IN ACCOUNTING · ISSUE 424
● 12 SEC締めた数字が合わない。数字を写し間違える、式が拾う範囲が一行ずれる、行をひとつ飛ばす。悪意はどこにもないのに、合計だけが合わない。そこで出てくるのが、「ダブルチェックすればミスはなくなる」という言い方です。
この号は、会計ソフトの選び方も、税や法務の判断も書きません。書くのは、締めの主役である表計算の誤りを数えた研究が、何を、誰で、どの分母で測ったかです。点検を勧める号でも、やめようと言う号でもありません。
コード・インスペクション(ソフトウェアの分野で、複数人が一行ずつ読み合わせて誤りを探す点検の手法)を表計算に当てはめた実験が、1999年に出ています。情報システムを学ぶ学部生60名が、誤りを8つ埋めた1枚の表を点検しました。まず一人で。次に3人組20組に分かれ、同じ表をもう一度。
見つかった割合は、一人で63%、三人で83%。分母は、埋めておいた8つの誤りです。どちらも参加者がどれだけ見つけられたかの割合であって、実務の締めに残る誤りの割合ではありません。ここだけを見れば、ダブルチェックは効いたように見えます。

ところが同じ要旨は、そのすぐあとに別のことを書いています。上がった分の中身です。
この実験は、締めの現場ではありません。誤りをあらかじめ8つ埋めた1枚の表を、学ぶ側の人が、点検だけのために読むという設計です。それでも見どころがあるのは、二人目・三人目が何をしたのかが、そこで分けて数えられているからです。
01三人の段階で、新しい誤りは出なかった。要旨はこう書きます——“the group phase never found new errors; it merely pooled the errors found during the individual phase”(集団の段階は新しい誤りを見つけず、一人ずつの段階で見つかった誤りを束ねただけだった)。63%から83%への上がりは、三人が別々に見つけた分の合算でした。
021組は、見つけた誤りを失った。“One group even ‘lost’ an error found during the individual phase”(ある1組は、一人の段階で見つけた誤りを失いさえした)。著者は続けて、集団での点検の段階が本当に必要なのかという問いを立てています。ただしこれは20組のうち1組の出来事で、頻度の印字は要旨にありません。
03見つけにくい誤りほど、三人の利点は大きい。同じ要旨は、一人で点検したとき被験者は自信過剰だったこと、特に見つけにくい種類の誤りがあること、そして集団の段階の利点はその見つけにくい種類で最も大きかったことも書いています。放棄の側の結論にはなりません。

実運用の表のほうは、別の研究が外から数えています。現に業務で使われている表を、研究者が点検の手順に沿って読み、誤りらしき箇所を作成者に確かめてもらう——そういう数え方です。数え方が違えば、同じ「誤り」という語でも指すものが変わります。自分の見方が、そこで測られた形とずれていないか。
01「式の5%に誤り」を、そのまま信じている。実運用の表50枚に点検の手順を当てた2009年の研究は、その定説を原典の側から値切ります——“this estimate is based on five studies, some of which are quite informal, and a total of only 43 spreadsheets”(この見積もりは5つの研究に基づき、一部はかなり非公式で、合計43枚にすぎない)。実測は式の入ったマス目の0.9〜1.8%で、表ごとに大きく異なる。
02見つかった誤りは、全部が金額に響くと思っている。5つの組織の実運用の表25枚で金額への影響を見積もった別の2009年の研究では、潜在381件のうち作成者が誤りと認めたのは117件(31%)。そのうち47件(40%)は金額への影響が無く、最大の誤りは1億ドル、25枚のうち9枚は誤りがゼロでした。
03誤りが「あるかないか」を、確かめようとしている。1998年の整理は、“errors seem to occur in a few percent of all cells”(誤りは全マス目の数パーセントに起きるようだ)と書き、大きな表では問題は誤りが何個あるかであって、あるかどうかではない、と続けます。分母は式ではなく、表の全マス目です。同じ整理は、表づくりが非公式に進みがちで、包括的な方針を持つ組織は少ないとも書いています。

出どころを並べます。63%と83%は、学部生60名が、誤りを8つ埋めた1枚の表を点検した実験の値です。0.9〜1.8%や31%・40%は、研究者が外から点検した実運用の表を数えた値で、50枚と25枚という別々の標本。どちらも、小さな商いの月次の締めを数えたものではありません。国や業種の印字は、読めた範囲にありません。
全文まで読めたのは、6点のうち0点。要旨までが5点、残る1点は書誌だけで、読めていないものについては書きません。点検を入れれば締めのミスが減ると読める効果の検証も、読めた範囲にはありませんでした。
三人の段階が束ねたのは、
一人ずつが見つけた分だった。
過信と放棄の、あいだに立つのが正確でしょう。1994年の会議録の論文は、点検ではなく作成の側で、一人・2人組・4人組を比べ、集団での作成が誤りをどの程度減らしたかを論じています——ただし、減った量の印字は要旨にありません。減る向きで測られた報告はある。ゼロになる、とは書かれていない。
もうひとつ。一人で締めている人には、そもそも三人目がいません。三人で見たという条件が成り立たない場面へ、83%という値を持っていくことはできません。実験が数えたのは、三人が別々に読んだあとで持ち寄った場合の割合です。
TRY IT TODAY
- 01OPEN
直近の締めで使った表を開き、紙かメモに今日の日付を書く。
- 02TRACE
手で数字を打ったマス目をいくつか選び、その値がどの資料のどの数字から来たかを書き写す。
- 03COUNT
合計や集計の式を数件選び、拾っている範囲を書き出して、辿った件数を数える。
三人の段階がしたのは、足し算でした。束ねれば、見つかった数は上がる。その上がりを「二人目・三人目が、新しく見つけた」と読み替えたとき、実験が書いたのとは違う向きの話になります。実運用の表を外から数えた研究のほうも、誤り率は表ごとに大きく異なると書き、25枚のうち9枚は誤りがゼロでした。ひとつの割合を自分の表に当てはめる、という読み方もできません。この号が確かめられたのは、そこまでです。
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