IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 444
● 12 SEC新しい決め方を作り、説明会を開く。そこまでは、たいていの職場でできます。浸透という言葉が指しているのは、その先です。制度を三つの層——掲げた制度・運用された制度・受け取られた制度——に分けて考える整理があり、この号は、その出どころだけを確かめます。
この号が確かめたのは一点です。三つ目の層——受け取られた制度——を並べていたのは、二つの層を実証した調査論文ではなく、大学の研究センターが出した作業論文のほうでした。その表紙には、正式な審査・承認を受けていない、と印字されています。
制度を根付かせるとは、紙に書いた決め方が、日々の運用でそのとおり使われている状態を指します。出発点は1977年の理論論文です。そこでは、正統性を得るために取り込まれた組織の構造が、互いからも、進行中の活動からも切り離される、と論じられました。掲げた形と日々の実務が別々に動くこと——脱連結です。理論の提示であって、割り付けて確かめた研究ではありません。

では、浸透とは何が起きることか。ここで使われるのが三つの層です。掲げた制度は決めた側が意図した形、運用された制度は実際に適用された形、受け取られた制度は働く人が受け取った形。説明会が届くのは、いちばん上の層までです。ただしこれは層の整理であって、説明会の効き目を測った調査ではありません。
01二つの層までは、一つの調査が実証していた。ある国際誌の2006年の調査は、組織が意図した施策と、実際に適用された施策を区別しない研究の弱さを指摘しました。195件の面接と508票の質問紙、社内文書をもとに、運用された姿は意図された姿とかなり違いうる、と報告しています。この号が読めたのは公開された要旨の頁までで、そこに三つ目の層にあたる語はありません。標本は南アジアの一国の企業です。
02三つ目の層は、審査を受けていない作業論文にあった。三層を並べているのは、大学の研究センターが出した作業論文です。意図された施策がすべて運用されるわけではなく、運用されたものも当初の意図と違う形になりうる——“not all intended HR practices are actually implemented”。続けて、実際の施策から受け取られた施策へ向かう線を、伝達の課題と呼んでいます。表紙には正式な審査・承認を受けていないと印字され、引用しないでほしいという注記もあります。
03切り離しの見方は、1977年から組み替えられている。1977年の理論論文が脱連結を論じたあと、2012年に出た総説は、その見方自体を組み替えました。方針と実践のずれという通りのよい理解が、より広くて重い別の形——“a gap between means and ends”(手段と目的のずれ)——を見えなくしている、というのが総説の主張です。既存研究の批評であって、新しい実測ではありません。

自分の職場が三つの層のどこで止まっているか。手がかりは、日ごろの言い方のほうに出ます。
01「説明はした」で、話が終わっている。層の整理に沿えば、説明会が届くのは掲げた制度の層までで、運用された制度と受け取られた制度は、その外側に置かれます。これは枠組みの整理であって、説明会に効き目が無いと測った調査ではありません。
02掲げた文面を、最後に読んだ日を思い出せない。1977年の理論論文は、正統性を保つために取り込まれた構造が、進行中の活動から切り離されうると論じました。掲げた文面が手元から遠いこと自体は、誰かの怠慢の証拠ではありません。これが理論の枠組みであって、職場を測った結果ではない点も、同じだけ大事です。
03動かない理由を、やる気の話にしている。オランダの2組織で、174名のライン管理者と1,065名の部下に質問紙で尋ねた調査があります。部下から見た実装の良し悪しを最もよく予測したのは能力で、機会はその関係を強め、動機は関係を調整しませんでした——“Motivation did not moderate the effect of ability on performance”。2組織の観察であり、やる気が無関係だと示したのではありません。

誰が調べたのかを置いておきます。現場の上司が要だと報告した調査は、英国の12社——原典が「優良」と呼ぶ企業——の従業員調査で、測ったのは、上司の行動の質と施策への満足が、勤め先と仕事への愛着とどう結びつくかでした。もう一本はオランダの2組織。いずれも質問紙で測った態度と評価であり、制度が成果を生んだことを割り付けて確かめた研究ではありません。数人の職場や個人商店は、この標本に入っていません。
この号が読んだ6点のうち、全文まで読めたのは1点だけで、それが作業論文でした。残りは公開された要旨の範囲までです。のちに書籍の章として刊行された版がありますが、この号が読んだのは作業論文のほうです。三層という整理の強さと、その紙の通った手続きの薄さは、同じ場所に置いておくのが正確です。
三つの層を並べた紙には、
審査を受けていない、と印字してある。
それでも、この枠には使い道があります。掲げた文面と、実際の運用と、受け取られ方を、別々のものとして置けること。出どころの強さを知ったうえで使うなら、確かめる先は一つに絞れます——自分が掲げた文面と、自分の先月の運用です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分が掲げている決め方を一つ選び、その文面をそのまま書き写す。
- 02RECALL
先月それを実際にどう運用したかを、思い出して隣に書く。
- 03MARK
二つを見比べ、同じだった点と違った点に印を付ける。数は数えなくてよい。
掲げることと動かすことは別だ、という見方は、1977年の理論から2012年の総説まで続いています。三つの層に分ける整理は、その続きに置かれた見取り図でした。ただし、それを言葉にした紙は、審査を通っていません。強い枠ほど、どこから来たかを見ておくと、自分の職場に当てはめる幅も、自分で決められます。
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