IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 406
● 12 SEC怒っている相手には、まず黙って聞く。そして丁寧に謝る。それでたいていは鎮まる——接客の心得として、いちばんよく渡される手順です。
謝罪は効きます。ただし、確かめられていたのは条件つきの効き方でした。先に断っておくと、この号が当たった6点は、いずれも要旨まで。全文には届いていません。読めていないことは書きません。 鎮め方の台本も書きません。
サービス回復(service recovery=失敗のあとの立て直し)から、謝罪だけを取り出して測った実験があります。2012年に公開されたその実験は、謝罪を共感の度合い・強さ・タイミングという三つの成分に分け、三つがそれぞれ別に満足を動かすと報告しました。共感を込めるほど、強く詫びるほど、回答者の満足は高い。いっぽう遅れた謝罪は、満足の評価を下げました。効果の大きさは共感が最大で、次に強さ、そしてタイミングです。

原典は、うまく届いた謝罪こそが回復の満足を動かすのであって、“not its mere presence”(あるかないかではない)と書きます。結果そのものの失敗か、過程の失敗かでも効き方は変わり、共感の効果は過程の失敗のほうで大きい。しかも過程の失敗では、謝罪ぜんたいの効果の大きさは埋め合わせと同程度だと報告されています。
01遅れた謝罪は、満足を下げた。場面を読ませて反応を測る実験です。謝罪の共感の度合い・強さ・タイミングを別々に動かし、立て直しへの満足を測りました。共感を込めるほど、強く詫びるほど満足は高く、遅れた謝罪は評価を下げる。効果は共感が最大で、過程の失敗ではとくに大きい。測ったのは回答者の満足の自己申告で、実際の来店や購買ではありません。
02埋め合わせは、良い対応の代わりにならなかった。客に金銭の損が出ない失敗を扱った実験です。埋め合わせ・対応の速さ・謝罪は、互いに絡み合って(交互作用)満足を左右しました。すぐ対応して詫びた場合、埋め合わせを足しても満足は上がらず、遅れて詫びもない場合、埋め合わせは不満を和らげませんでした。効いたのは、遅れたが詫びた・すぐ対応したが詫びない、という中途半端な場合だけです。
03効いたのは、型が合った埋め合わせ。失敗の種類に埋め合わせの型を合わせたとき、いちばん強い立て直しが見られた、というメタ分析と実験です。金銭の損には即時の金銭、欠陥品には交換、失敗したサービスにはやり直し、注意の欠如には心理的な埋め合わせ。ただし原著は、注意の欠如だけは他の型でも埋められたという例外も添えています。統合した研究数と人数は、読めた要旨に印字がありません。

自分がいま、何を増やそうとしているのか。手元の言い方のほうに出ます。
01詫びの言葉を、増やしている。実験が分けたのは、共感の度合い・強さ・タイミングの三つで、言い回しの本数ではありませんでした。長く書くほど強く詫びたことになる、とは報告されていません。遅れた謝罪が評価を下げたのも、同じ実験の中の話です。
02遅れを、埋め合わせで取り返そうとしている。客に金銭の損が出ない場面の実験では、遅れて詫びもない対応への不満を、埋め合わせは和らげませんでした。埋め合わせが満足を押し上げたのは、遅れたが詫びた場合と、すぐ対応したが詫びなかった場合。良い対応の代わりにはならない、という向きです。
03これからの見通しを、渡していない。2010年の研究は、起きたことの説明は怒りを、これからどうなるかの説明は無力感を和らげると論じ、実験と、宿泊客を対象にした現地調査の両方で支持されたと報告しました。推定は部分最小二乗法というモデルによるものです。

「デエスカレーション(鎮静の技法)」としてまとめられている知見は、11本の国際的な論文を主題ごとに束ね直した総合で、七つの主題が取り出されています。母体は精神科の看護など、心の医療の現場でした。原著自身が、これは“overlooked by rigorous research”(厳密な研究に見落とされてきた)複合的な介入で、現場の人なら実行できると思い込まれがちだ、と書いています。接客の窓口を測ったデータは入っていません。 11本は論文の本数で、効果の大きさではありません。
残る5点にも限定があります。2004年の実験は客に金銭の損が出ない失敗を扱いました。2007年の研究は現地調査と実験室の研究で、詫びる・問題を解く・丁寧にする・すばやく扱うの四つが、公正だという感じ方を介して満足と再購買の意図を上げたと報告しています——意図であって、実際の購買ではありません。ただし失敗の重さと繰り返しは、四つのうち一部の効きを弱めたとも書かれています。2014年のメタ分析は研究数と人数が要旨に印字されず、6点とも届いたのは要旨まででした。
謝罪の効き方を分けたのは、
あるか無いかではなかった。
だから、この号は謝罪文の型を渡しません。実証の側にあったのは、共感を込めること・遅れないこと・失敗の種類に型を合わせること・これからの見通しを渡すことの四つで、どれも「必ず鎮まる言い方」ではありません。そして、それを渡し続けられるかどうかは、渡す側の余力の問題でもあります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分が対応した、相手が怒っていた場面を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02SPLIT
そのとき渡したものを、詫びの言葉/埋め合わせ/これからの見通し、の三つに分けて書く。
- 03MARK
何に対しての詫びだったかが自分でも曖昧なら印を付け、印の数だけを数える。
研修で配られる技法にも、確かめられた場所があります。鎮静の技法としてまとめられた知見の出どころは、接客の窓口ではなく心の医療の現場でした。謝罪のほうは接客の失敗を扱った実験で測られていて、そこで分かれたのは、あるかないかではなく、どう届いたかです。同じ言葉でも、測られた場所が違えば、持ち出せる範囲も変わります。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「怒りを鎮めるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
