IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 412
● 12 SECノウハウを書いてためれば、対応の質は上がる。そう教わります。けれど、書くことと使われることは別の作業です。この号が見るのは、その二つの間にある距離のほうです。
手がかりにしたのは、知識の置き場を扱った査読つきの研究と、業界団体が公開している実務の文書です。全文まで読めたのは6点のうち1点で、残りは公式の要旨まで。読めていないものについては書きません。仕組みの作り方を配る号ではありません。
知識の置き場とは、過去の対応で分かったこと——よくあるつまずきと直し方、うまくいった説明——を書きためて、応対する人どうしで使い回す仕組みのことです。客が自分で読むための案内とは、持ち場が違います。
共有のやり方として世に出ている体系の中には、査読された研究ではなく、複数の企業が集まった業界団体が作って公開している文書もあります。団体の頁には、その体系を作って維持しているのは会員で、認定する機関は自分たちだけ(“the only certifying body”=唯一の認定機関)だと書かれています。普及していることは、効果が確かめられたことではありません。

この号で読めた査読つきの研究は、置き場の作り方ではなく、書かれた知識がどう探され、どう使われたかのほうを測っていました。書いた件数は数えやすく、使われた回数は数えにくい。数えやすいほうだけが記録に残る——というのが、並べたあとのこの号の読み筋です。
ここから出てくるのは、四つの型と、想定外だったという報告と、通念が支持されなかったという報告の三つです。いずれも人を割り付けた実験ではないので、向きの断定はできません。
01概念整理の論文は、四つの型に分けた。2001年の論文は、ためた知識が使い直される場面を四つの型に分けました。自分で書いて自分で使い直す人、互いのものを使い合う人、詳しい人を探している初心者、後から掘り返す人。型ごとに置き場へ求めるものが違い、“Repositories often require considerable rework to be useful for new reusers”(新しい使い手の役に立つようにするには、置き場はかなりの作り直しを要することが多い)。実証ではなく、証拠を突き合わせた概念整理です。
02この研究の著者は、学習は多くないと書いた。テクニカルサポートの担当者が、なぜ置き場の知識を探しに行くのかを質問紙で調べた2005年の研究です。測られたのは探す側の動機で、対応が速くなったかどうかは、読めた要旨の範囲では測られていません。著者たちは、意外な結果がいくつも出たとして“there is not very much learning going on”(それほど学習は起きていない)と書き、効率と学習の間には内在する緊張がある、と結んでいます。
03この調査では、力の喪失は結びつかず。同じ2005年、別の調査が書き手の側を見ています。公的機関を対象にした大規模な質問紙調査で、使用と結びついたのは、自分の知識が役に立つという手応えと、人を助ける楽しさ。互恵や組織の報酬は、信頼や規範しだいでした。そして“The loss of knowledge power and image do not appear to impact EKR usage”(力や評価を失うことは、使用に影響しているようには見えない)。出し惜しみの通念は、この調査では支持されていません。

自分の手元でも、この二つは一つに数えられます。合図は、置き場の側ではなく、記録の側に出ます。研究が言えた範囲の外側にある、手元の見分けです。
01数えているのが、書いた件数だけ。書いた手順やメモの数は数えやすく、使い直した回数は数えにくい。手元の記録に前者しか残っていないとき、二つの距離は見えないままになります。
02探すのが、写して返すためだけになる。置き場を探す時間が、答えをそのまま写すためだけに使われている。2005年の研究は、担当者は製品の理解を深めるよりも、問題を解く手順を見つけることに向いているようだ、と書いています。断定ではなく、著者たちの見立てです。
03書かれたものを、誰も確かめていない。2009年の研究は、書かれた知識を確かめる手続きの性質——かかる時間・手続きの見えやすさ・通しにくさ——が、その後の書かれ方と結びつくと報告しました。透明で、育てる向きの確認のほうが、提供と結びついています。

ここまでの研究は、どれも人を無作為に割り付けた実験ではありません。質問紙と概念整理で、場面はテクニカルサポートと公的機関。だから「この仕組みを入れれば質が上がる」という向きは、ここからは言えません。自分の商いにそのまま当てはまる保証もありません。2005年と2009年の二本は同じ書き手たちの連作で、同じ2005年のもう一本は別の書き手・別の場面です。ひとつの主語にまとめられません。
2010年の総説は、一人ひとりの知識共有の研究を見渡して、五つの領域に整理したものです。組織の文脈・人と人の関係・文化・個人の性質・動機づけ。仕組みの設計図ではなく、研究が散らばっている場所の地図でした。6点のうち5点は、公式の要旨までしか読めていません。
書いてためたことは、
使われたことではない。
それでも、読めた範囲で言えることがあります。書く側で結びついていたのは、惜しむ気持ちの薄さではなく、役に立つという手応えと、人を助ける楽しさのほうでした——この調査が見ていたのは、そこです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
自分が過去に書いた手順・メモ・返信の下書きを、思い出せるだけ書き出す。
- 02MARK
直近で実際に使い直したものに、印を付ける。中身の良し悪しは書かない。
- 03COUNT
一度も使っていない数と、使い直した数を、それぞれ一つの数字で書く。
手元の記録に残るのは、たいてい書いた側です。書いた数は増え、使われた数は数えられないまま残る。この号も同じで、置き場の作り方については何も言えていません。言えたのは、二つを別々に数えると、距離が見える形になる、というところまでです。
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