IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 416
● 12 SEC感じよくすれば、また会いたいと思われる。そう教わります。けれど「また会いたい」という気持ちと、実際にまた来ることは、これまで別々に測られてきました。この号が見るのは、その二つのあいだにある距離のほうです。
手がかりにしたのは、研修の中身が持ち場の行動に移るかを扱った総説と縦断の調査、満足の評点と実際の買い直しの記録を突き合わせた大規模な研究、意図と行動の隔たりを扱った総説、そして「ホスピタリティ」という言葉の定義そのものを問い直した論文です。全文まで読めたのは6点のうち1点で、残りは公式の要旨まで。読めていないものについては書きません。感動の作り方を配る号ではありません。
研修で学んだことが、戻った持ち場の行動として現れることを、研究では転移と呼びます。1988年の総説は、転移の条件に“the generalization of learned material to the job and the maintenance of trained skills over a period of time on the job”(学んだ内容が仕事へ一般化することと、身につけた技能が職場で一定期間維持されること)の両方が含まれると整理しました。新しくデータを取った研究ではなく、それまでの研究を見渡して批判的に検討した総説です。

同じ人の中でも、移り方は時期で揺れます。2016年に公表された調査は、統計の講習に自分から参加した受講者を、時間をおいて繰り返したずねました。複数の研究をまとめたものではなく、一つの縦断の調査です。最初に移そうとする度合いと、その後の変化の速さ。この二つで、受講者のあいだに大きな違いがありました。受けた・受けていないの二つに分けるだけでは、この揺れは見えません。
では、客の側はどうでしょう。ここから並ぶ三つのうち二つは割り付けのない観察で、残る一つの総説だけが、意図そのものを動かした実験の統合を引いています。
01この総説は、相関と実験を分けていた。2016年の総説は、二つの層を分けます。相関で見れば意図は行動をよく予測し、10のメタ分析(422研究)を統合した平均の相関は r+ = 0.53——rは0なら関連がなく1に近いほど強い値で、総説はこれを“large”(大きい)と紹介しました。いっぽう意図を動かした実験の統合では、行動の変化は小から中(d+ = .36)まで。隔たりの担い手は、変えるつもりで実行しない人たちでした。どちらも総説が引いた別の統合です。
02この研究では、同じ評点でも買い直しが違った。自動車の客100,040人の2001年の研究は、調査の評点と、実際に買い直したかの記録を突き合わせました。境目は客の性質で違い、同じ評点でも買い直す割合は群ごとに系統的に違っていました。ある群では評点と買い直しが無関係(r = 0)。しかも評点と買い直す意図の関係は伸びが鈍る形、行動のほうは伸びが増す形でした。割り付けのない観察です。
03この比較では、尋ねた側のほうが近かった。2005年の研究は、三つの大規模な現場調査で、調査を受けた客と、受けていない似た客をくらべました。“the correlation between latent intentions and purchase behavior is 58% greater among surveyed consumers”(潜在的な意図と購買行動の相関は、調査を受けた客のほうが58%大きい)。尋ねる行為そのものが、気持ちと行動の結びつきに関わる——著者たちはこれを自己生成妥当性と呼んでいます。

手元でも、この二つは一つに数えられます。合図は、客の側ではなく、自分の記録の側に出ます。研究が言えた範囲の外側にある、手元の見分けです。
01言われた言葉を、次の来店として数えている。「また来ます」「また会いたい」と言われた回数を、そのまま次に来る数として書いている。言葉は言葉、来たかどうかは別の列。分けて置かないと、二つの距離は見えないままになります。
02聞いた相手の答えだけが、手元に残っている。尋ねた客からの答えは集まり、尋ねなかった客のことは残りません。2005年の比較では、調査を受けた側のほうが、気持ちと行動の結びつきが強く出ていました。手元に残るのは、尋ねた側の分だけです。
03研修に出た日を、身についた日として数えている。講座を受けた日付は記録に残り、それが持ち場の行動として現れたかは残りません。1988年の総説が分けたのは、まさにこの二つでした。同じ人の中でも、移り方は時期で揺れます。

そもそも「ホスピタリティ」という言葉自体が、論者によってばらばらに使われています。1999年の論文は、当然の真実のように受け入れられてきた定義や見方の、根本的な妥当性を問い直しました。そして最後に、著者自身が新しい定義を提示しています。定義が定まらないと指摘して終わったのではなく、自分の定義を出したところが着地点です。数字が出てきたら、それが何をどう数えたものかを見る。定義が定まっていないものを、測れたことにしない。
層も、そろっていません。1988年と2016年の二本は、それまでの研究を見渡した総説で、新しいデータは取っていません。統計の講習の受講者を追った調査は、一つの縦断の調査です。買い直しの研究と、尋ねた側との比較は、割り付けのない観察です。場面も、研修・自動車の買い直し・消費者の購買と別々で、窓口の応対そのものを測ったものはありません。1988年の総説と、講習の受講者を追った調査には同じ書き手が一人重なっていますが、別の年の別の仕事です。
また会いたいという気持ちは、
また来た記録ではない。
それでも、読めた範囲で言えることがあります。気持ちは、相関で見ればよく当たっていました。当たらなくなったのは、それを動かそうとした実験のほうです。演出を一つ足すことと、また来ることをつなぐ道は、この号が並べた研究の範囲にはありません。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
今日の日付を書く。この二週間で守れた約束を、一つだけ書き出す。返事の速さ・内容の正確さ・約束した期日のどれでもよい。
- 02MARK
守れなかった約束を、一つだけ正直に書く。理由の説明も、相手への評価も書かない。
- 03NOTE
その一つを次はどう守るかを、一言だけ書く。「また会いたいと思わせる工夫」は書かない。
手元に残るのは、たいてい言葉のほうです。「また会いたい」は聞こえ、また来たかどうかは数えられないまま過ぎていく。この号も、また会いたいと思われる作り方については何も言えていません。言えたのは、二つを別々に数えると距離が見える形になる、というところまでです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「また会いたい窓口になるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

