IN SALES · ISSUE 380
● 12 SEC営業のやり方を手順書にまとめれば、誰がやっても同じように売れる。そう言われると、たいてい反論が返ってきます——大事なのは型ではなく、場面に合わせることだ、と。
その反論の側で引かれてきた研究を、読める範囲まで開いてみました。すると「場面に合うときだけ」という言い方に、著者自身が「意外にも」と例外を書き添えていたのが見つかりました。
手順書(プレイブック)とは、商談の運び方を「こういう場面ではこう言う、次はこう運ぶ」と並べた台本のことです。標準化は、その台本を決めて同じ順に運ぶことを指します。この号が扱うのは、組織が配る分厚いマニュアルではなく、自分用の台本のほうです。
扱う範囲も先に断ります。相手に合わせて売る(適応的販売)ことの効果を集計した数値には、この号は立ち入りません。見るのは、「一つの正しい型があるのか」という問いに、営業の研究がどう答えてきたかのほうです。

この号が引くのは、営業の研究6本です。全文まで読めたものは、そのうち1本もありません。要旨まで届いたのが4本、書誌だけが1本、本文にも要旨にも届かなかったものが1本。読めていない範囲のことは書きません。型そのものを割り付けて比べた研究も、読めた範囲にはありませんでした。要旨まで読めた4本が言っていたことは、3つに分かれます。
01「場面しだい」の起点は、これから調べようという提案だった。1981年に Journal of Marketing 誌へ出た枠組みの論文は、営業のやり取りの効き目を、売り手の持ち物・相手の買い物の課題・両者の関係という三つの調整する条件から見よう、と提案したものです。要旨にあるのは “A new approach for research on effectiveness in sales interactions is proposed”——研究のための新しい接近法を提案する、という一文。データで検定した結果ではなく、研究の方向の提案でした。
02「合うときだけ」に、著者が例外を書いていた。2006年に営業の専門誌へ出たモデルの分析は、販売の場面を「適応的」と「非適応的」に分け、前者で、相手に合わせて売ることと成績の正の結びつきを支持しました。要旨は続きます——“Surprisingly, there is also a positive relationship in the ‘nonadaptive’ condition.”(意外にも、「非適応的」な条件にも正の関係がある)。割り付けた実験ではなく、モデルの当てはめです。「適応的」な場面では、場面を読んで自分を変えられる売り手ほど、適応して売る意図と結びついていました。
03「賢く売る」の研究が測っていたのは、その手前だった。1994年に同じ Journal of Marketing 誌へ出た研究は、学ぶことを目標に置く人と、成果を目標に置く人で働き方がどう変わるかを調べています。要旨は “a learning goal orientation motivates working both smart and hard, whereas a performance goal orientation motivates only working hard”——学ぶ目標は賢くも懸命にも働かせ、成果の目標は懸命に働かせるだけ。題名に「効果的な販売」とありますが、読めた要旨の範囲に、賢く売ることが売上を高めるという記述はありません。

台本を決めることは、何をもって良しとするかを選ぶことでもあります。自分がどちらの言い切りに寄っているかは、ふだんの言い方に出ます。
01「場面しだい」を、答えとして使っている。起点になった1981年の論文は、条件によって効き方が変わるはずだ、という見方の提案でした。要旨の範囲に、それを検定した数値はありません。提案は答えではなく、これから調べる場所の地図です。
02「合うときだけ」と、言い切っている。2006年の要旨は、「非適応的」と分けた条件にも正の関係があったと、著者自身が「意外にも」と添えて書いています。同じ要旨は、売った経験の効き方がどちらの場面でも見られ、ただし効果の源は違うとも書いています。「だけ」は、著者の側が先に外しています。
03手順を決めれば、失うものは無いと思っている。1987年に Journal of Marketing 誌へ出た論考は、営業の評価を行動で見るか成果で見るかで対比しました。要旨は、理論から見れば行動で見るほうが筋は通るとしつつ、“studies of descriptive trends suggest that outcome control remains useful”——傾向を記述した研究からは、成果で見るやり方も依然有用、と並べます。実証のデータではなく、命題を出す論考です。

6本のうち2本は、中身に届きませんでした。1本は版元が要旨を出しておらず書誌だけ、もう1本は本文にも要旨にも届いていません。分かるのは題名の範囲までです——前者は売り手と顧客を組にして適応的な販売を調べた分析、後者は営業戦略と成果の関係が指導のしかたと環境で変わるかを見たもの。題名は主題を示しますが、結果ではありません。
要旨まで読めた4本のうち2本は、そもそも標本を持たない論考です(枠組みの提案と、命題を出す対比)。残る2本の要旨にも、標本の内訳(業種・国・規模)の印字はありません。どの営業を調べたのかが分からないので、一人で売る商いに当てはまるとも、当てはまらないとも書けません。年も1981年から2010年までで、読めた範囲はそこで止まっています。
起点は、提案だった。
「だけ」を外したのは、著者のほうだった。
だからこの号は、標準化を否定も肯定もしません。読めた範囲が支えているのは「型にすれば売れる」でも「場面に合わせれば売れる」でもなく、どちらの言い切りも、まだ確かめ切られていないというほうです。台本を持つかどうかは、その手前で、自分で決めていい範囲にあります。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
よく使う商談の運び(切り出し方・説明の順・締めの一言)を、3〜5行の台本として書き出す。
- 02MARK
直近の商談を一つ思い出し、各行に「守った」「外した」の印を付ける。
- 03RECORD
外した行には、外した場面を一言だけ添える。相手の良し悪しは書かない。
要旨まで読めた4本が返してきたのは、「それは、どの場面でか」という条件つきの答えでした。そしてその条件のうち一つには、著者自身が例外を添えています。型を持つか、どこで外すか——決めるための材料は、読めた範囲の研究より、いまのところ手元の記録のほうに多くあります。台本と、外した箇所。残るのはその二つです。
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