IN SALES · ISSUE 383

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「負けた商談を振り返れば、そこから学べる」。よく聞く一文です。この号の教材は、その振り返りを汚すものとして三つの癖を並べていました——結果を知ってから見方が変わること、勝ちを自分に負けを外へ割り振ること、判断の良し悪しを結果で決めること。

この号が当たったのは六点。本文の最後まで読めたのが一点、要旨まで読めたのが五点でした。読めていないものについては書きません。そのうえで読み直すと、三つのうち一つは、支えとして引かれた二本が、別のことを書いていました。

失注分析(win-loss)は、勝った商談と負けた商談をあとから振り返り、理由を探すやり方です。ここで材料になるのは、その場の記録ではなく、あとから思い出した中身と、本人の説明でした。汚れると書かれていたのは、分析のやり方ではなく、この材料のほうです。負けた側の記憶と説明をどれだけ集めても、勝った側と比べる材料は増えません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
材料は、その場の記録ではなく、あとから思い出した中身と本人の説明のほうだった。 Visual: ALIFE

では、三つの癖はどこまで確かめられているのか。引かれていたのは1988年から2023年まで、三十五年ぶんの六点でした。この号が読めた範囲まで戻すと、支えられ方は三つに分かれます——強くはっきり支えられているもの、標本によって大きさが動くもの、そして引かれた二本が別のことを書いていたもの。

01減らす工夫を入れた研究でも、ずれは縮まなかった。2004年に Basic and Applied Social Psychology 誌へ出た統合研究(メタ分析=多くの研究を束ねて全体の傾向を見る手法)は、95本の研究(うち12本は未公刊)から252の効果量を集めました。効果量は食い違いの大きさを表す数で、0なら差なし。全体の平均は Md=.39 です。要旨はこうも書きます——“studies that included manipulations to reduce hindsight bias did not produce lower effect sizes”(この癖を減らす操作を入れた研究でも、効果量は低くならなかった)。

02「営業でも同じ」と引かれた二本は、別のことを書いていた。勝ちを自分に、負けを外へ割り振る癖には、営業を対象にした二本が引かれていました。2001年に Journal of Marketing 誌へ出た一本は、金融サービスの営業228人に前回の商談の帰属を尋ねていますが、要旨が述べるのは尺度をつくり、妥当性を確かめたところまで。割り振りの向きは書かれていません。2003年に Journal of the Academy of Marketing Science 誌へ出たもう一本は新人296人が対象で、要旨の結論は“In the event of a sales failure, rookies’ responses do not parallel those of veterans.”(失敗したとき、新人の反応はベテランのそれと並行しない)でした。

03その偏りは、アジアの標本で0.30まで下がった。2004年に Psychological Bulletin 誌へ出たもう一つの統合研究は、266本の研究・503の効果量を束ね、平均を d=0.96(効果量。0なら差なし、大きいほど偏りが大きい)と報告しました。ただし要旨は内訳も印字しています——アジアの標本では0.30、米国では1.05、西洋圏では0.70。精神的な不調のある標本では0.48、ない標本では1.28。日本語で読むこの記事に近い側の数字は、文化の3区分の中では小さいほうです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
縮まらなかったずれ、向きの書かれていない二本、標本で三倍以上ひらく偏り。 Visual: ALIFE

中身の当否とは別に、自分の手元だけで気づけることがあります。

01負ける前の予想が、出てこない。敗因は次々に出てくるのに、断られたと知る前に自分がどう見ていたかは出てこない。統合研究が測っていたのは、まさにその前後のずれのほうでした。

02理由が、外側にばかり並ぶ。「価格が高かった」「時期が悪かった」。外側の理由が並ぶとき、割り振りの癖が出ている可能性は残ります。ただし、その向きを営業の場で測った研究に、この号は行き当たっていません。大きい偏りの数字は、営業ではなく一般の場面の統合研究のものです。

03勝った商談の進め方を、点検していない。負けた側だけを調べれば、比べる相手がいません。同じ判断でも結果が良ければ評定が高く出る、という報告があるのは、この非対称のほうです。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
予想が残っていない、理由が外に並ぶ、勝った側を見ていない。 Visual: ALIFE

三つめの癖は、いちばんはっきり支えられています。1988年に Journal of Personality and Social Psychology 誌へ出た研究は、五つの実験で学部生に、他人が不確実ななかで下した判断とその結果を見せ、判断の質を評定させました。題材は医療の事案か、金銭の賭けです。結果が良いときのほうが、評定は高く出ました。要旨の結びはこうです——“Although subjects who were asked felt that they should not consider outcomes in making these evaluations, they did so.”(結果を評価に入れるべきではないと考えていた人も、そうしていた)。

2023年に International Review of Social Psychology 誌へ出た追試は、その一つめを、オンラインで集めた692人にかけ直しました(もとは20人)。向きは同じで、d は0.77〜1.10と、もとの0.21〜0.53より大きく出ています。結果を考慮すべきでないと答えた層だけを見ても0.64でした。ただし題材は医療の事案のままで、商談ではありません。この号が読んだ六点に、この癖を営業の場で測ったものはありません。ここまでの偏りの大きさは、判断や帰属を本人に評定させて測った数字で、成約率や売上のような、外から数えられる成果ではありません。

結果を評価に入れるべきではないと
考えていた人も、そうしていた。

だから、負けた一件を丁寧に並べ直すほど、話は整っていきます。整った敗因は、結果を知ってから組み直した見方かもしれません。読めた範囲で言えるのは、結果を知っているかどうかで、評定が違って出るところまで。振り返りそのものが次の成果につながるかは、この六点のどれも測っていません。教材が教科書例と呼んでいた「負けは価格のせい」も、読めた六点の中に、それを測った研究はありませんでした。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    最近断られた一件を選び、相手が分からない記号と日付を書く。

  2. 02WRITE

    断られたと知る前、自分はどう見ていたかを「勝てそう・五分・厳しそう」の一語で書く。

  3. 03SORT

    いま挙げている負けの理由を書き出し、自分の外側にあるものへ印を付ける。0件でも、そのまま記録する。

10分。相手に敗因を確かめに行く必要はなく、次の商談の台本も作りません。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めるためにALIFEが提案する実践入口です。

道具を増やす前に見えるのは、材料のほうです。結果を知る前の見通しは、まだ残っているか。理由は外側にばかり並んでいないか。確かめるのに要るのは、一行を書き足す手間です。増やすのは分析の手数ではなく、書く順番のほうでした。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「失注から学ぶには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。