IN SALES · ISSUE 372
● 12 SEC相手が気づいていない論点を教え、相手の状況に合わせて仕立て、話の主導権を握る。そうやって売る人がいちばん成果を出す——2011年に出た一冊の実務書がそう説き、売り方の型として世界中に広まりました。
この号が見るのは、型の中身ではなく、確かめられ方のほうです。土台になった調査は査読の外にあり、査読誌がこの型を正面から検討したのは、読めた範囲では2014年の一本。いっぽう「相手に合わせる」側を測った調査は、合わせる強さと結果の関係が一つの向きではないと報告しています。この号は、どの型が売れるかを書きません。
気づきを与えて売るとは、相手の言いなりに応えるのではなく、相手が気づいていない論点をこちらから差し出して商談を動かす、という売り方の呼び名です。2011年の実務書が広めたこの型の土台は、ある大手の調査会社が営業担当者に行ったサーベイだと説明されています。

ここで確かめられるのは、この本が査読誌に載った研究ではないことまでです。「本人があとから振り返って答えた」「結果を知ってから語った」という性質は、本の作りからの推定にとどまります。では、査読の側は何を言っているのか。読めた範囲で、三つ置きます。
01体系的な検討は、まだ済んでいない、と書かれた。2014年に査読誌へ出た、この売り方のレビューと批判の論文。到達できたのは公式の抄録までです。その抄録には “researchers have yet to complete a systematic, in-depth examination”(研究者はまだ、体系的で踏み込んだ検討をやり終えていない)とあり、論文の目的は新しさ・長所・弱点を示すことだと書かれています。「実証が乏しい」という文言は、読めた抄録の範囲には出てきません。
02合わせる強さと販売成果は、山なりだった。同じ2011年、業種をまたぐ調査が、売り手の顧客志向——どれだけ相手に合わせるか——と結果の関係を測りました。営業マネージャー56名・営業担当者195名・顧客538名から三者そろいで集めたデータで、販売成果との関係は山なり(逆U字)。ほどよいところに頂上があり、そこを越えて合わせすぎると下がります。成果を自己報告で測ったのか客観の記録で測ったのかは、読めた抄録には書かれていません。
03同じ調査で、相手の評価はずっと上向きだった。同じ調査は、顧客の態度(相手がこちらをどう評価するか)については向きが違うと報告しています。抄録の逐語は “the effect of customer orientation on customer attitudes is continuously positive”(顧客志向の顧客態度への効果は、一貫して正)。山なりだったのは販売成果のほうで、評価の側は下がっていません。頂上の位置も一定ではなく、個別に仕立てる商品・高価格の方針・競争の激しい市場では、より高いところにあったとあります。

自分がいま、どちら側の物差しを使っているか。日々の言い方に、手がかりがあります。
01売れた本であることを、効いた証拠として話している。「世界中で読まれた」「多くの会社が取り入れた」は普及の事実で、その型があなたの商談で働いたことの確認ではありません。この号が読めたのは抄録までで、独立の検証がどれだけ積まれているかは、確かめられていません。
02合わせる強さを、一本の目盛りで考えている。「もっと相手に合わせる」か「もっと強く踏み込む」か、どちらかに目盛りを振ってしまうと、山なりの形は見えません。三者そろいの調査が示したのは、同じ強さが、販売成果と相手の評価で別の向きに現れることでした。合わせ方の正解を一点に決めているのは、調査ではなく、その要約のほうです。
03場面の違いを、手法の優劣にすり替えている。問いで気づかせる型と、教えて気づかせる型。どちらが正しいかを決める話ではありません。2019年に査読誌へ出た調査は、金融サービス業を文脈として、売り手が場面全体に合わせて構えを変えることと、販売成果・仕事への関与・努力・満足との直接および間接の結びつきを報告しました。業種が一つに限られた調査です。

この号が当たったのは6点で、うち5点は公式の抄録まで、残る1点は書誌だけです。全文まで読めたものはありません。読めていないものについては書きません。調査の規模としてよく語られる数字も、出どころを確かめられなかったので使っていません。
標本の偏りも断っておきます。ここで引いたのは、業種をまたぐ法人の商談や、金融サービス業の売り手を対象にした調査です。個人の受託や、一対一の相談を対象にした査読研究は、読めた範囲には見当たりません。解決策を売ることを捉え直した2007年の研究も、顧客側の管理職49名・供給側の管理職55名への聞き取りと、2件のグループ討議(21名)にもとづく質的な調査で、数値で効果を測ったものではありません。
売れ行きと、査読は、
別の物差し。
それでも、言いなりでない売り手の価値を説いた側を、この号は否定しません。2012年の論考は、売り手が価値を生み・受け取る役割を統合的な枠組みとして整理し、今後の研究課題を並べました——枠組みの提案であって、効果の検証ではありません。読めた範囲で繰り返し出てくるのは、一つの正しい姿勢ではなく、相手と場に応じて進める、という像のほうでした。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近の提案・見積り・商談のやりとりを、一件だけ思い出す。
- 02MARK
相手が当たり前だと思っていた前提を、自分が一つ問い直した場面が「あった」か「無かった」かを書く。
- 03NOTE
「あった」なら、相手がどう受け取ったか(拒まれた・考え込んだ・話が進んだ)を一言だけ書き添える。
型が広まる順路と、確かめられる順路は、別々に進みます。前者は読みやすさと語りやすさで走り、後者は抄録一本ぶんずつしか進みません。手元に残るのは、言いなりでないことの価値と、それがあなたの商談で働くという証明のあいだには、いつも距離がある、という事実です。気づきを差し出すことと、不安を売りつけることを取り違えない——ここまでが、読めた範囲で言えることです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「気づきを与えて売るには?」を、もっと深く学ぶ。→