IN ACCOUNTING · ISSUE 422
● 12 SEC領収書、請求書、納品書、契約書——取引があったことを、あとから確かめられる形にした書類を証憑(しょうひょう)といいます。これをどう残すか、と尋ねると、返ってくる答えはたいてい一つ——「電子にしておけば安心」。
この号は、何が適法かを判定しません。書くのは二つだけです。国内の制度が要件として言葉にしていることと、電子化と税務の関係を測った研究がどこの誰を標本に、何を測ったのか。同じ「電子化」という言葉で呼ばれていても、この二つは別の話でした。
国内の証憑の保存には、二つの公式の枠組みが関わります。ひとつが電子帳簿保存法で、国税庁はこれを電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引の三つに分け、区分ごとに情報を出しています。分かれ目は、その書類がどう手元に来たかです。はじめから自分が電子で作った帳簿か、紙で受け取ってスキャンしたものか、最初から電子データでやり取りしたものか。「電子にした」の一言では、どの区分の話なのかがまだ決まりません。

区分ごとに、求められる残し方も違います。電子でやり取りした取引情報については、2024年1月以降の電子取引を対象に猶予の措置が置かれ、国税庁の一問一答は、出力した書面だけを保存する方法は「認められておらず」、書面の提示等に加えて電子データそのものも保存しておく必要がある、と書いています。
2023年12月末までを対象にした以前の措置では、書面だけでも事実上可能とされていました。ここまでが要件の話です。効果のほうは、別の国で測られていました。
01上場企業で測られたのは、実効税率。2026年に査読誌へ出た研究の標本は、中国のA株上場企業(非金融)の2019〜2023年・15,652社年ぶんでした。制度が地域ごとに順に入った時期の差を比べる設計で、導入後に実効税率が平均0.91ポイント高いという推定が報告されています。実効税率は、利益に対して実際に納めた税の割合。著者ら自身が、より小さい企業や非上場企業にどこまで当てはまるかは慎重にと書いています。
02動いていたのは、監査の側だった。2025年に査読誌へ出た研究が使ったのは、ルワンダの2012〜2019年の税の申告すべてという行政のデータです(著者4名のうち2名は同国の歳入庁)。電子インボイスの採用後、企業が納める付加価値税の正味額が増え、監査の効率が上がったと報告されました。ただし著者らはこれを、企業がより守るようになったからではなく、監査がより効率的になったことに帰属させています。
03業績との関連は、75社の自己申告まで。記録を残すことと商いの関係を測った研究は、スリランカの中小企業75社に配った質問紙が1本。「業績」として測られたのは売上や利益ではなく、回答者自身が答えた目標の達成・有効性・効率性という手ごたえで、記録の側も業績の側も同じ質問紙から取られています。正の関連が有意と報告されましたが、割り付けのない自己申告です。

どの証憑が残りやすく、どれが残りにくいかを数えた調査もあります。2018年に出たガーナの小規模事業者200社への調査で、85%が売掛(客がまだ払っていない分)に関する記録を残していた一方、いちばん残っていなかったのは、持っている資産の一覧でした。業績との関係を分析した研究ではなく、何が残っているかを数えた調査です。
01「電子にした」で、記録が止まっている。控えは残っているのに、それが三つの区分のどれに当たるのかは、どこにも書かれていない。電子かどうかは残り方の一部で、区分はそのあとに決まります。
02受け取り方を、あとから思い出せない。紙で受け取ったのか、メールに添付で届いたのか。手元の記録からそれが引けないとき、確かめる場所は受信箱と引き出しの往復しかなくなります。
03残っている種類が、いつも同じ。売上に近い書類は残り、持ち物や小さな支払いの書類は落ちる——聞き取りの調査が拾ったのも、その偏りでした。どこが薄いかは、並べてみるまで見えません。

三つの研究は、標本も国も測ったものも別々です。上場企業の実効税率、行政の申告データから見た監査の効率、75社が自分で答えた手ごたえ。どれも国内の証憑の保存の要件を評価した研究ではありません。上場企業の税率の研究には、著者自身の慎重な断りが付いています。
制度の側が言葉にしているのは要件で、研究が測ったのは別の国の税務の結果です。ここを一本の線でつなぐと、「電子にすれば安心」がもう一度立ち上がってしまいます。原文の全文まで届いたのは7点のうち4点で、読めていないものについては書きません。
測られたのは、上場企業の税率。
国内の要件を評価した研究ではない。
もうひとつの枠組みが、適格請求書等保存方式(インボイス制度)です。国税庁は特集のページを置き、そこには令和8年度の税制改正の案内も並んでいます。要件は、いまも見直されているということです。
ここでも段差は同じ形をしています。電子で請求書を送ったこと・受け取ったことと、それが所定の記載事項を備えていることは、別。制度がいつ始まったかを含め、細部はそのつど国税庁のページで確かめる領域で、適法かどうかの判断は税理士・公認会計士などの専門家の領分です。
TRY IT TODAY
- 01LIST
紙かメモに今日の日付を書き、直近に自分が受け取った証憑を、手元から数件並べる。
- 02SORT
各件を「紙で受け取った」「紙を自分でスキャンした」「はじめから電子データで届いた」に書き分ける。
- 03COUNT
発行元と日付を記録から書き写し、件数と受け取り方ごとの内訳を最後に書き添える。
「電子にしておけば安心」は、たぶん半分だけ正しい。電子で残すことは区分の入口ではありますが、その先には要件という関門がもう一つあります。読めた範囲で測られていたのは、上場企業の実効税率と、別の国の監査の効率と、75社ぶんの手ごたえでした。自分の証憑がどの区分に当たるのかは、制度のページでも研究でもなく、受け取り方で並べ直した自分の記録からしか見えません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「証憑をきちんと残すには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

