IN CUSTOMER SUCCESS · ISSUE 405

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

クレームはチャンス。失敗しても、そのあとの立て直しがうまくいけば、かえって前より好かれる——サービスリカバリー・パラドックス(回復の逆説)と呼ばれる主張です。この号は、上手な謝り方を書きません。どの物差しが動いて、どの物差しが動かなかったかを分けます。

2007年、この逆説を測った研究を統計的に束ねた統合が出ました。累積した平均の効果は、満足については有意に正で、逆説を支持しています。いっぽう再購買意図・口コミ・企業イメージでは有意ではなく、著者らはこれらの変数には効果が無いことを示唆する、と書いています。

サービスリカバリー(失敗のあとの立て直し)を実務の言葉として広めたのは、1990年に経営の実務誌へ載った記事です。査読を経た研究ではありません。この号はその記事の全文まで読めましたが、中の数値は運びません。出所が1986年の消費者苦情調査か、あるいは業界の専門家の多くが同意する、としか書かれていないものだったからです。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
束ねてみると、動いた物差しと、動かない物差しに分かれた。 Visual: ALIFE

この号が使った実証は5点。設計の別を先に置きます。2点は、架空の失敗と回復の場面を読んで評価するシナリオ実験——そのうち1999年の1点は、飲食店とホテルを舞台に、失敗の型に合った埋め合わせを、失敗の大きさに見合った量で受け取ることを顧客が好む、と報告しました。残りは、実際の接客経験に基づく大規模な聞き取り1点、20か月の反復測定の現地調査1点、そして冒頭の統合です。

01統合で動いたのは、満足の物差しだった。2007年の統合(メタ分析=複数の研究の結果を統計的にまとめる方法)は、累積した平均の効果を “significant and positive on satisfaction, supporting the SRP”(満足については有意に正で、逆説を支持する)と書き、再購買意図・口コミ・企業イメージでは有意でないとしています。統合した研究の数と人数は、読めた範囲の抄録に印字がありません。調整変数は、横断か縦断かの設計・対象が学生か学生以外か・サービスの種類(ホテル・レストラン・その他)。

021万1,000件を超える聞き取りでも、まれだった。2008年、銀行の場面で、実際の接客の経験に基づく1万1,000件を超える顧客への聞き取りを用いた調査は、この逆説を “a rare event”(まれな出来事)と結論しました。平均の差は有意ではあるがそれほど大きくない、と原著が自ら書いています。標本が大きすぎて多項目の尺度は取れず、プライバシー上の制約で縦断調査も、実際の行動データとの連結もできなかった、という限界も明記されています。

03回復のあとの満足は、失敗が無かったときに届かなかった。2000年、架空の場面を読んで評価するシナリオ実験2件は、“even given high-recovery performance”(高い回復成績が与えられた場合でも)、失敗と回復のあとの満足は、失敗の無いサービスのときより低かったと報告しました。原著の結論は、失敗に優れた回復で応じるより、失敗そのものを避けるほうが消費者の目にはよい、というものです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
架空の場面の実験と、実際の顧客への聞き取り。同じ棚には置けない。 Visual: ALIFE

「怒った客ほどファンになる」という言い回しが、証明の顔をして流通するとき。手元で見分けられる形が、3つあります。

01由緒を、効果の証明として置いている。出発点の1990年の記事は実務誌で、査読を経た研究ではありません。概念が古くからあることと、前よりプラスになると測られたことは、別の話です。この号はその記事の全文まで読みましたが、中の数値は運びません。

02架空の場面の結果と、実際の客の結果を並べている。この号の実証5点のうち2点は、失敗と回復の場面を読んで答えてもらう形式です。1点は実際の接客経験に基づく聞き取り、1点は20か月の反復測定、1点はそれらの統合。どの設計から出た数字かで、言えることの範囲が変わります。

03一度うまくいったから次も、と数えている。2002年、20か月に2回の失敗と回復をはさんだ反復測定は、満足のいく回復が一度の失敗のあとには逆説を生みうるが、二度のあとには生まないと報告しました。二度続けて不満足な回復では “double deviations”(二重の逸脱)が起こりうる。測ったのは企業への総合満足・口コミで勧める見込み・再購買意図で、いずれも本人の申告です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床のコートと鍵
一度目は持ち直せても、二度目では生まない。測ったのは本人の申告。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6点のうち1点。読めていないものについては書きません。統合した研究の数と人数は、読めた範囲の抄録に印字がありません。大規模な聞き取りのほうは、多項目の尺度が取れず、回答と実際の行動データも結べていない——原著が自ら書いた限定です。

そして、満足も再購買意図も本人の申告であって、実際に買い直したかではありません。回復のあとの高い満足を答えるのは、答えた人です。見切って去った人の評価は、その数字に入っていない——というのが、この号の読み筋です。研究がそう測ったわけではありません。

前よりプラス、の旗艦の逸話には、
その会社はおそらく測れなかっただろう、
と書き添えてあった。

1990年の記事の全文には、その一夜で市場を取ったという逸話に、“Although the company probably couldn’t measure it”(その会社はおそらくそれを測れなかっただろうが)という断りが添えられています。前よりプラスの起点は、起点の時点ですでに、測れないと書かれていたのです。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分が対応した失敗と立て直しを、ひとつだけ思い出して書く。

  2. 02SORT

    その失敗が軽かったか重かったか、初めてか二度目かを書き分ける。

  3. 03MARK

    回復の届き先を、失敗が無かった状態より良いか、傷が浅くなっただけかに印を付け、印の数を数える。

10分。相手に聞き直す必要はありません。どちらが正しい対応だったかは書かず、条件と届き先を分けて記録するだけの作業です。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。

束ねた結果、動いていたのは満足の物差しでした。再購買意図・口コミ・企業イメージでは、有意な効果は出ていません。実際の顧客への大規模な聞き取りでも、逆説はまれな出来事で、差は有意ではあるが大きくない。回復に価値がない、という話ではありません。2008年の調査は、まずい応対のあとに際立った回復で応じるやり方が成り立つ戦略だとは言えない、とも書いています。確からしくなったのは、前より好かれる、ではなく、まれで条件つき、という向きのほうです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「クレームを信頼に変えるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。