IN SALES · ISSUE 374
● 12 SEC「価値をきちんと語れば、値引きされない」。値付けの助言として、たぶんいちばんよく聞く一文です。この号の教材がその裏づけとして並べていたのが、四つの障壁と、いくつかの採用率でした。
この号が当たったのは六点。本文の最後まで読めたものはなく、要旨まで読めたのが三点、題名までが三点でした。読めていないものについては書きません。そしてその要旨の一つに、四つのはずの障壁が五つで載っていました。
価値ベースの値付け(value-based pricing)は、原価でも競合の値段でもなく、相手が受け取る便益を基準に値を決める考え方です。要旨まで読めた三点のうち、障壁を数え上げていたのは2008年に Journal of Business Strategy 誌へ出た論考でした。
出版社が公開する要旨は、ドイツ・オーストリア・中国・米国の、企業間取引と消費者向けの幅広い業種にまたがる81人の経営幹部への調査にもとづくとし、障壁を五つ挙げています——価値を測る力の不足、価値を伝える力の不足、市場の切り分けが効いていないこと、営業を支える仕組みの不足、経営の後押しの不足。同じ要旨は、価値ベースを「主要な値付けのやり方のうち、いまもっとも広まっていないもの」と位置づけてもいます。

では、四つの版はどこから来たのか。四つを載せる側は、2015年に Industrial Marketing Management 誌へ出た別の研究を出どころとして示します。ところがその研究の要旨には、障壁の一覧そのものがありません。要旨が書いているのは複数の事例を突き合わせる探索的な多事例研究という設計と、売り手が相手の価値の受け取り方に働きかけ、交渉上の立ち位置を上げようとする、という語り口のほうです。
使われている語彙は、相手が受け取る価値・交渉上の立ち位置・相手との協働で価値を作ること——障壁を四つに数える言い方とは、別の組み立てでした。
01数えられていたのは、五つだった。2008年の論考の要旨は、障壁を五つ挙げます。よく引かれる四つの並びは、その五つと言葉づかいが重なり、市場の切り分けという一つだけが落ちた形です。五つを挙げた側の標本は、4か国・81人の経営幹部。設計は二段階で、価格の講習に集まった幹部たちへの聞き取りを先に置き、そこから作った質問紙を、より大きく層化した集団にかけたと要旨は書いています。
02八割という数字に、分母の印字が無い。同じ要旨の冒頭には “more than 80 percent of companies continue to price their products and services primarily on the basis of costs and/or competitive price levels.”(8割を超える企業が、いまも主に原価か競合価格を基準に値を付け続けている)とあります。ただし要旨には、この8割がどの企業のうちの8割か——調査名も、人数も、年も印字がありません。81人の調査の結果として書かれているのは、五つの障壁のほうです。
03百四十四人の調査が言うのは、道のりの長さまで。2017年に Journal of Revenue and Pricing Management 誌へ出た調査は、144の組織の価格担当者144人に尋ねたと要旨に書いています。自己申告の回答です。結論として要旨が置くのは “we still have a long road ahead”——まだ道のりは長い、という定性的な言い方まででした。受け取られ方は良くなったが、この進め方を会社の中で実行することには決定的な難しさが残る、とも要旨は書きます。採用率が何%かは、要旨には印字がありません。

引かれた数字を見たとき、中身の正しさとは別に、手元だけで確かめられることがあります。
01障壁の数が、引く人によって違う。四つで引く人と、五つで引く人がいる。数が動いているなら、どちらかは原典ではなく要約を写しています。言葉づかいまで重なっているのに数だけが違うときは、落ちた一つが何かを見に行くと、出どころの年のほうが変わることがあります。
02割合に、調べた人数が添えられていない。「8割が原価と競合で決めている」という文に、誰を何人調べたかが付いていない。要旨の中でも、割合の書かれた段と、標本の書かれた段が離れていることがあります。分母の印字が無い割合は、その文の外から来ている可能性が残ります。
03出どころの年と、言葉の年がずれている。2015年の研究に帰属された言葉が、2008年の要旨の言葉と重なっている。年が二つ出てきたら、どちらの年に印字があるかだけを確かめます。ここで言葉の印字があったのは、2008年の側でした。

読めた範囲を、正確に書いておきます。当たった六点のうち、本文の最後まで読めたものはありません。要旨まで読めたのが三点、題名までが三点。題名までの三点には、価値ベースの売り方と成果のつながりを扱ったとされる研究が二点含まれます。要旨が公開されていないため、この号はその中身を書きません。つながりがあったとも、無かったとも書きません。残る一点は、2004年に出た枠組みの論考で、これも題名までです。
標本の限定も、要旨の印字のとおりに。五つの障壁が出てきたのは、4か国・81人の経営幹部への調査です。144人のほうは、価格を担当する人たちの自己申告でした。どちらも企業の側の話で、個人の受注や店先の少額の売買について、読めた範囲に記述はありません。
四つとして引かれていた言葉は、
もとの要旨では五つあった。
数が一つ足りないことは、要旨を開けば分かります。手元で確かめられるのは数と分母と年——語られている中身の当否ではなく、その言葉がどこに印字されていたか、のほうです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
最近「高い」と言われた見積もりを一件選び、日付を書く。
- 02WRITE
相手が得る便益を一つ書き、相手の単位で「いくらぶんの得か」を1行書く。書けなければ、書けなかったと書く。
- 03SORT
書けなかったときだけ、理由を「測る材料が無い」「言う言葉が無い」「一度きりの取引」のどれかに分類する。
引用された数字は、たいてい誰かの要約を経由して届きます。四つの障壁も、この号の教材には一つ足りない形で届いていました。確かめに要る手数は、要旨を一つ開くぶんです。数が書いてあるか、分母が書いてあるか、年が合っているか。値付けをどう組み立てるかより前に、その三つのほうが先に見えます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「価格で負けないためには?」を、もっと深く学ぶ。→