IN ACCOUNTING · ISSUE 421
● 12 SEC立て替えた費用を申請し、承認を受け、支払い、領収書やレシートといった証憑(しょうひょう)とともに記録する——経費精算とは、その一連の流れのことです。そして、この流れに向かっていちばんよく言われるのが、「デジタル化すれば楽になる」。
この号は、その「楽」を二つに割ります。ひとつは、電子にしたときに制度が何を求めるか。もうひとつは、電子化を勧める言葉が根拠にしている数字が、そもそも何を測ったものか。楽になったかどうかは、消えた作業と増えた作業を別々に数えてからでないと言えない——というのが、この号の読み筋です。
日本で帳簿や書類を電子で残すときの決まりが、電子帳簿保存法です。国税庁は公式のページで、この制度を「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の三つに分けて案内しています。電子にしたから保存になる、のではありません。区分ごとに決められた要件を満たしたときに、保存として通ります。
期限の話も一度だけ書いておきます。紙に出して保存する扱いは、2023年12月末までの取引を対象にした宥恕(ゆうじょ)措置で認められていました。2024年1月以降の取引を対象にした猶予措置について、公式の手引きは「出力書面のみを保存することで対応することは認められておらず」と書いています。これは義務の話であって、楽になるかどうかの話ではありません。

では「楽になる」のほうは、何を根拠にしているのか。この号が読めた範囲でいちばん近かったのは、税の請求書を電子にすることを早くから義務にした国について、国際機関がまとめた作業論文が一本でした。査読を経た論文ではなく、機関が出す報告書です。そこに並ぶ数字は、三つとも性格が違いました。
0199.8%は、行き渡った度合いだった。この作業論文が挙げる99.8%は、義務化の初年に取引額でみた電子請求の導入率が届いた水準で、義務になる前は15%でした。どこまで行き渡ったかを示す数字であって、精算の手間がどれだけ減ったかを測った数字ではありません。
02負担が増えたに同意したのは、52.4%。同じ作業論文には、著者が税の実務の担い手や納税者に尋ねた認識調査が載ります。2014年10〜12月に集めた342件のうち有効回答は332件。義務化のあと負担が増えたに同意したのは52.4%、脱税が減ると答えたのが69.4%、納税者向けの手続きが良くなったと答えたのが72.9%で、賛同と負担増が同じ調査に同居しています。
03著者自身が、因果は測っていないと書いた。著者はこの論文について、電子請求が何を起こしたかを量的に因果として分析してはおらず、記述的な分析であると明記しています。国の統計と自分の調査を並べたもので、割り付けて確かめた設計ではありません。読めるのは、導入が進んだ国で人がどう答えたか、までです。

自分がいま、どちらの側を数えているのか。手元の記録のほうに、手がかりが出ます。
01「電子にしたから大丈夫」と言っている。区分ごとの要件は、電子にした時点で満たされるわけではありません。2024年1月以降の取引について、紙に出したものだけを持っている形は、公式の手引きが認めていない形として書かれています。
02減った作業だけを数えている。どの区分に当たるかを判断する、要件に合わせて残す——電子にしたあとに立ち上がる作業は、入力の手間ほど目に見えません。義務化を経験した国の調査で、有効回答332件のうち半分を超える人が負担増に同意していたのは、増えた側を数えた回答が実際にあった、ということでもあります。著者自身は、この否定的な評価は脱税の抑止・取引の透明化・納税者サービスという肯定的な評価に打ち消されると書き、対象を広げる案に反対した回答は19.9%だったと記しています。
03相場の割合を、根拠にしている。「経費の◯%が不正」という割合は、この号が読めた範囲では、経費精算そのものを対象に測った研究から来ていません。割合を見かけたら、誰が、どの分母で数えたのかを先に確かめる——そこまでが、この号の射程です。

経費まわりの不正について、この号が書けるのはここまでです。査読誌の一本は、内部監査の機能がある組織のほうが不正を検出して自己申告しやすく、内部監査を丸ごと外へ出している組織のほうが検出と自己申告が少ない、と報告しました。ただし標本は、ある会計事務所の2004年の調査に答えた491組織(民間と公的部門・豪州とニュージーランド)の自己申告です。測られたのは見つけて申告したかどうかで、不正が起きた量ではありません。
まとめの総説も二本ありますが、先の一本が束ねたのは財務報告の不正の文献、あとの一本は会計の外側のおよそ30誌(犯罪学・倫理学・心理学・社会学)からの知見です。どちらも、経費精算の不正の割合を測ったものではありません。制度の話は日本の決まり、数字の話は別の国の税の請求の話で、そのまま重ねられません。使った5点のうち最後まで読めたのは2点で、読めていないものについては書きません。
消えた作業と、増えた作業。
別々に数えないかぎり、楽になったとは言えない。
電子にすることが悪い、という話ではありません。義務は義務として動きますし、手続きが良くなったと答えた人のほうが多い調査もありました。この号が言えるのは、楽になったかどうかは、まだ別々に数えられていないということだけです。保存の要件や税務上の扱いの判断は、税理士・公認会計士など専門家に相談する領域です。
TRY IT TODAY
- 01LIST
直近に自分が精算した経費を、手元の記録から数件書き出す。
- 02SORT
各件の証憑を、紙・紙を読み取った電子・はじめから電子データ、の三つに書き分ける。
- 03RECORD
申請した日と承認した日(一人で回しているなら記録した日)を、記録から書き写す。
制度は、電子にしたあとの残し方に要件を置きました。義務にした国の調査は、導入がほぼ行き渡った一方で、負担が増えたと答えた人が半分を超えたこと、そして著者が肯定的な評価のほうが上回ると書いたことを記録しました。消えた作業を数える物差しと、増えた作業を数える物差しは、まだ別々にしか置かれていません。手元でできるのは、自分の記録の側から、その二つを分けて数えはじめることです。
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