分け直すだけの記録です。印が付いても付かなくても、そのまま残します。評価や処遇の扱いで法令や契約の判断が要る場面は、社会保険労務士や弁護士など、その領分の専門家に相談してください。

制度の一覧は、一日で長くできます。頻度をどこで切るか、離れて働く人にこちらから声をかけるか、居た時間の長さではなく仕事の中身で見るか——条件のほうは、一覧に書き足せません。柔軟にすることと、対応することを分けて置くと、確かめる先は自分の運用に絞れます。これは、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「多様な働き方に対応するには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
観察研究・前向き研究
介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。