IN ACCOUNTING · ISSUE 430

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

記録した数字を、経営の判断へ届ける——月次報告は、そのための道具です。締めた数字を表にまとめ、経営者へ、あるいは自分へ渡す。届けば読まれ、判断に使われるはずだ。この筋書きには、静かな飛躍があります。

この号は、届けたことと使われたことを分けて見ます。先に断っておくと、「作った報告の何割が読まれないか」を測った研究は、この号が読めた範囲にはありません。「多くは読まれない」という言い方は、割合の測定ではなく、編集上の要約です。

管理会計(経営の判断のために、社内向けに作る数字の会計)には、古くからの論点があります。作り手が「これが要るはずだ」と思って作る情報と、受け手が判断に使いたい情報が、食い違う。2003年の研究は、同じ組織にいる管理者と作り手の双方に尋ね、その認識を突き合わせました。副題は「管理者と会計担当者の認識の比較」。報告されたのは、作り手と使い手のあいだの認識のずれです。

ただし著者自身が、射程を狭く宣言しています——“exploratory and inductive in nature, based on a small sample of companies”(探索的で帰納的な性格であり、少数の企業に基づく)。一般化には限界がある、と書き添えられています。標本の数と国は、読めた範囲の公式の記載にはありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
作り手が要ると思う情報と、使い手が判断に使いたい情報。2003年の研究が突き合わせたのは、その二つの認識でした。 Visual: ALIFE

では、判断に使われているのは何か。当たった6点のうち、全文まで読めたのは2点で、読めていないものについては書きません(要約まで届いたのが3点、要約にも届かなかったものが1点)。読めた3点は、測った研究・命題を立てた論文・総説と、性格がそれぞれ違います。

01日々の必要には、非公式の情報源が他を圧していた。1993年のフィールドスタディ(現場に入って聞き取る設計)の公式の要約はこう書いています——“Informal sources of information dominate other sources of information for day-to-day needs.”(日々の必要については、非公式の情報源が他の情報源を圧している)。同じ要約は、視野が長くなるほど財務の情報の重みが増すこと、多くの管理者が自前の情報のしくみを作っていることも併せて報告しています。企業数と管理者数の印字はありません。

02「話し言葉を通じて」は、測定ではなく命題として置かれた。2010年の論文は、自前の実証データを持ちません。“In this paper I draw on prior research to develop a series of propositions”(本稿では先行研究を束ねて一連の命題を立てる)と宣言する概念論文です。立てられた命題は、会計情報は特定の判断の入力というより仕事の環境についての知識づくりに使われること、他の情報源との相対で見るべきこと、そして書かれた報告よりも話し言葉を通じて経営の仕事に入り込むこと。命題であって、測られた結果ではありません。

03網羅が新しい見取り図づくりと結びついたのは、特定の条件のときだけだった。2011年の郵送の質問紙は、オーストラリアの製造業で事業単位を預かる管理者369人へ送られ、83人が回答しました(回収率22.5%)。網羅的な業績測定のしくみと、新しい見取り図(メンタルモデル=物事の関係のとらえ方)の構築との関連が認められたのは、在籍年数の短い層(β=0.304)と小さな事業単位(β=0.524)だけ。βは0なら関連なし、大きいほど強い関連という係数です。同じ質問紙は、手持ちの見取り図を確かめる働きとは条件なしに結びつき(β=0.431)、確かめる働きも新しく作る働きも管理者の業績と正の関連にあった、とも報告しています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
測った研究、命題を立てた論文、総説。三つは同じ強さの証拠ではありません。 Visual: ALIFE

以下は研究が命じた見分け方ではなく、ここまでの3点と自分の手元を突き合わせるための、ALIFEが提案する観察の枠です。

01その数字を誰が何に使うか、一行で書けない。2003年の研究が突き合わせたのは、作り手の認識と使い手の認識でした。ずれは、作り手の努力不足としてではなく、両者の認識の差として報告されています。使い道が一行で書けないときは、自分の中でその差が起きている可能性がある、というところまでが言えます。

02「毎月きちんと出している」を、成果として数えている。届けた回数は、使われた回数ではありません。1993年の聞き取りが日々の必要について報告したのは、非公式の情報源の優位でした。公式の報告がどれだけ判断に使われたかを測った数字は、この号が読めた範囲にはありません。数えているものが回数だけなら、そこは空欄のままです。

03読まれない理由を、項目の不足に求めている。2011年の質問紙では、在籍年数の長い層(β=0.193)と大きな事業単位(β=−0.219)で、網羅的なしくみと新しい見取り図の構築との関連は統計的に有意ではなく、原典はこれを“has no effect”(効果は無い)と書いています。足せば届く、という向きは、この観察からは支持されていません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
一行で書けない・回数で数えている・足す方向で直している。三つとも、手元で確かめられます。 Visual: ALIFE

2011年の論文の表題は「助けるのか、妨げるのか」という問いの形ですが、「妨げる」に当たる測定結果は本文にありません。条件が合わない層では関連が有意でなかった、までです。在籍年数の次元は群と群の差そのものが有意ではなく、規模の次元だけが差として有意でした。割り付けのある実験ではなく、答えた人の自己申告による観察です。

そして規模の断りを一つ。ここで挙げた研究は、経営者と作り手が別々にいる組織を見ています。作る人と読む人が同じ一人である商いには、そのまま当てはまりません。 万能の型の話も同じで、2003年の総説は“a critical review of findings from contingency-based studies over the past 20 years”(文脈に依る研究の20年の批判的な整理)として、環境・技術・規模・構造・戦略・国の文化に照らして設計が検討されてきたと書いています。

読めた範囲で言えるのは、ここまで。
届いたことは、使われたことの証拠ではない。

だから着地は、報告をやめることではありません。誰が、いつ、何の判断に使うのかを先に一つ決める——そこまでは、手元で今日できます。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付を書く。自分の月次の数字を一つだけ選ぶ——売上でも、経費のどれかでも、残高でもよい。

  2. 02WRITE

    作る前に「この数字を、(誰が)(いつ)(何の判断に)使う」の三つの空欄を埋め、一行で書く。

  3. 03RECORD

    一行が書けたか書けなかったかを、一言だけ記録する。他人が読んだかどうかは見に行かない。

10分。日付と一行と、書けたかどうかのメモを残すだけの記録作業です。一人で全部を回している場合は、使うのは未来の自分だと考えて同じ一行を書きます。これは研究が示した手順ではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。帳簿や税務の取り扱いの判断は、税理士・公認会計士など専門家の領分で、この記録が代わりになるものではありません。

読めた範囲で確からしくなったのは、「届ければ活きる」ではありませんでした。日々の必要は非公式の情報源に支えられ、網羅が新しい見取り図づくりと結びつくのは条件が合ったときだけで、確かめる働きとは条件なしに結びつき、良い設計は文脈に依ると整理されている。そのどれも、あなたの一枚が読まれることを保証しません。

保証の代わりに残るのは、一行です。この数字を、誰が、いつ、何の判断に使うのか。書けたなら、届ける形はそこから決まります。書けなければ、まだ厚くする段ではない——というのが、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「数字を経営に届けるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。