IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 413

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

接客の話でいちばん華やかな触れ込みは、期待を超える瞬間は設計できる、という一行です。そして、その隣にはたいてい留保が付きます——感動は次の期待を吊り上げるから、出すほど超えにくくなる、と。

この号が読めた範囲では、期待が上がること自体は、感動を扱った2000年の論文もモデルの中で認めています。批判する側に帰せるのは、「基準を上げる」という言い方と、「だから長い目で損」という結びのほうでした。全文まで読めたのは6点のうち0点。読めていないものについては書きません。

感動——研究では delight(デライト)と呼びます——を、満足とは別の反応として測ろうとした出発点が、1997年の Journal of Retailing 誌にあります。二つのサービス領域で集めたデータを構造方程式モデルにかけ、予期しない高さの満足や出来ばえが、覚醒(心が強く動くこと)から喜び、そして感動へ進む順番を始動させるという命題が支持されました。ただし著者たちは、感動が喜びと覚醒の「組み合わせ」で立ち上がるという仮説への支持は部分的なものにとどまったとも書いています。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
予期しない高さでなければ、その順番は始まらない——1997年、二つのサービス領域のデータから。 Visual: ALIFE

では、それを出し続けるとどうなるか。2000年に Journal of the Academy of Marketing Science 誌へ出たのが、「客を感動させるべきか」という題の論文です。ただしこれは、現場のデータを取った実証研究ではなく、満足研究から集めた仮定で組んだ数理モデルの論文でした。読み違えは、この一点から始まります。

設計できる、と言う側の主張も、読めた範囲に実在します。2006年にホテル業向けへ出た論文は、実証データを持たない文献レビューから組んだ概念モデルで、"The proposed model can be used by managers to achieve customer delight in their organizations"(提案するモデルは、管理者が自分の組織で顧客の感動を達成するために使える)と書いています。データで効果を測った主張ではない、という但し書きつきで並べておきます。

01「だから長い目で損」までが、批判する側の言い分だった。2000年の論文の書き出しはこうです——"Critics have suggested that delighting the customer ‘raises the bar’ of customer expectations"(批判する側は、客を感動させることが顧客の期待の基準を上げると言ってきた)。この一文は、次の購買で満足させにくくなり長い目では企業が傷つく、と続きます。期待が上がること自体は著者たちもモデルの中で認め、検討にかけたのはその先の結びでした。

02強く結びついていたのは、最後の出来と、上向きの傾き。1999年の Journal of Service Research 誌の研究は、応対の出来がばらつく場合を扱いました。途中で出来が上向いたときのほうが、下向いたときや一貫して平均的だったときより好意的な評価になり、品質の総合判断と購買意図は、傾きにかかわらず最初の出来事より最後の出来事の出来と強く結びついていたと報告されました。管理上の含意は、"the beginning of the encounter might not be as important as previously thought"(応対の始まりは、これまで思われていたほど重要ではないかもしれない)。

03感動と満足は別の反応、と2012年に確認されている。同じ誌の2012年の研究は、オンライン小売の利用者から集めた独自データで、"confirm CD and CS are distinct responses"(感動と満足は別々の反応だと確認する)と報告しました。どちらも行動意図を決めており、形は直線ではなく、感動は正の二次、満足は負の三次という曲がり方で、感動のゾーンという見方とは反対でした。さらに「満足が平均を超えたら、以後は満足より感動を上げるほうへ資源を回すべき」という処方まで置かれています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
結びの持ち主、終わりと傾き、別の反応という決着。まず逆だったのは、この三つ。 Visual: ALIFE

自分の読み方がどちら側にいるか。手がかりは、言い方のほうに出ます。

01「だから危ない」まで、論文の結論として引いている。「感動は次の期待を上げるから危ない」を、丸ごと2000年の論文の結論として引いているとき。読めた範囲では、期待が上がる部分までは論文の答えですが、「だから危ない」の結びは、冒頭で批判する側に帰された言い分でした。

02「最後に一発」を、そのまま設計にしている。1999年の研究が読める範囲で、総合的な評価と強く結びついていたのは最後の出来事と、出来が上向いていく傾きでした。上向きのほうが、下向きのときや一貫して平均的だったときより好意的です。途中を下げて最後だけを上げる形は、この報告が支持した形ではありません。

03感動の逸話を、効果の証拠として数えている。うまくいった一場面の語りには、同じことをして何も起きなかった場面が入りません。この号が要旨まで読めた6点の、その要旨の範囲に、そうした逸話の効果を測った報告はありませんでした。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
読み違えは、結論の持ち主・順番の置き方・証拠の数え方に出る。 Visual: ALIFE

2000年の論文がモデルの中で出した答えは、単純な留保ではありませんでした。感動させる企業は、上がった期待によって実際に傷つきます。ただし、より大きく傷つくのは感動させない競合のほうだと書かれています——"the (nondelighting) competition is hurt worse through customer attrition to the delighting firm"(感動させない競合は、感動させる企業への顧客流出によって、より大きく傷つく)。さらに、客が感動の出来事をある程度忘れるなら、競合から顧客を奪える立場にある企業は損をし、奪うのが難しい場合はむしろ得をする——同じ感動を、同じ効きでもう一度繰り返せるからです。

これはモデルの中での話で、現場のデータで確かめられた結果ではありません。それでも向きははっきりしています。「感動は期待を上げるから損」という一本線は、この論文の答えではない。もうひとつ。1997年の研究では、感動が意図に及ぼす効果はサービスの文脈によって変わるようだ、と著者自身が書いています。2005年の要旨によれば、その効果は交響楽団のチケット購入者では偶然では説明しにくい差として出たのに、遊園地の来園者では出ませんでした。

モデルの中で傷が深かったのは、
感動させなかった側だった。

だから、この号は「感動を設計しよう」も「感動はやめよう」も渡しません。読めた範囲で言えるのは、期待が上がるところまでは論文の答えで、「だから長い目で損」という結びのほうが批判する側の言い分だった、ということ。順番の話では、最後の出来と上向きの傾きのほうが総合評価と結びついていた、ということです。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    直近に「少し上乗せしよう」と思ってした対応を、自分の記録から一つ選ぶ。

  2. 02SPLIT

    ページを左右に分け、左に上乗せしたこと、右に返事の速さ・内容の正確さ・約束した期日が守れていたかを書く。

  3. 03MARK

    土台の約束が守れていたかにだけ印を付ける。相手にも同僚にも、感想を聞きに行かない。

10分。自分が残した記録だけで書く作業で、相手や同僚を評価するものではありません。これは研究が示した手順ではなく、読み方の単位を変えてみるためにALIFEが提案する記録の入口です。

「感動は次の期待を上げる」は、たしかに論文の答えでした。批判する側の言い分だったのは、その先——「だから次の購買で満足させにくくなり、長い目では損をする」という結びのほうです。そして検討の答えは、忘却と、競合との位置関係しだいで向きが変わる、というものでした。華やかな触れ込みを疑うときにも、その文句をどこまで誰が言ったのかは、確かめられます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。