IN SALES · ISSUE 384
● 12 SEC売った後には、定番の言い方があります。満足してもらい、良い関係を築けば、離れない。その裏返しとして広く知られているのが、満足していても、客は離れるという一行です。
ただし、この一行が出てきた論考には、そこに付いていた条件があります。先に断っておくと、この号が引いたのは5点。全文まで読めたのは1点で、残る4点は公式の要旨までです。読めていないことは書きません。
売った後の信頼を、ここでは「一度買ってくれた相手が、次も選ぶかどうか」として扱います。出発点は1995年に実務誌へ出た論考で、30社を超える企業を精査し、競争の環境が異なる5つの市場——自動車、法人が買うパソコン、病院、航空会社、地域の電話——のデータを分析したものです。査読を経た効果測定ではありません。
そこに置かれた一行が有名になりました。客は、完全に満足した状態でなくなった瞬間に離れていく——そして、選ぶ余地があるときに。原文は “customers will stray the instant they’re no longer completely satisfied—and have a choice.” と書いています。引かれるときに落ちるのは、たいていこの後半です。

では、選ぶ余地がなかったら。同じ論考は、5つの市場のうち1つでそれを見ています。ほぼ完全に客を押さえていた地域の電話は、満足と忠誠の関係が予想どおりに出た唯一の市場でした。原文は “Customers remained loyal no matter how dissatisfied they were.”——不満がどれほどでも、客は忠実なままだった。離反は、相手に行き先があるときの現象です。
きっかけも1社の社内の発見でした。完全に満足した客は、ただ満足しただけの客より、次の18か月のうちに買い直す見込みが6倍高かった。1社の社内調査で、査読を経た測定ではありません。しかもこの論考の忠誠は、多くをまた買うという本人の申告で測っています。
01意向で測ると、条件は現れなかった。2005年に学術誌へ出た小売の研究は、満足と再購入の関係が利便性・競争の激しさ・関与・世帯所得の四つに左右されると報告しました。同じモデルを、縦断の実際の購買と、調査の申告の両方で推定しています。原文は “the moderating effects emerge if repurchase is measured as objective behavior but not if it is measured as repurchase intentions”——条件の効きは客観的な行動で現れ、意向では現れない。
02同じ「満足」でも、強さが違えば次が違う。2007年に学術誌へ出た研究は、満足していると答えながら離れる客に注目し、申告された満足を満足の水準と満足の強さという二つの側面に分けました。米国のある大きなサービス事業者の継続的な追跡調査のデータで、一つ目は企業間の取引、二つ目は消費者向けの、サービスの失敗と回復の場面での追試です。平均点は、この強さを覆い隠します。
03まず支持されているのは、関係が効くほう。2006年に学術誌へ出たメタ分析の要旨は、関係づくりが業績を高めるという基本前提はよく支持される、と書きます。そのうえで効き方は場面で大きく違う——関係が客にとって重要な場面、そして売る会社ではなく個人と結ばれたときに、より効く。研究数と標本数は、読めた要旨に印字がありません。

点数が高いと、守れていると感じます。その感じが出ているときの手がかりは、相手の側ではなく、自分の手元の記録のほうに出ています。
01高い点数を、守れている証拠にしている。2007年の研究が分けたのは、満足の水準と満足の強さでした。平均点は強さを覆い隠すので、点数の高さは、確信の強さを保証しません。ただしそこで測られたのは、ある一つのサービス事業者の追跡調査のデータで、あなたの相手ではありません。
02「また来る」という言葉を、行動として数えている。2005年の小売の研究では、条件の効き方が、実際の購買で測ったときと、申告された意向で測ったときとで有意に違いました。1995年の論考も、忠誠の多くをまた買うという申告で測っています。言葉と行動は、別々に数えたほうが安全です。
03関係の濃さを、そのまま守りの計画にしている。メタ分析の要旨は、関係づくりが効くこと自体は支持されると書きます。ただし効き方は場面で違い、2009年の研究では、実験室の実験と、売り手と買い手を対にした縦断の調査の二つで、感謝が効果を媒介していました。何がどう引き止めているかを言えないうちは、計画ではなく見立てです。

両論を、そのまま置きます。2006年のメタ分析の要旨は “Although the fundamental premise that RM positively affects performance is well supported” ——関係づくりが業績を高めるという基本前提は、よく支持されている——と書き、関係への投資が売り手の客観的な業績に大きな直接効果を持つとも述べています。関係は効かない、という号ではありません。
標本の限定も断ります。5つの市場の報告は実務誌の論考で、要旨まで読めた4点の標本は、小売、米国のある大きなサービス事業者、そして売り手と買い手の関係を扱った研究です。個人の受注、狭い商圏、二度目が口伝てで来るような商いを標本にした研究は、読めた5点の範囲にはありません。そして5点のどれも、売った後の手当てを比べて、どれが引き止めたかを測ってはいません。
満足していても離れるのは、
相手に選ぶ余地があるとき。
だから、ここから言えるのは一つです。点数の高さを、守れている証拠として数えない。これは研究が命じた手順ではなく、読めた範囲を踏まえてALIFEが提案する読み筋です。満足度を測るのをやめよう、という話でもありません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
過去に一度買ってくれた相手を三人思い出し、今日の日付と一緒に、相手が特定できない記号で書く。
- 02SORT
各人について二つだけ書く。そのとき満足していたと感じたか(高い・ふつう・低い)。実際に二度目が来たか(来た・来ない・わからない)。
- 03MARK
二つがずれている相手に印を付ける。どちらが正しいかは書かない。ずれが無くても、そのまま記録する。
売る側の帳簿は、成約で閉じます。買った側の帳簿が開くのは、その後です。読めた範囲で確かめられているのは、点数と行動のあいだに隙間があること、そしてその隙間が、相手に選ぶ余地があるかどうかで形を変えること。どう埋めるかまでは、まだ測られていません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「売った後も信頼を保つには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
