IN SALES · ISSUE 370

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

営業の教材は、たいてい、こう教えます。良い質問をして、じっくり聞けば、相手の本音——本当のニーズ——が引き出せる。 聞くことが正しい、という向きは、まちがっていません。ずれているのは、その先の約束のほうです。

この号が読めたのは、傾聴を扱った査読論文6点の要旨まで。本文まで読めたものはありません。その範囲で言うと、測られていたのは「隠れた事実が出てきたか」ではなく、「相手が、聞いてもらえたと感じたか」のほうでした。なお、この号は傾聴の訓練で成果が変わるかを書きません。

まず、傾聴という言葉をほどきます。黙って話を浴びることではありません。営業の傾聴を研究してきた人たちは、これを三つの働きの組み合わせとして測ってきました。声の調子や表情から手がかりを受け取る働き、受け取ったものを意味づけて覚える働き、理解したことを言葉やうなずきで返す働き。2006年の尺度開発論文は “The AEL scale is composed of three dimensions: sensing, processing, and responding.”(この尺度は受け取り・意味づけ・返しの三次元からなる)と書いています。妥当性は、三つの研究を重ねて確かめられています。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
傾聴は、受け取り・意味づけ・返しの三次元として測られてきた。三つは尺度の次元であって、効き方の順序ではない。 Visual: ALIFE

測れる技能だということは、二つを連れてきます。一つ、上手にもなれば、失敗もする。二つ、測られたのは売り手の腕前ではなく、買い手がどう感じたかのほうだった。読めた6点のうち、成約や売上といった客観の成果を従属変数に置いたものは一つもありません。しかもこの尺度は、売り手の自己報告でも、客の側からの評価でも使えるように作られています。では、何が測られたのでしょうか。

01感じられた傾聴は、信頼・満足・次の期待と結びついていた。1997年の調査。自動車小売の新車購入客173人(平均42歳)が、売り手の聞き方をどう受け取ったかを尺度にし、構造方程式モデル(複数の関係をまとめて当てはめる統計手法)で調べています。従属変数は逐語で “trust, satisfaction, and anticipation of future interaction”。買い手の自己報告による観察の研究で、割り付けた実験ではありません。

02金融サービスでも、向きは同じだった。2009年の調査。逐語は “A survey was completed by more than 400 buyer-seller dyads”(400組を超える買い手と売り手の組が回答した)。ここでも、客が受け取った聞き方の有効さが関係の質と結びついたと報告されています。これも自己報告で、業種は金融サービスに限られます。読めた要旨には、多次元の構成を確かめることと、その結果を見ることの二つが目的だと書かれています。

03道筋を描いたものと、測ったものは別。1993年の論考と1999年の論文は、どちらも実証ではなく概念の提案です。1999年の要旨は “A set of propositions is posited”(一連の命題が提示される)と書いています。傾聴から成約への道筋は描かれていますが、因果を測ったものではありません。「聞けば売れる」は、いまのところ、もっともらしい筋書きにとどまります。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
従属変数に置かれたのは、信頼・満足・次にまた話したいという期待。自己報告による観察の研究。 Visual: ALIFE

ここから先は、研究が確かめた結果ではありません。尺度が三次元だという事実から、この号が引いた見取り図です。効果を測った結果ではなく、自分の聞き方を点検する入口として読んでください。

01聞いたつもりで、返していない。相手の言葉を受け取っただけで、意味づけと返しを欠いている状態です。三つのうち二つが動いていないので、相手の側には感覚が残りません。聞いた量ではなく、返した回数のほうを数えてみる——これがこの号の提案する見方です。

02こちらの台本を、言わせている。「◯◯でお困りですよね」と、自分の答えに合う言葉を相手に言わせる形です。返ってきたのは相手の言葉ではなく、用意した台本のほうです。不安をあおって口を割らせる聞き方は、ここで扱っている傾聴とは別のものとして外しておきます。

03言い終わる前に、結論を置いている。「つまりこういうことですね」を早く置くと、相手はそこで言葉を探すのをやめます。返しは確認のための返しであって、要約を先に置くことではない——尺度の三つの並びから、この号が読んだ筋であり、順序の効果を測った研究ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
三つの合図は、この号の見取り図。研究が効果を測った区分ではない。 Visual: ALIFE

「本音を引き出す」という言い方は、相手の中に完成した本音があらかじめ埋まっている、という前提を連れてきます。けれど相手自身、自分が何を必要としているのかを、はじめから言葉にできているとはかぎりません。必要は、対話のなかで少しずつ輪郭を得ていく——これは、この号の読み筋です。読めた6点の要旨に、そう測った実証は見あたりません。

標本の偏りも断っておきます。読めた6点のうち、対象が印字されていたのは自動車小売の新車購入客と、金融サービスの400組を超える買い手と売り手の組。1点は営業ではない対人の場面での検証です。個人の受託相談や、教室の体験説明を対象にした研究は、読めた範囲にありません。平均は地図であって、あなたの対話ではありません。

聞き出せたと思うとき、
抜き出したのは、信頼かもしれない。

だから、構えを一つ変えてみます。掘り出すのではなく、一緒に輪郭を作る。相手が言ったことを自分の言葉で言い換えて返し、それで合っているかを確かめる。確かめられている傾聴の形に、いちばん近いのはそこです。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    直近で自分がした商談・相談・説明を一件思い出し、相手が言った言葉を一つ書き写す。

  2. 02WRITE

    その言葉に対して自分が実際に返した言葉を、思い出せる範囲で下に書く。

  3. 03LABEL

    その返しが「言い換えて確認した」「そのまま流した」「先に結論を置いた」のどれかを、一語だけ書き添える。

10分。相手に新しく連絡して確かめる必要はなく、自分の記憶と手元のメモだけで終わります。三択は自分の返しを分類するためのもので、相手や自分を採点するためのものではありません。これは研究が示した手順ではなく、記録の単位を決めるためにALIFEが提案する入口です。

読めた6点が測っていたのは、売り手がどれだけ上手に聞いたかではなく、買い手がどう感じたかでした。聞けていたかどうかは、自分の手ごたえの側ではなく、相手の側にしか現れません。だから確かめ方も一つです——言い換えて返し、合っているかを聞く。合っていなければ、そこが、まだ輪郭になっていない場所です。相手が言い換えを受け取って、そこを直してくれたなら、輪郭は一つ進みます。

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