IN ACCOUNTING · ISSUE 423
● 12 SEC不正を防ぐ話には、たいてい一つの数字が付いてきます——組織は毎年、売上のおよそ5%を不正で失う。対策をどこまでやるかを決める根拠として、この数字が置かれます。
この号は、不正の防ぎ方も、手口も書きません。書くのは、その5%がどこから来た数字か、そして「仕組みさえ入れれば防げる」という言い方が何を支えにしているか、です。全文まで読めたのは6点のうち1点。読めていないものについては書きません。
出どころはたどれます。公認不正検査士(不正を調べる資格を持つ専門家)の団体が、定期的に出している報告書です。これは査読を経た研究ではなく、業界団体が会員に尋ねた調査で、数字は回答者の自己申告にもとづく推計。到達できた2026年版には、こう印字されています——“CFEs estimate that organizations lose 5% of revenue to fraud each year”(公認不正検査士は、組織が毎年、売上の5%を不正で失うと見積もっている)。

報告書が実際に数えたものは、この5%とは別枠です。調査は2025年7月から9月に行われ、回答者は自分が調べたもっとも大きな1件を記述するよう求められました。総回答10,276件のうち集計に使われたのが2,402件、143の国と地域にまたがります。報告書が「中央値」と断っているのは損失額のほうで、1件あたりの中央値は104,000ドル、平均は1,457,000ドル。5%がどの設問からどう算出されたかを説明する一文は、読めた全文の中にありません。
01見積もったのは、調査に答えた専門家。2026年版に印字されているのは、資格を持つ専門家がそう見積もっているという一文です。報告書自身も、不正には欺きと隠しが伴うため“the true prevalence and extent of fraud may never be fully measurable”(不正の真の広がりと程度は、完全には測れないかもしれない)と書いています。分母は社会全体ではなく、調査に答えた人たちの見立てです。
02三つの要素は、1953年の著作にさかのぼる。不正が起きるには動機・機会・正当化の三つがそろう、という見方は、1953年に出た横領の社会心理の研究書にさかのぼります。fraud triangle(不正のトライアングル)という呼び名のほうは後年の会計・監査の文献で広まったもので、2012年の系譜の整理も、この三角形を既にある枠組みとして扱い、その先へ拡げる議論をまとめています。1953年の著作は書誌までしか届かず、本文は読めていません。
0337人は、いずれも誰かと組んでいた。2014年に会計の査読誌へ出た研究は、有罪判決を受けた37人への帰納的な面接を報告しています。いずれの事案も、2人以上の共犯による犯行でした。取り出されたのは絆の三類型——個人に利する機能的な絆・組織に利する機能的な絆・情緒的な絆——で、著者らの結論は、個人を前提にした分析から集団に感応するリスク評価へ、という向きです。

自分がいま、どの数字に寄りかかっているのか。手がかりは、日々の言い方のほうに出ます。
015%を、自分の商いの実測として使っている。その5%は、団体の調査に答えた専門家の見積もりで、読めた全文に算出の説明はありません。報告書自身が、不正の真の広がりは完全には測れないかもしれないと断っています。自分の商いで実際に何がいくら動いたかは、この数字からは出てきません。
02仕組みを入れたから、もう大丈夫だと思っている。三つの要素の枠組みが並べているのは、動機・機会・正当化がそろうということまでです。分掌やチェックリストが手をかけられるのは、このうち機会の側だ——というのが、この号の読み筋で、出典がそう測ったわけではありません。
03分けられないことを、自分の怠慢だと思っている。職務分掌は、分ける相手がいて初めて組めます。申請・承認・記録・出納を別々にせよと言われても、一人で回していれば物理的に組めない。これは規模の制約です。全文まで読めた1点にも、要旨まで読めた3点の要旨の範囲にも、小さな商いで分掌を組んだ効果を測った記述はありません。

読めた範囲を先に置きます。6点のうち全文まで届いたのは団体の報告書1点、要旨まで3点、書誌だけが2点。1953年の著作は貸出が限られ、本文は読めていません。三要素の原文の言い回しも、呼び名がいつ付いたかも、原典では確かめていません。不正の類型を比べた2005年の研究も書誌だけなので、その比較の中身はこの号に書いていません。
もうひとつ。「共謀は職務分掌を無力化する」という言い方は、37人の研究の中にある言葉ではありません。原著が置いたのは共謀の絆の三類型と、個人を前提にした見方から集団に感応する評価へ、という提案です。そこから分掌の前提が崩れると読むのは、この号の読みであって、原著の主張ではありません。不正研究を統合した総説のほうも、監査人が不正のリスクをどう評価するかを軸に整理したもので、小さな商いの手続きを測ってはいません。
5%は、誰かが数えた被害率ではなく、
調べる人たちが見積もった数字。
だから、対策の大きさをこの5%から逆算することはできません。できるのは、自分の商いのどこが一人で完結しているかを、記録の上で確かめることです。誰かを疑うためではなく、いまの形を知るために。
TRY IT TODAY
- 01LIST
お金や物が動く手続きを、思いつくだけ書く。仕入れ、入金の処理、立替の精算、備品の購入など。
- 02SORT
手続きごとに、申請・承認・記録・出納の担い手が同じか違うかを書き分ける。一人で回しているなら、すべて自分と書く。
- 03COUNT
一人に集まっている手続きに印を付け、その件数だけを書き添える。誰かを観察したり、格付けしたりはしない。
不正を防ぐ枠組みも、それを説く資料も、実在します。読めた範囲で足りていないのは、その説得に添えられる相場の数字の裏づけのほうでした。5%は、調べる人たちが見積もった数。1953年の著作にさかのぼる三要素は、機会のほかに動機と正当化がある、と並べているだけです。そろっていないから起きていないのか、まだそろっていないだけなのか——そこは、相場の数字の側からは見えません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「不正の芽を摘むには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

