IN SALES · ISSUE 375
● 12 SEC商談が進まないとき、よく言われる助言があります。決める人に会え。いちばん役職の高い人に届けば、話は決まる——この助言は、買うか買わないかをたった一人が決めているという前提の上に立っています。
組織の購買を調べてきた研究は、そこを別の形で描いてきました。ただし先に断っておくと、この号が届いたのは6本の論文の公式な要旨まで。全文には1本も届いていません。読めていないことは書きません。
1972年に学術誌へ出た論文は、組織の購買を一人の決断ではなく組織としての意思決定として捉える一般モデルを示しました。買い手は、購買に同じように責任を負う人々の集まり——buying center(買い手の集まり)——の中で動いている、という見方です。これは実証ではなく、概念の枠組みとして提出されたものでした。
使う人・口を出す人・金額を握る人・決める人・取り次ぐ人。この五つの役割は、教科書ではこの論文に帰されています。ただし、この号が読めた要旨の範囲に、五つの名前の列挙はありません。枠組みの由緒と、確かめられた範囲は、別に数えます。

では、その集まりの形は決まっているのでしょうか。決まっていません。誰がどれだけ関わるかは案件で動く——そう報告した研究が、要旨の範囲で二つあります。形が動くというのは、関わる人数だけでなく、誰の声が通るかも動くということです。いずれも、どこへどう届ければ決まるのかを比べたものではありません。
0131社の調査が見たのは、構成とやりとり。1981年に学術誌へ出た研究は、設備と産業向けサービスの購買について、31社で誰がどう関わり、どうやりとりしたかを調べました。要旨が述べるのは、買い手の集まりを通信のネットワークとして見る見方の妥当性を検討したところまで。割り付けのある実験ではなく、実際の購買を対象にした調査です。
021993年の分類は、六つの型と四つの条件。同じ学術誌の1993年の研究は、購買の進め方を六つの型に分け、型の使い分けが購入の重要性・仕事の不確かさ・選択肢の広さ・買い手の力の認識という四つの状況で決まると要旨に書いています。実証的な手続きで作られた分類ですが、どの型が成果を上げるかを比べた研究ではありません。
03スペインの企業で、段階ごとの違いを検べた。2004年の研究は、スペインの産業向け企業を標本に、誰が加わり、誰が影響し、集まりの構成がどう変わるかを、購買の段階ごとに検べました。要旨が挙げる条件は、新しさ・製品の複雑さ・場面の複雑さ・重要性・時間の切迫・感じられるリスク。ここで測られたのは構成であって、人数そのものではありません。

いちばん役職の高い人に会えた。それでも署名が下りてこない。そういうとき、手がかりは相手の側ではなく、自分の見立てのほうに出ています。
01会う相手を、肩書きの高さで決めている。1989年に学術誌へ出た現場調査は、251件の組織の購買判断を対象に、影響力が何から生まれるかを調べました。要旨の記述は “expert power is the most important influence determinant, followed by reinforcement power”——知識や専門性にもとづく影響力が最大の要因で、次いで報いる力。役職の高さは、この要旨が挙げる上位には出てきません。ただしこれは1980年代の一つの現場調査で、その相手に届けたら成果が上がったのかまでは測られていません。
02関わる人数を、平均の一点で見積もっている。「関わるのは平均5.4人、近ごろは6.8人」。広く引かれるこの数字の出どころは、売る側に向けて調査を売る会社の商用調査で、学術誌の査読を経た研究ではありません。この号が確かめられたのは、その由来までです。構成は段階で変わるという査読側の報告とは、そもそも噛み合いません。
03取り次ぐ人を、迂回しようとしている。情報や面会を通すかを握る人がいる、という見方は広く共有されています。ただし、迂回したほうが不利になるかを比べた研究は、この号が読めた6本の要旨の範囲にはありません。遠回りになる、という言い方は経験則であって、確かめられた結果ではありません。

六本のうち、実証の標本を持つのは三本です。31社(1981年)、251件の購買判断(1989年)、スペインの産業向け企業(2004年)。1972年は概念の枠組み、1993年は分類の作成、そして2024年の一本は特集号の巻頭に置かれた編集後記で、実証論文ではありません。その編集後記は、買い手の集まりが買い手の生態系へ広がっているとして、使う人や公的な担い手、人工知能を組み込んだ働き手が関わりに入ってくると述べています。
標本の限定も断っておきます。要旨に印字があるのは、設備と産業向けサービスを買う企業と、スペインの産業向け企業まで。日本の商い、個人の受注、小さな組織との取引を標本にした研究は、読めた6本の要旨の範囲にはありません。そして六本のどれも、誰にどう届けたら決まったかを比べてはいません。
買い手が一人ではないことは、枠組みとして残った。
誰に届けば決まるかは、読めた範囲では測られていない。
だから、ここから言えるのは一つだけです。会うべき相手を、役職の高さだけで決めない。これは研究が命じた手順ではなく、読めた範囲を踏まえてALIFEが提案する読み筋です。役職の高い人に会う努力が無駄だ、という話でもありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近の商談・取引・相談を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02SORT
相手側で関わった人を、使う・決める・止める・影響するの役割で1行ずつ分ける。肩書きではなく、実際にしたことで分ける。
- 03MARK
いちばん動いたと思う人を一人だけ選び、その理由を肩書き以外の言葉で1行書く。
役職の高い人に会えた商談ほど、もう決まったと数えたくなります。けれど要旨の範囲で言えるのは、買い手が集まりであること、その形が案件と段階で変わるかが検べられてきたこと、そして最大の影響力が肩書き以外から来たと報告した現場調査が一つあること。トップに会うのは、地図のいちばん目立つ点に着いた、ということです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「決裁者に届くには?」を、もっと深く学ぶ。→
