IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 414

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

良いサポートは、まわりまわって利益になる。働く人が満たされ、応対の質が上がり、客が満足し、離れずに使い続け、それが利益になる——そういう鎖の絵を、どこかで見たことがあるかもしれません。

この絵を広めたのは、1994年に実務誌へ載った記事でした。査読を通った論文ではありません。この号は、その由緒と、鎖が実際に測られたときの結果を、分けて置きます。読めたのは、5本の査読論文と1本の記事の、いずれも要旨まで。要旨に書かれていないことは書きません。

サービス・プロフィット・チェーン(サービスと利益をつなぐ鎖)は、働く人の満足がサービスの品質を上げ、それが客の満足とロイヤルティ(離れずに使い続けること)を生み、やがて利益になる、という順番で描かれます。応対の仕事をコストから投資へ見直させた絵です。ただし、そう描いた記事があることと、鎖が測られたことは別です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
鎖の絵が広がったのは1994年の実務誌から。査読を通った論文ではない。 Visual: ALIFE

では、測るとどうなるか。ブラジルの一国立銀行で、500を超える支店の客への調査を、預金額や取引の回数といった記録とつないだ研究があります。手法を示すための研究で、要旨の結びはこうです——“superior satisfaction alone is not an unconditional guarantee of profitability”(満足が高いというだけでは、利益が無条件に保証されるわけではない)。どの環がどれだけ強いのかという比較までは、要旨からは分かりません。支持を欠いた環がどこだったのかは、別の研究の要旨のほうに書かれています。

01利益と並んでいたのは、働く人の不満だった。英国の食料品小売で大手にあたる1社の、探索的な研究です。店ごとの利益・客のロイヤルティ・客の満足・サービスの価値・内部の品質・生産性のあいだには相関がありました。ただし、それらが働く人の満足とロイヤルティに駆動されるという主張への支持は無く、逆に“a strong correlation between employee dissatisfaction and store profitability”(働く人の不満足と店舗の利益の強い相関)が報告されています。1社の店を横に並べた相関で、実験ではありません。

0275店舗でも、入口の環に支持は乏しかった。英国のホームセンター1社・75店舗のケーススタディです。店ごとの相関を調べると、期待されたつながりのいくつか——働く人と客の満足が鏡のように対応するという環と、客のロイヤルティと財務の成果を結ぶ環——への支持は乏しい、という結果でした。著者は“the service profit chain model cannot be applied generically to services”(この鎖のモデルはサービス業へ一般には当てはめられない)と書いています。

03銀行の支店では、媒介が小さすぎた。複数の組織にまたがる多数の銀行支店を対象に、働く人の態度と販売実績のあいだを客の満足が媒介するかを調べた研究です。媒介は見つかりましたが、標本が大きいときに有意の境界に届く程度で、著者は“the effects seem to be too small to be of practical importance”(実務的な重要性を持つには小さすぎるように見える)と書いています。販売実績は組織の記録、満足は客への調査です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
まず読めた3本。支持を欠いた環は、研究ごとに違っていた。 Visual: ALIFE

自分がいま、測られた強さではなく絵のほうを見ているかどうか。手がかりは、日常の言い方に出ます。

01矢印の数を、強さだと思っている。鎖の絵では、どの環も同じ太さの矢印で描かれます。けれど要旨まで読めた5本では、支持された環と支持されなかった環が、研究ごとに違っていました。絵の矢印は、どこかで測られた強さの表示ではありません。

02倍率だけが、独りで歩いている。鎖を広めた1994年の記事にも、要旨にあたる部分に“A 5% increase in customer loyalty can boost profits by 25% to 85%.”(客のロイヤルティが5%増えると、利益は25〜85%増えうる)という一文があります。読めた範囲に、この幅がどう計算されたのかは書かれていません。

03自分の規模を、その標本に重ねている。要旨で標本を確かめると、ブラジルの一国立銀行の500超の支店、大きな地域銀行の支店、英国の食料品小売1社、英国のホームセンター75店舗、複数組織にまたがる銀行支店でした。ひとりで窓口を回している商いは、この標本の中にいません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床のコートと鍵
絵を見ているのか、測られた強さを見ているのか。 Visual: ALIFE

6点のうち、全文まで読めたものはありません。だから「どの環が例外だったのか」「どの環がいちばん弱いのか」は書けません。大きな地域銀行の支店のパネルデータ(同じ支店を追いかけた記録)を使った1998年の研究は、結果はおおむねモデルを支持するが例外もある、と要旨で述べています。その例外の中身は、要旨に書かれていません。

利益の側は、いずれも会計と運用の記録です——支店の預金額と取引の回数、店舗の利益、支店の販売実績。満足の側は客への調査、つまり自己報告です。国の印字があるのはブラジルと英国の3本で、残る2本に国の印字はありません。単一の企業を扱った探索的な研究が含まれ、いずれも相関で、割り付けた実験ではありません。

小売1社の店を横に並べると、
利益と並んでいたのは、働く人の不満だった。

この相関は、不満が利益を生むという意味ではありません。原因の向きは測られていません。著者たちが問い直したのは、働く人の満足と客の満足が鏡のように対応するという、鎖の土台にある前提のほうでした。鎖の終わりではなく、入口が揺れたのです。同じ英国で75店舗を調べた研究も、この入口の環への支持は乏しいと報告しています。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付を書く。見聞きした「サポートは利益になる」「◯倍のリターン」型の数字や主張を、一つだけ選ぶ。

  2. 02SPLIT

    ページを左右に分ける。左に選んだ数字・主張、右にその出どころ——査読された研究か、道具やコンサルを売る側の資料か、不明か。

  3. 03MARK

    査読の有無にだけ印を付ける。たどれなければ「不明」と書く。客や同僚への聞き取りはしない。

10分。数字の当否を判定する作業ではなく、出どころを一段たどって分類するだけの記録です。これは研究結果そのものではなく、ALIFEが提案する記録の入口です。

鎖は、いちばん弱い環の強さでしか力を伝えない——というのが、この号の読み筋です。要旨まで読めた範囲で言えるのは、環ごとに支持の強さが違うこと、そして1社を調べた研究では入口の環に支持が無かったこと。由緒のある絵は、絵として残ります。そのうえで、数字を見たら出どころを分ける。それが、サポートをコストで終わらせないための、この号の一歩です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「サポートをコストで終わらせないには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。