IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 443
● 12 SEC降格。減給。任せていた範囲を狭める。下げる判断は、たいてい気が重い。だから、手続きさえきちんと踏めば公正になる、と考えたくなります。
けれど、この号が読めた範囲に、降格を公正にする手順書はありませんでした。あったのは、別の場面で積まれた知見です。この号は、下げるやり方も、納得させる言い方も、個別の適法性も書きません。労務や法務の判断は、専門家の領分です。
まず言葉をほどきます。降格は役職や等級を下げること。処遇を下げるには、賞与や手当を減らす、任せる範囲を狭めるといった判断も含まれます。公正は、結果が妥当だというだけでなく、そこに至る過程が納得できることを指します。
この主題では、公正を三つに分けて語られることが多い——結果そのもの(分配的)、決め方(手続的)、伝え方や扱われ方(対人的)。ただし、この号が引いた出典のなかに、この三分法を作った論文はありません。三つを並べて同時に測っているのは、1997年に出た報復の調査です。1990年の史的総説が束ねているのは分配と手続の二つの伝統で、対人的な要素はそこでは、決め方が公正かどうかの判断を左右するものとして置かれていました。

この号が挙げた出典は6点。全文まで読めたものはありません。読めていないものについては書きません。そして、下げる場面そのものを扱った出典は、そのうち2点しかありません。残りは上げる場面や、下げる場面ではない場面で測られたものです。つまりこの号は、上げる場面で測られた知見を、下げる場面へ読み替えています。読み替えていることを、先に断っておきます。
01昇給の場面で、測られていた。1989年に出た調査は、昇給の決定への反応を、結果の公正と決め方の公正の両面から調べたものです。対象は従業員217人、方法は質問紙による調査で、割り付けの実験ではありません。抄録は途中で終わっており、どちらの公正がどれだけ効いたかまでは読めていません。下げる場面で同じように出るかは、この調査からは言えません。
02三つが同時に測られたのは、報復の調査。1997年に出た調査は、製造業の従業員240人を対象に、結果・決め方・扱われ方の三つの公正が絡み合って職場での報復と結びついたと報告しました。原文は “A relation between distributive justice and retaliation was found only when there was low interactional and procedural justice.”——結果の公正と報復の関連が見えたのは、決め方と扱われ方の公正がともに低かったときだった、という限定つきです。質問紙による調査で、因果は言えません。
03見せ方は、実験室の課題で測られた。2014年に出た研究は、報酬を隠すか公開するかという方針のもとで、個人の課題成績と続ける意思がともに低いほうへ出て、その関連は業績給の受け止め方を介していたと報告しました。ただし多ラウンドの実験室実験で、参加者は “The experiment consisted of 280 Israeli undergraduates.”——研究紹介の頁にある記述で、イスラエルの学部生280人です。測られたのは業績給の秘匿方針であって、降格を公表するかどうかではありません。

下げる判断の前に、自分がどの場面の知見に寄りかかっているか。日常の言い方に、手がかりがあります。
01「手続きは踏んだ」で、止まっている。決め方の公正は、三つのうちの一つです。1997年の調査で結果の公正と報復の関連が見えたのは、決め方と扱われ方の両方が低かったときでした。三つのうち二つが欠けていた場合の話であって、手続きさえあれば足りるという話ではありません。
02上げる場面の話を、そのまま当てている。この号が引いた三本のうち、下げる場面を測ったものはありません。昇給の決定、職場の報復、報酬の秘匿——いずれも別の場面です。読み替えは避けられませんが、読み替えていると気づいているかどうかは、別の問題です。
03伝える範囲を、決めた後に考えている。見せ方を測った研究は、実験室の課題の話でした。そこから先、黙って下げるか人前で下げるかを結果の後回しにすると、決め方と扱われ方が設計から外れる——ここは研究が答えを出した場所ではなく、この号の読み筋です。

下げる場面の研究が細いのは本当です。この号が手がかりにした1965年の論文は、降格を正面から扱ったものですが、到達できたのは書誌まででした。中身は読めていないので、そこに何が書かれていたかは書きません。
ただし「半世紀前で止まっている」は言いすぎでした。読めた範囲に、2021年に出た一本があります。スウェーデンの公的部門で中間管理職140人を2年・3時点で追った研究で、管理職としての地位を失うことは仕事への態度に負の向きで出た一方、心の健康のほうは仕事の要求が減ることを介し、時間とともに良い向きに出たと報告されています。希望しない役割になった場合の負の効果は “mediated through lower procedural justice of the change”——変更手続きの公正の低さを介していました。経路モデルによる分析で、因果は言えません。
下げる場面の手順書は、まだ読めていない。
あるのは、別の場面から借りた三つの面。
だから、この号は「こうすれば公正になる」とは書きません。賃下げや降格のやり方も、納得させる言い方も、個別の適法性の判断も、この号の外にあります。書けるのは、下げる判断を自分で検算するときに、どの面が抜けやすいかまでです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
自分が過去に下した、または将来下しうる処遇の引き下げを一つ、今日の日付とともに書く。
- 02SORT
結果・決め方・伝え方・見せる範囲の四つに分けて、それぞれ一〜二文で書く。
- 03MARK
書けなかった面に印を付ける。相手の反応を探る必要も、誰かを格付けする必要もない。
下げる場面の公正について、確かめられた手順は、この号が読めた範囲には無い。あるのは、昇給の場面で測られた反応と、製造業の職場で測られた報復と、実験室の課題で測られた見せ方。どれも、下げる場面そのものではありません。手順書が無いと知っているほうが、雑な手続きを「これで公正だ」と思い込むよりは、遠くまで行けるはずです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「降格・処遇を公正にするには?」を、もっと深く学ぶ。→