IN PEOPLE SYSTEMS · ISSUE 441
● 12 SEC「何をどれだけ満たせば上がるのか」を、先に言葉にして示す。昇進の基準の透明化は、公正のためにいちばん思いつきやすい手です。半分は正しい。ただし——全文まで読めたのは6点のうち0点で、読めたのは公式の抄録まで。読めていないものについては書きません。
先に、書かないことを置きます。抄録まで読めた6本のうち3本は、データを集めた実証ではなく理論モデルでした。だからこの号は、基準を透明にすると昇進が公正になるかを測った結果は書きません。書けるのは、昇進という仕組みについて抄録に印字されていたことだけです。
昇進は、いまの等級や役職より上の位置へ人を上げること。基準を透明にするとは、何をどれだけ満たせば上がるのかを、あらかじめ言葉にして示すことをいいます。専任の人事担当がいる会社の話とは限りません。数人のチームで誰にまとめ役を任せるかを決める人も、家業で次の役割を渡す人も、ここでいう決める立場にいます。一人で全部を決めているなら、透明にする相手は、まず自分自身になります。

抄録まで読めた6本が扱っていたのは、透明化そのものの効き目ではありませんでした。数字を持つ実証は2本で、標本はそれぞれ別のもの。1本は三十年を見渡した総説、残る3本は数式で書かれたモデルで、データを持ちません。並べ方も、その別のままにします。
01競争者が増えるほど、賞は大きかった。上場企業の役員報酬のデータを使った2001年の研究。ほとんどの職位は昇進で埋まり、賃金は階層が上がるほど強く上がる。トップの座をめぐる候補が増えるほど、勝者に出る賞も大きくなっていた。ただし同じ抄録に "Not all evidence is supportive"(すべての証拠が支持的なわけではない)とあり、候補者数の二乗は賞と負の関連にありました。役員報酬の話で、数人の組織へ持ち越せる数字ではありません。
02決め手は相対の成績、という示唆だった。米国の4つの大都市圏の事業所を横断して集めた、熟練労働者の標本。2006年の研究は、昇進が働き手どうしの相対的な成績で決まっていることを示唆する証拠を示し、そのうえで、勝ち抜き戦(トーナメント)としての昇進を式に起こした構造モデルを推定しました。結果はその予測と整合的だった、というところまで。前の点の役員報酬とは別の標本で、ひとつの主語にはまとめられません。
03三十年の総説は、枠組みの整理だった。2014年の総説は、絶対の出来高ではなく相対の順位で報酬が決まる場面の行動を説明する枠組みとして、昇進の競争・技術提案の競争・加盟店どうしの競争などに使われてきた三十年を見渡しました。概念が曖昧になってきたので基礎概念を統合する、という趣旨の論文で、個々の効果や副作用を測った研究ではありません。

基準を透明にしても、その外側に残るものがあります。抄録に印字されていた範囲で、三つ。ピーターの法則——人は無能になる段階まで昇進する、という言い方——も、ここでは数式の中の条件つきの話として出てきます。いずれもあなたの職場で測られた結果ではありません。
01ご褒美と配置が、同じ物差しに乗る。2001年のもう1本は、データを持たない理論モデルです。働き手が危険中立なら、昇進を誘因に使っても配置は歪む必要がない。歪みうるのは危険回避的な場合に限られ、向きは、効率より多く上げる側——ピーターの法則の効果——にも、少なく上げる側にも開く。モデルの中の話で、実際の組織で数えられた頻度ではありません。
02甘さと中心寄せは、前提として置かれた。2012年の論文は、上司が部下を甘めに付ける偏りと、同じ上司の評価が部下の間でほとんど散らばらない偏りを、"a well-established fact"(確立した事実)として先行研究から受け取っています。この論文自身の仕事は、その二つを不平等回避という考え方で説明する理論モデルを立てたことで、偏りの発見ではありません。
03賃金は、地位のほうに張り付く。1999年の理論は、職務への配置・人的資本の獲得・学習を一つの枠組みに束ねると、企業内の賃金と昇進について知られていた事実をいくつか説明できる、と述べます。実質賃金の低下はまれではないが降格はまれ。昇進は大きな昇給と結びつくが、その幅は階層間の平均賃金の差に比べれば小さい。これも数式の上の枠組みです。

6本とも、読めたのは公式の抄録まででした。だから抄録の外に書かれていることは書けません。三十年の総説が競争の副作用をどう扱っているかも、この号では確かめられていません。足の引っ張り合いや無謀な賭けが起きるかどうかは、それを測った研究に当たるまで書きません。
標本の外挿も断ります。役員報酬のデータは役員の話、4つの大都市圏の熟練労働者は米国のその標本の話であって、そのまま日本の小さな組織の昇進に移せる数字ではありません。理論モデル3本は数式の上の話で、実際に起きる頻度を測ったものでもありません。人事や労務の判断は社会保険労務士・弁護士といった専門家の領分で、この号がその代わりになることはありません。
透明にできるのは、物差しの目盛りまで。
読み方は、目盛りの外に残る。
これは、どれかの論文が測って出した結論ではありません。6本の抄録を並べたうえでの、この号の読み筋です。基準を透明にしても意味がない、という話でもない。透明にした基準は、少なくとも、後から自分の決め方を検算するための手がかりとして残ります。
TRY IT TODAY
- 01LIST
自分が過去に下した、または下そうとしている昇進や登用の判断を一つ選び、そのとき掲げていた基準を箇条書きで書く。
- 02WRITE
実際に自分の決め手になった要素を、別の欄に正直に書き出す。人の名前は書かず、要素だけを書く。
- 03MARK
二つを見比べ、「基準にあったが見なかった要素」と「基準に無かったが効いた要素」に印を付ける。
基準を透明にすると、何が決め手だったかを後から言葉にできるようになります。そこまでは、たしかに透明化の仕事です。その先——目盛りをどう読むか、限られた椅子をめぐって何が起きるか、賃金と地位がどう張り付いているか——は、抄録まで読めた6本のうち3本が、まだ数式の中で扱っている段階にあります。入口に立つことと、部屋の中を見通すことは、別です。
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