IN ACCOUNTING · ISSUE 417
● 12 SEC経理を教わると、たいてい最初に言われます。月次決算を早くしなさい。月が終わってから数字が出るまでを短くすれば、手を打つのが速くなる、と。
速く数字が見えることに価値のある場面は、確かにあります。ただ、その「速いほうが良い」を支えていそうな数字をたどると、出てくるのは上場している企業が年に一度の決算をいつ公表したかと、それに対する株価の反応でした。自分の月次を何日で締めるか、という話ではありません。
月次決算は、ひと月ごとに売上・費用・残高を締めて、その月の損益と財政の状態を確かめる作業です。年に一度の決算を、月の単位でくり返します。早期化とは、月が終わってから月次の数字が固まるまでの日数を短くすることを指します。同じ「締めた」でも、どこまで確かめた状態を指すかは、人によって違います。

では、その日数を縮めることに、どこまで裏づけがあるのか。読めた範囲で出てきたのは、上場企業の年次公表をめぐる三つの報告でした。いずれも公表の時期と市場の反応を後から突き合わせた観察で、締めの速さを割り付けた実験ではありません。市場に向けた外部の報告の話であり、中小の月次を対象にしたものでもありません。
01早い公表のほうが、株価の動きは大きかった。年次決算の公表の早さを扱った1982年の会計学の研究は、要旨の範囲で、早い公表の開示に対する株価の反応は、遅い公表に対する反応より著しく大きかったと述べ、報告の遅れが延びるほど情報としての含みが減ることを示唆する、と書いています。上場企業の年次公表を後から観察したもので、速さが商いを動かしたという話ではありません。
02規模をそろえると、遅い公表ほど値動きは小さい。企業規模という別の要因を統計的にそろえて(統制して)から、公表の遅れと株価の反応を調べた1989年の研究は、要旨の範囲で、規模を一定にすると、報告の遅れが長いほど、公表期間の価格の見直しは小さくなると報告しています。悪い知らせを伝える公表でこの関係がより強い、という証拠にも触れています。これも上場企業の年次公表の観察です。
03遅らせた側に、数字の操作が見えた。2021年の会計学の査読誌に載った研究は、要旨の範囲で、良い知らせを持つ企業のうち裁量的発生高——経営者の判断の幅が残る会計上の見積りのぶん——が高い企業ほど公表を遅らせやすい、と報告しています。最後の機会の利益操作に頼って良い知らせを出した遅い公表の企業では、公表日の株式リターンが平均して 1.4% 低い。速く出すと数字が歪む、ではなく、遅らせる側で操作が見えた、という向きです。

自分がいま、日数のどちら側にいるのか。手元の記録に、手がかりがあります。
01目標の日数を、出どころを見ずに置いている。「◯営業日以内なら優良」という目標日数は実務でよく流通しますが、それを支える査読研究には、この号は行き当たりませんでした。無いことは、間違っていることではありません。ただ、確かめられた因果として掲げることもできません。
02速さと正確さを、同じ天秤に載せていない。中小企業向けに公表されている公的な要領は、記帳について「適時に」と「正確かつ網羅的に」を同じ一文のなかで並べて求めています。速さを捨てて正確さを取れ、とも、その逆とも書かれていません。どちらかだけを目標にしているなら、それはこの要領の言い方ではありません。
03遅れを、担当者の怠慢として数えている。先の1982年の研究は要旨の範囲で、個々の企業の報告の遅れは、企業ごとの属性よりも業界内の型や慣行と結びついているように見える、とも述べています。上場企業の年次公表についての観察ですが、遅れを一人の性格に帰す読み方とは、向きが違います。

中小の月次を速くすると商いが良くなる、という因果を確かめた査読研究は、読めた範囲に見当たりません。ここまでに置いたのは、上場企業が年次の決算をいつ公表したかと、それに対する市場の反応の話です。自分の月次の効果に置き換えることは、しません。読めた要旨どうしでも向きは揃っていません。1982年の要旨は悪い知らせのほうが遅れる傾向に触れ、2021年の研究は良い知らせを持つ側の遅れを報告しています。
挙げた出典7点のうち、全文まで読めたのは1点だけです。読めていないものについては書きません。なお、その1点——公的な要領——の本文に「月次」の語はありません。速さと正確さの引っ張り合いも、この号がそう読んだ編集上の整理であって、要領が順序をつけているわけではありません。
速いほど反応が大きいと測られたのは、
上場企業の株価のほうだった。
自分の締めが実際に何日かかっているかは、記録から数えれば分かります。他人の目標日数と比べる前に、まず自分の日数を並べてみる。評価も目標も、そのあとの話です。
TRY IT TODAY
- 01LIST
直近の数か月について、各月の「月が終わった日」を書き出す。
- 02RECORD
その月の数字を「これで確定」と見なした日を、カレンダーや入力履歴から書き写す。
- 03COUNT
二つの日付の差を月ごとに並べ、いちばん長かった日数と短かった日数を書き添える。
この数十年で測られてきたのは、上場企業が年次の決算をいつ公表したかと、それに対する市場の反応でした。月末から何日で自分の数字が固まるか、そこへ手を入れると商いがどうなるかは、読めた範囲の査読研究の外に置かれたままです。だから最初に数えるのは、他人の目標日数ではなく、自分の締めの日数のほうになります。何日が速いのかは、その記録が並んでから考えても遅くありません。
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