IN SALES · ISSUE 382

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

研修を受け、コーチをつければ、売る力は上がる。営業の周りでいちばんよく聞く売り文句です。ただ、受けたことと使えたことは同じではありません。そして「効いた」と言うときの数字は、思ったより小さなまとまりから出てくることがあります。

この号は、職場でのコーチングの効き目を束ねた2つの研究と、学んだことが現場へ移るかを整理した3つの総説を読みます。全文まで読めたのは6点のうち2点。読めていないものについては書きません。「この型を身につければ売れる」という話は、ここには出てきません。

まず言葉を置きます。研修は、まとまった時間をとって型を教わる場。コーチングは、実際の仕事に合わせて繰り返し助言をもらう関わりです。そして転移(transfer)は、教わった場で身につけたことが実際の仕事の場に持ち込まれ、そこで使われることを指します。2011年の統合レビュー(査読誌)は、訓練された多くの能力が職場へ移らないと報告されてきた、と書きます。ただし、抄録まで読めた3つの総説の抄録の範囲に、何割が移るのかを示した数字はありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
受けたことと、使えたことのあいだには、まだ数字の埋まっていない距離がある。 Visual: ALIFE

では、効き目そのものはどう測られているのか。ここから先は、コーチングの効果を束ねた2つの研究を読みます。どちらも組織に属して働く人が対象で、ひとりで売る人を集めた研究は、読めた範囲には入っていません。先に言っておくと、同じ「コーチング」でも、どの研究のまとまりを見るかで、値の順位は入れ替わります。

01いちばん大きい値は、3研究・116人の行にあった。職場のコーチング17研究・2,267人を束ねた2016年のまとめ(査読誌)は、全体をδ=0.36(90%信頼区間 0.16〜0.50)と報告しました。δは0なら差なし、大きいほど差が大きい指標です。内訳は気持ちの面が0.51(10研究・592人)、技能が0.28(10研究・1,784人)、業績や目標達成などの客観指標が1.24(3研究・116人)で3つのうち最大でした。

02もう一方のまとめでは、ばらつきがいちばん大きかった。2014年のもう1つのまとめ(18研究・2,090人)は、業績と技能をひとまとめにした枠をg=0.60(6研究・2,007人)と報告しています。gも0なら差なしの指標で、5つの枠のうち2番目に大きい値でした。ただし研究間のばらつきを表すI²は95.55%で、5つのうちただ一つ90%を超えています。同じ見出しの下に、結果の揃わない研究が並んでいたということです。

03研究デザインで分け直すと、同じ枠が最小になった。同じまとめの別の表は、研究デザインごとに数字を割り直しています。独立した2群を比べた5研究・1,372人に限ると、業績と技能の枠はg=0.18(95%信頼区間 0.04〜0.32)で5つのうち最小。残る1研究(同じ人を前後で比べた100人)は2.33でした。同じ表の他の4つの枠は0.26〜0.48です。0.60という見出しの値は、この1研究に強く引かれています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
17研究を束ねたまとめで最大だったのは、3研究・116人が支える行だった。 Visual: ALIFE

効き目の数字を見かけたとき、その値が何に支えられているかは、たいてい同じ行に書いてあります。見出しの数字ひとつで効く・効かないを決めてしまうと、その下の行が消えます。見るところは3つです。

01その値に、何本の研究が乗っているか。17研究を束ねた2016年のまとめでも、枠ごとに乗っている研究数は違いました。客観指標の1.24は3研究・116人、技能の0.28は10研究・1,784人。同じ表の中でも、行によって支えの厚みが違います。

02何で測ったのかが、書いてあるか。2014年のまとめの著者は、業績と技能の枠には主観の指標と客観の指標の両方が入っていると本文で断っています。「客観的な成果」とひとことで呼ぶ前に、その枠に何が入れられたかを見ます。

03誰が誰をコーチしたのか。2016年のまとめは、社内外の専門のコーチによるコーチングだけを対象にし、上司と部下・同僚どうしのコーチングは除いています。上司が部下に行うコーチングを調べた研究は別にあり、同じ言葉でも中身は同じではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
何本の研究に乗っているか、何で測ったか、誰が誰をコーチしたか。 Visual: ALIFE

上司によるコーチングを調べた2014年の研究(査読誌)は、カナダのある銀行で、営業の責任を持つ財務アドバイザー122名がWeb調査に答えたものです。単一時点の横断調査で、業績は本人の自己報告。分析では、コーチングから業績への直接の道筋と、顧客志向(客の都合を先に考える構え)を介した道筋の両方が支持され、両者を合わせて業績のばらつきのr²=0.23——そのモデルで説明できた割合が約23%——が説明されました。

抄録は、この研究が "the direct link between coaching and performance, plus the mediating effect"(コーチングと業績の直接の結びつき、加えて媒介の効果)を見いだしたと書きます。著者たちは、顧客志向を完全な仲立ちとするモデルと、直接の効きだけを見るモデルの2つを対抗馬として比べ、直接と間接の両方を持つモデルのほうがよく説明したと報告しました。一国の一銀行の122名で、実験ではありません。

いちばん大きい値が乗っていたのは、
3研究・116人の行だった。

移るかどうかは、研修の出来だけで決まらない——ここは3つの総説が口をそろえるところです。2007年の統合レビューは、学ぶ人の特性・介入の設計と実施・職場の環境という3つの束を挙げ、2009年の統合レビューは、学んだことを仕事で使おうとする動機が無ければ、新しく身につけた知識と技能は仕事で使われない、と書いています。受けた回数だけでは、強くなったかは決まらない。どれだけ使えたかを測った研究は、読めた範囲にはありません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    直近で学んだ営業の型を一つ選び、その名前を1行で書く。本でも、教わったやり方でもいい。

  2. 02COUNT

    この数週間の商談・見積もり・問い合わせ対応を思い出し、その型を使えた場面の数を書く。

  3. 03SORT

    使えなかった分は、思い出せなかった・場面が合わなかった・噛み合わなかった、に分ける。

10分。部下も研修予算も要りません。うまくやれたかを採点する課題ではありません。誰かを評価したり、成約や売上を目標に置いたりする必要もありません。0件なら、それもそのまま記録します。この手順は記録のためのもので、研究が示した手順ではありません。

コーチングは効かない、という話ではありません。17研究を束ねたまとめでは、3つの内訳のどれも90%信頼区間が0をまたいでいませんでした。読めた範囲で言えるのは、いちばん大きく見えた値ほど、支えている研究が少なかったということ。そして、抄録まで読めた3つの総説の範囲には、受けた量そのものが力になるという記述はありません。数字は見出しではなく、その値が乗っている行で読みます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS営業チームを強くするには?を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。