IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 409
● 12 SEC「声を集めれば、製品は良くなる」。よく聞く言い方です。ただ、集まった声は起きた出来事の全体ではありません。声を上げた人の分だけです。
この号が当たった学術の6点のうち、本文まで読めたのは0点。5点は公式の要旨まで、1点は書籍で、発行元の紹介頁にある定義文までです。読めていないことは書きません。正しい集め方も出しません。
顧客の声(Voice of the Customer)とは、問い合わせ・苦情・要望として寄せられる言葉を集め、作り手や運営の側へ返す取り組みのことです。その手前に、1970年に出た一冊の学術書があります。組織や商品の質が落ちたときの反応を、退出と発言という二つに分けた本でした。
発行元の書籍紹介頁には、こうあります。“one, ‘exit,’ is for the member to quit the organization or for the customer to switch to the competing product, and the other, ‘voice,’ is for members or customers to agitate and exert influence for change ‘from within.’”(一方の「退出」は、会員が組織をやめること、あるいは客が競合の製品へ乗り換えること。もう一方の「発言」は、会員や客が「内側から」変化を求めて働きかけること)。窓口に残るのは、このうち後者を選んだ人の分です。

ここから先は、集まった声がどれだけ偏るのかの話になります。要旨まで読めた学術の5点は、偏りの出どころをそれぞれ別の場所に見ていました。集め方そのもの、声を上げない客の性質、そして苦情が届く手前の段階です。
01由緒の原典は、網羅の装置ではなかった。「顧客の声」という言い方の由来は、1993年にマーケティングの学術誌へ出た論文にあります。要旨が扱うのは、何人に聞き取りが必要か、どれだけの要求を取りこぼすか。少数の聞き取りから要求を抽出する手順です。同じ要旨は、満足度の測定について “Our data demonstrate a self-selection bias in satisfaction measures”(私たちのデータは、満足度の測定に自己選択の偏りがあることを示す)と述べます。聞き取りの回数は本文にあり、読めていません。
02苦情を言わない客は、別の集団として比べられた。2006年、学術誌に苦情を言わない客を扱った調査が出ました。出来事を書いてもらう方式で、質的149人・量的530人。苦情を言わない客2種(店から回復を受けた人/回復のないまま離れた人)と言った客3種の5群を、再購買の意図・否定的な感情・後悔・悪い評判を広める意図で比べています。いずれも本人の申告です。結果は “challenge existing views of noncomplainers’ repurchase intentions and negative outcome levels”(苦情を言わない客について、既存の見方に異を唱える)と要約されました。
03苦情率の差は、法執行事案の被害者と突き合わせて測られた。2020年の研究は、一般の製品苦情ではなく米国の取り締まり当局が扱った法執行事案を使いました。被害者と、当局の苦情データベースへ苦情を寄せた人を比べ、“much lower complaint rates in heavily minority areas compared with nonminority areas, relative to their respective victimization rates”(少数派住民の多い地区では、被害率に比して苦情率がはるかに低い)と報告します。要旨は、情報不足より信頼や社会関係資本の低さの説明に沿う証拠だと述べます。法執行事案の被害という特定の場面の話で、苦情一般には広げられません。

自分がいま、集まった声をどう扱っているのか。手元の言い方のほうに出ます。
01集まった分を、そのまま「顧客の声」と呼んでいる。呼び名を付けた時点で、それは全体の声として扱われ始めます。けれど1970年の学術書がすくい分けたのは、内側から言う向きと、黙って乗り換える向きでした。手元にあるのは前者の記録です。呼び名を「届いた声」に戻すだけでも、指しているものは変わります。
02件数が増えたことを、代表するようになったことにしている。1993年の要旨が自分たちのデータで示したのは、満足度の測定に自己選択の偏りがあるということでした。偏りは、母数を増やしても向きが変わるとは限りません。増えたのが全体の縮図なのか、言いやすい人の分なのかは、件数だけでは分かれません。
03苦情が減ったことを、良くなったことにしている。1987年、マーケティングの学術誌に、苦情対応を数理モデルで扱った理論研究が出ました。要旨は、苦情を減らそうとする目的そのものを疑わしいとし、“complaints from dissatisfied customers should be maximized subject to certain cost restrictions”(不満を持つ客からの苦情は、一定の費用の制約のもとで最大化されるべきだ)と述べます。モデルの中での結論で、現場での効果を測った実験ではありません。

断っておきます。6点のうち5点は公式の要旨までで、本文には届いていません。残る1点は学術書で、発行元の紹介頁にある定義文までです。どの章のどこにあるかは特定できていません。
もうひとつ。2006年の調査と2020年の研究は、どちらも「集まった声は全体を代表しない」という向きを支えますが、見ている原因の層が別です。前者は回復対応の有無で分かれた5群の申告、後者は地区の人種構成と信頼でした。同じ一文にまとめられる結果ではありません。
集まった声が増えても、
増えたのは、言えた側の分。
では、届いた声は大事に扱われているのか。1998年にマーケティングの学術誌へ出た調査は、“a majority of complaining customers were dissatisfied with recent complaint handling experiences”(苦情を言った客の過半数が、最近の苦情対応の経験に不満だった)と報告しました。分母は苦情を言った客です。苦情対応への満足は信頼や関与と結びつき、以前の良い経験が悪い対応の影響を限られた範囲で和らげた、とも述べています。いずれも本人の申告にもとづく調査です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近に自分のところへ届いた声(問い合わせ・苦情・要望)をいくつか選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02SORT
ページを左右に分け、左に「どの経路で来たか」、右に「言ってきたのはどういう場面の人か」を並べる。
- 03MARK
最後に一行、「ここには、黙って去った人の声は入っていない」と書き添え、経路が偏っていればその印だけ付ける。
集める仕組み——誰に聞くか、どこへ配るか、どの窓口を開けているか——は、拾う声を先に選んでいます。要旨の範囲で見えたのは、由来の原典が抽出の手順だったこと、声を上げない客が別の集団として比べられたこと、そして法執行事案の被害という特定の場面で苦情率に差があったことでした。声を集めるな、という話ではありません。集まったものを何と呼ぶか、という話です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS顧客の声を製品に届けるには?を、もっと深く学ぶ。→