IN SALES · ISSUE 371
● 12 SEC「売り込まずに、問いで気づかせる。」——営業の話でいちばんよく聞く教えです。相手の状況を尋ね、困りごとを尋ね、それを放っておくとどうなるかを尋ね、解決したら何が良いかを尋ねる。四つの問いを、この順に置く。
この順番を広めたのは、一冊の実務書です。売りは研究の規模でした——3万5千件の商談を観察した、と書かれています。どの順で問えばいいかは、この号では書きません。その数のほうを見ます。
この枠組みは、商談での質問を四種類に分け、その順序に意味を持たせたものです。四つの頭文字が、そのまま手法の名前になりました。広めた本が出たのは1988年で、査読を経た学術出版物ではありません。商談を観察したのは、著者が率いていた営業研修の会社です。自社の研修プログラムのために行われた、社内の調査でした。

では、3万5千件とは何を数えた数なのか。全文まで読めたのは、この号が使った6点のうち1点——その一冊だけです。めくってみると、数のほうに小さな揺れがありました。そして著者自身が、効果を測らないまま効くと売る研修業界を、昔の万能薬の売り文句になぞらえていました。
01同じ本の中で、年数も国の数も揺れている。序文には、著者の会社が12年かけて3万5千件を超える商談を分析したと書かれています。ところが第1章は10年と書き、116の要因を調べ、27か国で調査したと続けます。謝辞では23か国の1万人を超える売り手が同行を許した、とあります。どれも同じ一冊の中の数字です。第三者が数え直した記録ではなく、調査した会社自身の申告です。
02「開いた質問を使え」を、この本自身が否定している。開いた問いを使い、はい・いいえで終わる問いを避けよ——研修でよく聞く教えです。この本の観察では、そうなりませんでした。ある製造業の一社での記録はこうです——“In one manufacturing company, we tracked 120 calls and found that calls high in closed questions were just as likely to lead to orders and advances.”(ある製造業の会社で120件の商談を追い、閉じた質問の多い商談も、注文や次の一歩に同じくらいつながることが分かった)。効いていたのは問いの形ではなく、何を尋ねているか、というのが本の主張です。
03いちばん整った検証にも、割り付けは無い。付録では、著者自身が検証の難しさを書きます。訓練の前後で注文が58%増えた例を挙げ、その間に新製品が二つ出て担当区域も広げ替えられていた、と自分で崩します。整った記録は、訓練を受けた42人と受けていない42人を9か月並べたものです。全注文は比較群が13%減、訓練群が17%増で、著者はこの差を統計的に有意(偶然の揺れでは説明しにくい大きさ)と報告しました。くじで分けた実験ではありません。

自分がいま、数の大きさのほうを見ていないか。日々の言い方に、手がかりがあります。
01件数の大きさを、確かめられた証拠として聞いている。3万5千件は、観察された商談の数です。同じ結論を別の人がやり直して再現した数ではありません。件数が増えることと、確かめ直した回数が増えることは、別々に数えられます。独立した追試を探した範囲で見つかったのは、同じ本の再刊だけでした。読めた範囲に無いというだけで、無いと確定したわけでもありません。
02順番どおりに問えたかで、自分を採点している。四つの順に沿えたかどうかを基準にすると、沿えなかった商談は失敗になります。逆に、相手が何も気づかないまま四つを問い終えた商談まで、成功として数えられます。けれど、この本の観察が成否と結びつけていたのは、順番の遵守ではなく何を尋ねたかのほうでした。採点表が、先に決まっていないか。
03困りごとの先を尋ねる問いを、急かすために使っている。放っておくとどうなるか、を尋ねる問いは、相手が自分で気づくのを助けることもあれば、不安を大きくして判断を急がせることもあります。同じ一つの問いです。どちらへ向けたかは、相手の顔ではなく、返ってきた答えを自分が何に使ったかに出ます。

全文まで読めたのは6点のうち1点、残りは公表された要旨まで、うち1点は題名までです。読めていないものについては書きません。要旨まで読めた査読論文が言うのは、ひとつの型が誰にでも効く、ということではありません。1981年の論文は、働きかけが効くかどうかは売り手の持ち札・相手の購買課題・両者の関係に左右されるという枠組みを示した論考で、データの検定はありません。
2006年の調査は、双方向に突き合わせた193組の売り手と買い手を調べ、効く働きかけは、課題を第一に見る相手・やりとりを重んじる相手・自分の得を先に見る相手で変わると報告しました。2020年のメタ分析は、1980年から2019年までの独立した139件の研究を統合し、法人間の営業(B2B)の成約の成功に31の要因が関わるとまとめ、成績が自己報告か客観的な記録かという測り方の違いも調整変数として扱っています。問いの技術がこの31に入っているかは、要旨の範囲では確かめられません。
件数は、観察の大きさであって、
確かめ直した回数ではない。
その件数を掲げる再刊の紹介文は、本の中で別々の場所に置かれていた数字を、一文に束ねています——“more than 35,000 sales calls made by 10,000 sales people in 23 countries over 12 years”。序文の12年と、謝辞の1万人・23か国が、ひと続きになっています。数字そのものは、どれも本の中に実在します。並べ方のほうが、ひとつの調査に見せています。本をめくれば、年数も国の数も、章によって違いました。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近の自分の商談・相談・見積もりのやりとりを一件選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02MARK
相手が自分の言葉で自分の困りごとを語った瞬間があったかを、「あった」「無かった」で書く。
- 03RECORD
「あった」なら、その直前に自分が置いた問いを一つ書き添える。無ければ、無かったと書く。
良い問いのふるまいを、大量の商談から書き取った仕事には価値があります。危ういのはそこではなく、その記述が、あなたの商談での効果の保証書として渡されるときです。3万5千件は、見た数。確かめ直した数ではありません。次の商談で何を尋ねるかを決めるのは順番表ではなく、目の前の相手と場のほうです——というのが、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「問いで課題に気づかせるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。