IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 442
● 12 SEC賞与に差をつければ、頑張った人が報われる。数人の一時金を決める側に回ると、いくら差をつけるかが問題の中心に見えてきます。
けれど、その差が成績と結びつくかを正面から測った報告を並べると、向きが揃いません。しかも向きの違う2本は、1本がプロのアイスホッケーの記録、もう1本も参考文献の並びからプロの競技の記録に基づくとされるものです。この号が読めたのは、6点すべて公式の抄録まで。読めていないものについては書きません。
賞与は、月々の給与とは別に配る一時金のこと。差をつけるとは、その配分に人ごとの高低を設けることです。研究では、人と人のあいだの賃金の広がりをペイ・ディスパージョン(pay dispersion=賃金の分散)と呼びます。総説の1本は、この語の中身がはっきりしないことを、結果が一致しない理由に挙げ、職務と職務のあいだの縦の差と、同じ職務の中の横の差は、成り立ちも動き方も別物だと書いています。

では、差は成績と結びついたのか。抄録まで読めた範囲に、三つの報告が並びます。どれも賞与の金額そのものではなく、職場の中の賃金の広がりを測ったものです。
01差の小さい側に、成績はついていた。1999年の論文は、個人と組織の成績を観測・測定できる現場調査だと述べ、“more compressed pay dispersions are positively related to multiple measures of individual and organizational performance”(圧縮された分散ほど、個人と組織の成績の複数の指標と正の関連)と報告しました。個人と組織で向きが違うのではなく、どちらも同じ向きです。標本は抄録にも題名にも印字がなく、参考文献の並びからプロの競技の記録に基づくとされます。観察された関連であって、差を縮めた実験ではありません。
02有害だという論は、心配を大きく見ていた。2012年の論文は、支え合って働く場では分散は成績に有害だとほぼ一様に論じられてきたとしたうえで、“these arguments often confound inequality with inequity, thereby overestimating inequity concerns”(それらの論はしばしば不平等と不公正を取り違え、不公正への懸念を過大に見積もる)と書きます。人を惹きつけ、つなぎとめるために生じた分散だけがチームの成績と正の関連で、それ以外は関連なしか負の側。標本はプロのアイスホッケーです。
03結びついたのは、条件のそろった事業所。2002年の論文は、トラック運送業とコンクリート管製造業の質問紙調査で、賃金の分散と、事故率・安全違反・生産性という事業所の指標との関係を調べました。おおむね支持されたのは対になった二つの予測です。個人の成果に報いる仕組みがあって仕事が独立しているときは差のほうが、その仕組みが無く支え合う仕事のときは差の小ささのほうが、事業所の指標と結びついていました。

ここまでを自分の職場へ持ち出すとき、立ち止まる場所が三つあります。
01同じ語で、別のものを数えている。総説の1本は、賃金の分散をめぐる結果が一致しない理由を、語の中身のはっきりしなさに求め、測り方をめぐる懸念も指摘します。職務と職務のあいだの縦の差と、同じ職務の中の横の差は別物です。自分の職場の「差」がどちらなのかを決めないまま、結論だけを借りることはできません。
02理論の予測を、確かめた結果と読まない。2012年のもう1本は、管理職ではない従業員の報酬を扱い、社会的比較と過信という心理的コストから、チーム単位・勤続に基づく・よりフラットな体系がより多く使われるはずだと予測する理論の枠組みです。実証への含意を論じる段階だと原著自身が書いています。リスクを避ける行動ではなく、過信のほうです。
03原著が置いた留保を、落とさない。不公正への懸念は過大に見積もられていると述べたその論文は、末尾で“Curvilinearity tests reveal potential constraints on the sorting argument.”(曲線性の検定は、その論に制約がありうることを示す)とも書きます。擁護する側が、自分の論の効く範囲を自分で狭めています。差が何のために使われた分散なのかで結果が分かれる、というその枠組み自体に、原著が制約を認めた形です。

この号が読めたのは、6点すべて公式の抄録まで(総説2本は本文の冒頭も)。方法の節に届いていないので、人数も、期間も、分散の測り方も書けません。標本は、2本がプロの競技の選手とチーム、1本がトラック運送業とコンクリート管製造業の事業所で、残る3本は総説と理論の枠組みです。プロの競技という標本も、一方は参考文献欄から分かるもので、もう一方は参考文献の並びからそうとされるものです。
向きの違う2本のうち、1本の標本はプロのアイスホッケー、もう1本もプロの競技の記録に基づくとされること。ここはそのまま残しておきます。そこで見えた関連を、数人のチームの一時金へ持ち出せるという根拠は、読めた範囲にはありません。「理由の見えない差は、隣との比較になって意欲を削る」という言い方も、この号の読み筋です。抄録の範囲で近いのは、社会的比較を心理的コストに挙げた理論の枠組みと、不平等と不公正を分けよという指摘まで。
1本はプロのアイスホッケーの記録、
もう1本は、そうとされる記録。
4本目の総説は、従業員の受け取り方という観点から研究を整理し、四つの分散の型と、衡平理論・期待理論・トーナメント理論という三つの理論で統合したと述べています。「正当性」に当たる語は、読めた範囲には出てきません。差の効き方を一語でまとめる言葉は、まだ手元にないということです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分が決めた(決めようとしている)処遇の差を一つ選び、今日の日付を書く。
- 02LABEL
その差が何に基づく差かを、一行で書く。金額は書かない。
- 03MARK
その仕事が一人で完結するか、支え合うかを、二択で記す。
読めた範囲でいちばん確かだったのは、差が大きいか小さいかより、どういう差なのかで報告が分かれる、ということでした。向きの揃わない2本の標本が、一方はプロのアイスホッケー、他方はそうとされる記録であることも、条件つきの1本が対になった二つの予測を事故率・安全違反・生産性という事業所の指標で測ったことも、そのまま持って帰るほうが正確です。一般の職場の賞与について、この号が答えを持ち帰ったわけではありません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「賞与で差をつけるには?」を、もっと深く学ぶ。→