IN SALES · ISSUE 373
● 12 SEC「高い」「今じゃない」「他と比べたい」。断り文句には、それぞれに当てる定型の切り返しが用意されています。断りの一覧と、切り返しの一覧が対になって並び、覚えるほど強くなる、という前提で売られています。
この号が見るのは、切り返しの中身ではなく、確かめられ方のほうです。押し返すと逆に働きうる、という見方には半世紀ぶんの振り返りがありました。いっぽう、どこまで押すと逆効果になるのかという境目は、読めた範囲に出てきません。この号は、効く切り返しを書きません。
前提になっているのは、リアクタンス(psychological reactance=自分の自由が脅かされたと感じたとき、それを取り戻そうとして、押された方向とは逆へ振れる心の動き)という考え方です。1966年に定式化されたこの理論を、2006年の論考は40年ぶんの研究とともに振り返り、2015年の論考はそれ以降の研究を見渡しました。1980年には、消費者の行動という広い場面への当てはまりから理論を振り返った論考も出ています。三つとも、新しい実験ではなく、振り返った側の文章です。
1980年の論考が、自由を脅かしうる出来事として並べたのは、販促の働きかけ・操作的な広告・品切れ・規制でした。売り手の押しは、そのうちの一つに数えられています。

ここから先は、押し返しの強さの話になります。強く押し返すほど相手は固まる、という言い方はよく聞きます。ではその「ほど」は、どこで測られたのか。読めた範囲でいちばん大きな統合分析(メタ分析=別々の研究のデータを統計的に束ねる方法)を開くと、そこにあったのは別の問いでした。
0120件を束ねた統合が測ったのは、押す強さではない。2013年に出た統合分析は、反発を扱う20件の研究・延べ4,942人分を束ねました。ただし比べたのは、押す強さの段階ではなく、反発をどう捉えるかという競合する考え方どうしです。いちばん当てはまったのは、反発を、怒りと「自分の中で反論を作り出す動き」の二つを目印にした一つのまとまりと見る形(“anger and counterarguments serving as indicators”=怒りと反論が目印)。押す強さが頂点を越える、という曲線の形は、読めた要約に出てきません。
02逆へ向かったのは、頼んでいない助言を受けたとき。2004年に出た、消費者を対象にした4つの研究は、専門家や推薦のしくみからの助言が本人の最初の印象に反するとき、反発の状態が起き、助言を無視するだけでなく“intentionally contradicting them”(意図的にそれに逆らう)行動につながったと報告しました。逆らわれたのは押しの強さではなく、頼んでいない助言のほうです。売り手と買い手の商談ではなく、選択肢を選ぶ場面での結果でした。
03商談を扱った一本は、要約が公開されていない。商談での問い合わせや異議への対応そのものを扱った研究は、読めた範囲で一本ありました。ただし版元がその要約を公開しておらず、この号が届いたのは書誌の記録まで——著者・誌名・巻号・頁だけです。中身は書きません。「読めなかった」と「そこに無い」は、別のことです。

相手を測る話ではありません。押し返しているかどうかは、自分の言い方と数え方のほうに出ます。
01相手が黙ったことを、乗り越えたと数えている。押されて口を閉じたのか、納得して黙ったのかは、その場では見分けがつきません。沈黙を勝ちとして数えると、静かに離れていった商談だけが、記録から消えます。
02断りの言葉を、論破すべき主張として受け取っている。「高い」は価格への異議とはかぎらず、「まだ決めきれない」の言い換えかもしれません。可能性を自分の側に並べておくことと、相手の内心を言い当てる技術は、別のことです。
03流通する数字の出どころを、確かめていない。「切り返しの上手い人は成約が◯%高い」型の数字は、誰が何を分母にして数えたのかが書かれていないことがあります。出どころをたどれない数字は、読めた範囲の外にあります。

ここで引いた6点のうち、押し返しの逆風を扱う側は、理論を振り返った論考が三つでした。新しい実験を並べたのは2004年の一本で、その対象は商談の買い手ではなく、選択肢を選ぶ消費者です。営業の場へそのまま移せる保証はありません。日本の商い、狭い商圏、見積りから納品までを一人で回す売り場を対象にした研究は、読めた範囲にありませんでした。
全文まで読めたのは、6点のうち0点。読めていないものについては書きません。押し返すと逆に働きうるという向きまでは支えがありますが、どこから固まるかという境目は、読めた要約のどこにも印字されていませんでした。境目が無いという意味ではなく、この号がそれを読めていない、という意味です。
押すと逆に働きうる、という向きは残った。
どこから固まるかは、読めた範囲に無い。
だから、この号が渡せるのは切り返しの台本ではありません。渡せるのは、断り文句をそのまま論破すべき主張として受け取らない、という一手だけです。相手に確かめに行く前に、自分がすでに聞いた断りを読み返す。それだけで、根拠の無い一押しを一つ減らせます。この読み返しは、研究が命じた順番ではなく、ここまでの範囲を踏まえてALIFEが置く入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近に自分が言われた断り文句を、一つだけ思い出す。
- 02COPY
言われた言葉を、要約せずそのまま書き写す。日付も添える。
- 03NOTE
その裏にありうる不安を、自分の推測として一行だけ書く。思い当たらなければ「まだ読めていない」と書く。
押し返しが逆に働きうる、という見方には、半世紀ぶんの振り返りが積まれています。積まれていないのは、その先——どれくらい押すと、どれくらい固まるかのほうでした。切り返しの言い回しを磨くことが無駄だ、という話ではありません。磨いた分だけ決まる、という証明が、読めた範囲に見当たらない、という話です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「断り文句を乗り越えるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
