IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 415
● 12 SEC「効率はAIに、感動は人に」。窓口の話になると、たいていこの線が引かれます。けれど海外の一社で行われた電話の実験は、難しさが別のところにあると示しました。名乗るかどうか、です。
6,200人を超える客を無作為に振り分け、AIのチャットボットか人の担当者が、筋書きの決まった営業電話をかける。名乗らないボットは熟練した担当者と同じくらい購買に結びついていたのに、会話の前に「これはAIです」と伝えた条件では、購買率が79.7%超下がりました。
「AIと人を使い分ける」は、ふつう配分の話として語られます。定型はAIへ、心の要る相談は人へ。けれど、この号で並べる6点が測っていたのは配分ではありません。AIをAIとして名乗るか(開示)、どこまで人間らしく見せるか(擬人化)、そしてその用件は機械に任せて受け入れられるのか。動いていたのは、この三つのほうでした。ここでいうAIは、決まった答えを返す旧い自動応答ではなく、言葉を組み立てて応対するいまのAIを指します。

ただし、その実験は海外の一社が顧客にかけた営業電話という、かなり限られた場面のものです。場面の違う研究と並べてみると、人間らしさも開示も、入れれば摩擦が減る潤滑油ではないという形が共通していました。まず測られたのは、この3つです。
01名乗ると、購買率が79.7%超下がった。海外の一社が6,200人を超える客を無作為に振り分け、AIか人が筋書きの決まった営業電話をかけた現場の実験です。名乗らないボットは熟練した担当者と同等、経験の浅い担当者の4倍、購買に結びついていました。会話の前にAIだと伝えると購買率は79.7%超下がり、客は短い受け答えになって、知識も共感も足りない相手だと受け取っていたと報告されています。営業電話という一つの場面の結果です。
02怒って来た客にだけ、人間らしさが裏目に出た。五つの研究——海外の通信会社の記録1本と、仮の場面を読ませる実験4本。対話を始めた時点ですでに怒っていた客では、ボットを人間らしく見せることが満足・企業全体の評価・その後の購買意図を下げていました。怒っていない客では、そうなりません。怒りが増したかどうかは測られていません。企業評価への波及は、問題が実際に解決した場合には出ませんでした。
03主観的に見える用件ほど、機械は避けられた。客観的に見える判断ではアルゴリズムが信頼されて使われ、主観的に見える判断では避けられる。オンラインの実験室研究4本(1,400人超)と、同じくオンラインの現場研究2本(56,000人超)の報告です。しかもこの「主観的らしさ」は動かせて、同じ用件でも客観的に見えるようにすると利用が増えました。人間らしい情感を足すことも、主観的な用件での利用を増やしています。

自分の窓口でも、線の引き方は日々のやり方に出ます。
01用件を、先に二つの箱へ分けている。「定型」と「心の要るもの」に分けてから、どちらへ回すかを決めている。けれど実験が動かしていたのは配分ではなく、名乗り方と見せ方でした。定型に見えた問い合わせが途中で込み入った相談に変わる——その入れ替わりは、配分の表には出てきません。
02人間らしく見せれば、やわらぐと思っている。名前やアイコンを与えれば角が立たない、という見込み。五つの研究では、すでに怒っている客に限って、人間らしさが満足と評価と購買意図を下げていました。人型ロボットをめぐる実験7本でも、不気味さと、人としての立場が脅かされる感じが報告され、機械らしく見せたほうがその反応は和らいでいます。
03名乗らずに、済ませている。自動の返信が最初に出るとき、相手にそれが分かる表示があるか。実験が示したのは、名乗ると購買が大きく落ちるという不都合のほうでした。それでも研究が緩和策として挙げたのは隠すことではなく、名乗る時期を会話の後ろへずらすことと、AIに慣れた相手ほど落ち込みが小さいという条件です。

ここまでの数字は、それぞれ別の場面のものです。購買率が落ちた実験は海外の一社の営業電話、人間らしさの五つは通信会社の記録と仮の場面の実験、機械が避けられる話はオンラインの実験と現場の調査。一つの主語にまとめて「AIはこうだ」とは言えません。全文まで読めたのは6点のうち1点で、読めていないものについては書きません。
生成AIを窓口に入れた現場の記録もあります。5,172人の応対担当者を追った研究で、1時間あたりの解決件数は平均15%増えました。ただし同じ研究が、経験の浅い担当者ほど速さも質も上がる一方、最も熟練した層では速さの伸びはわずかで、質はわずかに下がったと書いています。平均は、全員の話ではありません。
名乗ると、売れなくなる。
それでも勧められたのは、隠すことではなかった。
設計の問いは、AIか人かの配分から、名乗るか・いつ名乗るか・どこまで人間らしく見せるかへ移ります。人間らしいしるしを足すとボットの頼みごとに応じる人が増えた、というオンラインの無作為化実験もあります。同じ演出が、相手の状態しだいで逆を向く。どの用件をどちらへ渡せば満足や利益が上がるのかを確かめたものは、読めた範囲の6点にはありません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日届いた問い合わせを、返した手段ごとに書き出す。自動の返信か、自分の手か。
- 02MARK
自動が先に答えたものに、相手へそれと分かる表示があったかどうかの印を付ける。
- 03COUNT
件数だけを数える。相手を評価せず、感想も聞かない。全部が自分の手なら「全部が人」と書く。
「効率はAIに、感動は人に」という線は、一度引いて終わりにできる境界ではありません。実験が動かしていたのは、名乗るか、いつ名乗るか、どこまで人間らしく見せるか。購買率が79.7%超落ちた条件でも、挙げられた緩和策は隠すことではなく、名乗る時期をずらすことでした——というのが、読めた範囲からのこの号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「AIと人を使い分けるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
