IN SALES · ISSUE 369
● 12 SEC予算はあるか。決める権限を持つ人か。本当に困っているか。いつまでに要るのか——営業の本には、追うべき相手を見分けるための確認項目が、いくつも載っています。項目が埋まると、見極めた気がします。その感触が何で裏づけられているのかを、先に見ます。
これは枠を捨てる話ではありません。この号が引く研究6点のうち、全文まで読めたのは1点、題名までしか届かなかったのが2点で、読めていないものについては書きません。
見込み客の見極め(lead qualification)は、問い合わせや引き合いのうち、どれに自分の時間を使うかを決める仕事です。売り込みは相手の時間を借りる行為ですから、これは誰を追うかを決める技術であると同時に、追わない相手を決める技術でもあります。ここで使われるのが、四つほどの確認項目を並べた枠です。予算・決める権限・困りごと・時期。判断の指標や、社内で味方になる人まで足した、もっと細かい枠もあります。

では、その枠は、どこまで確かめられているのか。手がかりは、見込み客に点数を付けて追う順番を決めるリード・スコアリングの研究にあります。この分野は近年、機械の学習で点数の付け方を作り直そうとしていて、その過程で、従来のやり方を自分たちで批判しています。
01点数やスコアカードの方法は、たいてい検証を欠く。2025年に人工知能の査読誌へ出た論文は、冒頭でこう書きます——“Traditional or manual lead scoring methods are based on rules, points and scorecard models and usually lack formal statistical validation.”(従来の、あるいは手作業のリード採点法は、ルール・点数・スコアカードのモデルに基づき、たいてい形式的な統計的検証を欠く。)項目を埋める枠は、この「ルール・点数」の側にあります。ただしこの論文自体は、1社のソフト企業の顧客管理データを15種類の分類の手法で比べた事例研究で、枠の効き目を試したものではありません。
02効く要因が調べられたのは、1社の記録の中だった。近年の研究は、万能の一枚ではなく、手元のデータから解く問題として扱います。通信の1社の実データを掘り、リードごとに成約の見込みを見積もった事例研究(2021年)。点数を付ける前に似た性質どうしに束ね、その中で順位を付ける二段構えの模型を提案し、三つのB2Bサービス業で確かめた研究(2026年)。どちらも1社ないし数業種の中の話で、あなたの商いに同じ特性が効くとは書かれていません。
03仕組みと成果の関連は、自己申告の回答で測られた。2019年の研究は、内勤の営業で、見込み客を管理する仕組みの利用が成果とどう結びつくかを調べました。営業担当者から集めた108人分の回答を、複数の関連をまとめて解くモデルに掛け、相手に合わせた売り方や追いかけの密度などを合わせると、売上成果のばらつきの半分強(55%)が説明できた、と報告しています。ただしこの成果は本人の自己申告であって、客観の売上記録ではありません。

自分がいま、枠のどちら側にいるのか。日々の言い方に、手がかりがあります。
01埋まった項目の数を、確度として数えている。項目がそろうと、見込みが高い相手だと感じます。けれど枠が保証しているのは、聞き忘れが無かったことまで。全文まで読めた1点にも、要旨まで読めた3点の要旨の範囲にも、項目の充足と成約の確率を結びつけて確かめた記述はありませんでした。
02数字の出どころを、確かめずに使っている。「この枠なら勝率がこれだけ上がる」という値をよく見ます。その多くは、枠を教える側や調査の会社が、自社の顧客から集めた申告をまとめたものです。由緒の立派さと、あなたの商談で効く証明は、別です。
03追わないと決めた判断を、残していない。見極めの半分は、追う相手を選ぶことではなく、追わない相手を決めることのほうにあります。降りた判断は記憶に残りにくく、記録が無ければ、自分が実際に何で見極めているのかも見えません。

題名までしか届かなかった2点については、何がどちら向きに出たのかを書きません。2015年の、商談の状況の複雑さとリードの成果を結びつけて調べた実証研究と、2011年の、産業財でリードが成約へ変わる過程を模型にしようとした研究です。前者は原題の「企業」が単数形で、1社の中の話である疑いが残ります。
標本の偏りも断っておきます。ここで引いた研究は、いずれも法人どうしの取引を回す組織の営業——ソフト・通信・三つのサービス業——のデータでした。ひとりで見積もりを出す人、教室の体験相談、店先での一対一のやりとりを対象にした研究は、読めた範囲にありません。平均は地図であって、あなたの商談ではありません。
埋まった枠は、聞き漏らしが無かった印。
成約の印かどうかは、別に確かめることになる。
枠が役に立たない、という話ではありません。会話の抜け漏れを防ぐ順序のメモとしては、たしかに使えます。ただ、順序のメモが手に入ることと、その相手が成約するかどうかの見通しが手に入ることは、別です。枠は、確かめる問いの順序を用意してくれる。答えのほうは、手元の記録にしかありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
最近、追うのをやめた、または断った相手を1件思い出す。まだ商談中の相手は選ばない。
- 02WRITE
今日の日付と、「なぜ降りたのか」を1行だけ書く。
- 03SORT
その理由が予算・権限・困りごと・時期のどれに当たるか、どれにも当たらないかを書き添える。
四つの頭文字は、覚えやすく、会話の順序としてよくできています。だから残りました。いっぽう読めた範囲の研究が言っていたのは、点数を付ける形式そのものが正面から検証されにくいことと、効く要因が調べられたのは1社の記録や特定の業種の中で、あなたの商いに当てはまるかは書かれていない、という地味な事実のほうでした。枠の由緒が立派なことと、あなたの商談で効く証明があることは、別です。
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