IN ACCOUNTING · ISSUE 425
● 12 SEC内部統制を整えれば安心だ、と言われます。枠組みも基準も本物です。米国の民間の委員会がまとめた枠組みは1992年に出て2013年に改められ、日本でも2023年に基準が改訂されました。ただ、制度が在ることと、その効果が測られたことは、同じではありません。
この号は、会計ソフトの選び方も、税や法務の判断も書きません。書くのは、内部統制の効果を数えた研究が、誰を、何の単位で測ったかです。数えられていたのは、米国の上場企業の、お金の量でした。
内部統制とは、帳簿の数字が正しく作られ、資産が勝手に持ち出されないように、仕事の流れのなかに組み込んでおく仕掛けのことです。お金を動かす人と、記録を付ける人と、残高を確かめる人をできるだけ分ける職務分掌も、その一つ。一人で回しているなら、人ではなく日を分ける、という置き換えになります。

枠組みの側も見ておきます。米国の民間の委員会がまとめた文書は、有効な内部統制は五つの構成要素からなるとし、その下に17の原則を置いています。査読を経た研究ではなく、団体が定めた枠組みです。
日本では、金融庁の審議会が2023年4月7日の意見書で基準を改訂しました。上場会社向けの制度が2008年4月1日以後に始まる事業年度へ適用されてから15年余り。改訂後の基準は2024年4月1日以後に始まる事業年度から適用されます。ここまでは要件の話で、効果の話ではありません。
01正味では、市場価値が下がっていた。2010年の研究は、公開された時価総額が7,500万ドル未満の米国の上場企業は内部統制の監査への対応を遅らせられた、という制度の切れ目を準実験として使いました。対応は保守的な利益計上に結びついた一方で現実の費用も課し、正味では小企業の市場価値が下がったと結論しています。無作為の割り付けではなく、制度の線引きによる比較です。
02免除の得と損は、ドルで数えられた。2017年の研究は、内部統制の監査を免除された米国の上場小企業を調べ、2007〜2014年の監査報酬の節約を合計3億8,800万ドルと測りました。費用の側は、是正しなかったことによる営業成績の低下が合計7億1,900万ドル、有効でない統制を開示しなかったことによる時価総額の下落の遅れが9億3,500万ドルです。
03節約は全員に、損は一部の株主に。同じ2017年の研究は、監査報酬の節約は免除された企業すべての株主に及ぶ一方、費用は誤って報告した一部の企業の株主だけが負う、と書いています。三つの金額はそれぞれ別に測られた量で、足し合わせて差し引きした値ではありません。

米国の証券当局への提出書類で、重要な不備を一つ以上開示した261社を調べた2005年の研究があります。不備と結びついていたのは、多くの場合、会計の統制に割く資源の不足でした。出ていた場所も、具体的です。
01収益の認識と、期末の手順。重要な不備が結びついていた場所として挙がるのは、収益の認識の方針と、期末の報告の手順および会計方針でした。込み入っていて、人手のかかるところです。
02分ける役が、無いところ。同じ研究は、職務分掌の欠如と、勘定の照合が適切でないことも挙げています。人を疑う話ではなく、確かめる目が挟まっていない場所の話です。
03売掛金や在庫、複雑な勘定。勘定別で最も多かったのは売掛金や在庫といった経過勘定で、デリバティブや法人税のような複雑な勘定の問題もしばしば記されていました。開示は事業の複雑さと正の関連、企業の規模・収益性とは負の関連でしたが、観察された関連であって原因ではありません。

ここまでの数字は、すべて米国の上場企業のものです。証券当局へ提出する書類と、公開された時価総額が土台にあります。自分で帳簿を締める商いや、部門の数字を見る立場の人が、同じ費用や同じ効果を受け取るという話ではありません。全文まで読めたのは6点のうち2点で、研究の4本は要旨の範囲までです。読めていないものについては書きません。
費用の側だけが強い、とも言えません。会計・ファイナンス・法の120本を超える研究を検討した2014年の総説は、直接費用は相当で小さな会社に不釣り合いに重くかかったが時とともに下がった、と書きます。同時に、関係者への調査は財務報告上の便益を示唆し、報告の質は上がったように見えるものの因果の帰属についての研究は弱い、とも書く。正味の社会厚生については決着していない、というのがこの総説の結びです。
“On net, SOX compliance reduced
the market value of small firms.”
正味では、SOXへの対応は、
小企業の市場価値を下げた。
2010年の研究の、結びの一文です。制度の切れ目を使った比較であって、無作為に割り付けた実験ではありません。日本の審議会の意見書のほうは、この制度が財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えられる、と書いています。測られた向きは、一つではありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモに今日の日付を書き、自分の商いでお金が動く流れを一つ選ぶ。
- 02SPLIT
その流れを「記録する」「動かす」「確かめる」の三つに分け、いま誰がいつ行っているかを書き写す。
- 03MARK
三つが同じ人、または同じタイミングに集まっている箇所に印を付け、件数を数える。
便益は起きなかったことだから測れない。そう言いたくなります。けれど免除の側から見れば、節約も、成績の低下も、時価総額の下落の遅れも、金額で数えられていました。測れなかったのではなく、測られたのが上場企業のお金の量だった、と読むほうが、読めた範囲には合います。身の丈のほうで書けるのは、お金を動かす記録と、確かめる記録を、人か時で分けるところまでです。
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