IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 411

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

客に応える仕事の疲れは、たいてい本人の側の話として語られます。気持ちを切り替えよう、もっとケアを、と。

けれど、働く人の健康を扱う分野が三十年ぶん積み上げた研究をまとめると、消耗と強く結びついていたのは、笑顔で応じることそのものではなく、内心は変えないまま、表向きだけ取り繕うことのほうでした。

感情労働(emotional labor)とは、仕事として決められた感情を作って見せることです。この言葉が立ったのは1983年、大学出版局から出た一冊の学術書でした。ここでは由緒として置くにとどめます。2000年の概念論文(実証データを持たず、枠組みを提案する論文)が、これを表層演技(内心は変えず表向きだけ繕う)と深層演技(相手への見方そのものを変える)に整理しました。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
同じ「笑顔で応じる」でも、表面だけ繕うのか、見方のほうを変えるのか。 Visual: ALIFE

この号が読めたのは、6点のうち5点が公式の要旨まで、1点は書誌までです。数値が乗っているのは、働く人の健康を扱う分野で集められた自己報告の指標——接客の成果の予測に読み替えることはできません。

01偽る側に、消耗が寄っていた。95本の独立した研究・494の相関をまとめたメタ分析(多くの研究の結果を量的にまとめ直す方法)では、表層演技と、求められる感情と本心のずれが、健康を損なう側の指標と ρ 0.39〜0.48 で結びついていました(ρは関連の強さの目安。0なら関連なし、1に近いほど強い)。仕事への態度とは −0.24〜−0.40(負の値は、態度が良くない側との結びつき)。いずれも働く人自身の自己報告で、割り付けた実験ではありません。

02深層演技の側は、向きが違った。同じ統合で、深層演技は健康を損なう側の指標や仕事への態度とは弱い関連にとどまり、感情面の業績と顧客満足とは正の関連(ρ 0.18 と 0.37)でした。「どちらの演技も同じように負担」ではありません。同じ統合は、求められる感情と本心のずれが健康へ及ぶ道筋を、表層演技が部分的に仲立ちしているとも報告しています。

03業績の向きは、2つの統合で割れた。95本の統合では、表層演技と業績の関連は小さく負(ρ −0.20〜−0.05)。いっぽう116本の研究をまとめた別の統合モデルでは、表層演技は仕事の満足やストレス・消耗とは負の関連でしたが、業績とは関係が見られませんでした。同じ構成概念で、結論は割れたままです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
95本の統合と116本の統合。健康の側では向きがそろい、業績の側で割れた。 Visual: ALIFE

何が重さを左右するのか。要旨に印字があったのは、裁量の余地、言葉による攻撃の頻度、そして脅威として受け取る程度の3つでした。自分の周りで気づける形に置き換えると、こうなります。

01自分の判断で動ける余地が、残っていない。アメリカとフランスの働き手196人に尋ねた質問紙の調査(横断=ある時点での測定)では、笑顔での応対が必ずしもストレスとはかぎらず、裁量が大きい場合に、感情の調整と情緒的消耗の関連が和らいでいました。仕事への不満との関連はより小さい程度で、しかもフランス側では弱かったと報告されています。横断の調査なので、裁量が消耗を下げたとは言えません。

02理不尽な言葉が、日常の頻度になっている。コールセンター2拠点の198人では、顧客からの言葉による攻撃が1日に平均10回と申告されました(人種と否定的な感情の傾向で差があったとも報告されています)。攻撃の頻度と、それを脅威と受け取る程度は、情緒的消耗と正の関連。消耗は、脅威の受け取りと欠勤との関連を仲立ちしていました。

03脅威に感じるかどうかも、裁量で分かれた。同じ198人の調査では、裁量の大きさが、誰がその出来事をよりストレスと受け取ったかの説明を助けていました。脅威を強く感じた人は表面を繕うか感情を吐き出し、そうでない人は見方のほうを変えていた、とも報告されています。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
裁量の余地、言葉による攻撃の頻度、受け取り方。測られたのは、この三つ。 Visual: ALIFE

ここまでの数字は、働く人の健康を扱う分野で、本人の自己報告を集めてまとめたものです。関連であって、割り付けた実験ではありません。偽るほうが消耗を招いたのか、消耗している人が偽りがちなのか——この統合からは決まりません。業績との向きは、2つの統合で割れたままです。

由緒として置いた1983年の本は、書誌までしか確かめていません(版の細目は出典欄に)。枠組みを整えた2000年の論文は、実証データを持たない概念論文です。ここにある値を、あなたの店や窓口の売上や満足度の予測に持ち出すことはできません。

消耗と結びついていたのは、
偽ることと、求められるずれだった。

だからといって、「深層演技をしよう」という話にはなりません。統合が示したのは関連の向きであって、演技を使い分ければ楽になる、という効果の検証ではないからです。一人で客に応えている人にとって、変えられる条件は小さいかもしれません。それでも、自分がどの場面で表面だけを繕っていたかは、見分けられます。測られてきたのは、その見分けがつく場所のほうでした。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    直近の応対を、思い出せるだけ書き出す。

  2. 02MARK

    各行に、表面だけ繕ったか、見方のほうを変えられたか、自分の裁量で応じられたかの印をつける。

  3. 03FIND

    繕いの印が集まった行に、共通する条件(台本の細かさ、代われる人の有無、逃げ場)がないかを見る。

10分。つらさの大小や自分の心の状態は評価しません。同僚や客を採点する作業でもありません。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。

95本の統合も、116本の統合も、働く人の自己報告を束ねたものです。それでも両方が同じ場所を指していました——重さは、感情を使うかどうかより、どこまで偽らせるかの側に寄っている、と。裁量のほうは、米仏196人と198人という別々の標本で、それぞれ同じ向きが報告されました。心がけの話に見えていたものが、仕事の作られ方の話へ移ってきた三十年でした。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「対応チームを疲弊させないには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。