IN SALES · ISSUE 381
● 12 SEC一番大事な一社を落とすには、関係者を書き出した攻略シートを埋めよ、と教わります。その型の代表は、1985年に世に出た営業の体系。研修会社が研修として売ってきた商品です。どう組み上げたかの経緯は、読めた書誌の記録には書かれていません。
では、その一社に手をかけると、何が返ってくるのか。重要な顧客を決めて手厚く扱うやり方について、この号が全文まで読めたのは1本でした。そこで九つの成果を分けて測ると、上がりやすい側と上がりにくい側に、はっきり分かれていました。
大口といっても、大企業に専任チームがつく相手のことではありません。ここでは、抜けたら困ると感じる一社——足しげく通ってくれる常連、売上の柱になっている取引先——のことです。売り手の側でこれを仕組みにしたものを重要顧客管理(KAM)と呼びます。担当を決め、活動・関わる人・資源・やり方の決め方をそろえて、その一社を特別に扱う考え方です。

査読の側で要旨まで読めた2本は、こう言っていました。2002年の研究は、複数の産業と複数の国にまたがる調査から、うまくいく形を八つの型に分け、型のあいだに成果の差があったと報告します。2013年の研究は、供給側304社の質問紙から、大口を重んじる姿勢が財務・非財務の両方の成果に影響し、その間を関係の質と関係を築く力が媒介すると報告しました。どちらも本文までは届いていないので、ここから先は、全文まで読めた1本の中身です。
01実践が根づいた会社ほど、九つの成果すべてと結びついていた。英国で開かれた重要顧客管理の研修や会議に来た管理職へ、三年かけて配った質問紙です。294人に配って217通が戻り、正式な仕組みを持たない8通を除いた209通を分析しています(回答率71%・回答企業の54%は英国拠点)。実践がどれだけ社内に根づいているかを七段階で聞くと、九つの成果すべてと強く結びついていました。ただし回答はすべて、売り手の側の自己申告です。
02手応えが大きかったのは、関係と満足の側だった。著者が九つを大きい側から並べると、上は関係の改善と顧客満足。次に継続・取引の占有率・売上・推奨がきて、下は対応コスト・利益率・共同投資でした。著者は、この形は「顧客の側の便益を出すのには向くが、コスト効率を回す道具としては向かないかもしれない」と書いています。一時点の自己申告なので、どちらが先かは測られていません。
03九つを全部足しても、全体の手応えの57.7%まで。「自社は重要顧客管理がどれくらい得意か」という全体の手応えを、九つの成果でどこまで説明できるか。結果は57.7%で、残る42.3%は説明できていません(この残りが何かは、この研究では分かりません)。しかも九つのうち対応コスト・利益率・満足度評価の三つは、全体の手応えに対して独自の説明を持ちませんでした。

この上下の分かれ方は、一人で商いをしている側にも、手元の形で出ます。
01「大事だから」で、計算が止まっている。その一社に使った時間を数えようとして、途中で「でも大事な相手だから」と止まる。上の質問紙で下側に並んだのは、対応コストと利益率でした。止まったままだと、下側にあったものは、手元でも数えられません。
02手応えを、相手の反応だけで測っている。「喜ばれた」「また声がかかった」で足りている状態です。上の質問紙で上側に並んだのも、関係の改善と顧客満足でした。ただし同じ研究で、満足度の評価は全体の手応えに対する独自の説明を持っていません。相手の反応は、こちらの取り分の代わりにはなりません。
03埋まった紙を、割けた時間と取り違えている。関係者を書き出して次の一手を書き込むと、進んだ気がします。ですがこの号が読めた範囲——全文まで1点、要旨まで2点——に、記入シートを埋めることと成果を結びつけて測った研究はありませんでした。紙の完成度と、その一社へ実際に割けた時間は、別に数えられます。

この号が当たった原典は6点。全文まで読めたのは1点で、要旨まで2点、残る3点は書誌や題名までしか届きませんでした。うち1点は版元が要旨も掲げていないので、題名の主題より先は分かりません。読めていないものについては書きません。1985年の営業の体系も本文には届いていないので、出どころと年だけを書いています。
全文まで読めた1本も、範囲は狭いものです。英国で開かれた催しに来た管理職209人の、一時点の自己申告。九つの成果はどれも一項目ずつで聞いていて、実際の会計の数字とは突き合わせていません。売り手の側だけに聞いていて、相手の側には聞いていません。著者自身も、売り手に返るものには時間差があるかもしれないと、推測の形で書いています。
関係と満足のほうは、上がっていた。
利益率と対応コストは、そうではなかった。
だからこの号は、「深い関係は割に合わない」とは書きません。読めた範囲が言っているのは、関係の深さと、こちらの取り分は、別々に測られていたというところまでです。どちらが先に来るのかも、残る42.3%が何なのかも、読めた範囲には出てきません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
抜けたら困ると感じる一社を一つ選び、名前は記号で書く。
- 02COUNT
この一年でその一社に使った時間を、訪問・連絡・対応に分けて、思い出せる範囲で1行書く。
- 03MARK
同じ紙に、そこから返ってきたものを1行書き、見合っていると感じるか・感じないかに印を付ける。
一番大事な一社について、いま手元にあるのは、たいてい相手の反応のほうです。喜ばれた・また声がかかったは数えやすく、その一社に何時間使ったかは数えにくい。読めた1本が分けて測っていたのも、まさにこの二つでした。攻略の巧拙より手前に、数えていない側が残っています。
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