IN MARKETING · ISSUE 366

(仮ビジュアル)暗い石の台の上に、洋梨とさくらんぼとオーツ麦を盛った器、半分に切った洋梨、水の入ったグラス、麻の布が並んでいる朝食の静物● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

売り出しにお金をかける。値引きの原資、刷り物、景品。売上が跳ね上がるところまでは、たいてい予定どおりです。見えにくいのは、山が引いたあと——平常の高さのほうに、かけたぶんが残っているかどうかです。

この号が見るのは、かけた費用がどれだけ戻り、その戻りが残るかだけです。測り方の設計でも、二つのやり方を比べることでもありません。値引き幅や販促費の金額について、助言はしません。

投資対効果(ROI)——かけたお金に対して、いくら戻るか。販促でこの分子に置けるものは二つあります。売り出しの最中に立つ短期の山と、終わったあとに残る平常の高さの底上げです。2002年に、走査データの週次売上で、恒久的な販促の効果を売上の三つの成分——買うか買わないか、どの品を選ぶか、どれだけ買うか——に分けて調べた研究は、そのどの成分にも恒久的な効果はほとんど無いと報告しました。対象は日もちする品と生鮮の品が各1つです。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
山は立つ。だが山がならした先の平常は、ほとんど動かなかった——2002年の報告。 Visual: ALIFE

では、山はどれくらいで元へ戻るのか。戻ったあと、誰かの手元に残るものはあるのか。要旨まで読めた範囲で、三つの報告が並びます。どれも大きな売上データを時系列として追ったもので、割り付けた実験ではありません。

01その山は、およそ10週で霧散した。2001年の研究は、オランダの小売の全国売上で560の種類を4年ぶん追いました。短期の効き目そのものは強く、価格販促の弾力性——1%動かすと売上が何%動くか——は平均2.21・中央値1.75。それでも持続的な効果はめったに現れず、効果は平均しておよそ10週で霧散し、長期の影響は本質的にゼロでした。

02作った側にも、売り場にも残らなかった。2004年の研究は、価格販促が製造の側と小売の側のどちらに得をもたらすかを、収益と利幅で追いました。第一の発見は、どちらの側にも典型的には恒久的な金銭効果を持たないこと。製造の側の収益にはおおむねプラスに働く一方、小売の側の収益への影響はまちまちで、売り場の種類ごとの利幅はむしろ減るのが典型でした。

03長い目で動いていたのは、製品と配荷だった。2010年の研究は、フランスの25の種類・70のブランドの5年ぶんの走査データから、短期と長期を合わせた売上の弾力性を製品1.37・配荷0.74、広告0.13・値引き0.04と推定しました。配荷とは、その品がどれだけ多くの店に置かれているかです。値引きの数字は、製品のおよそ30分の1でした。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
まず測られたのは、この3つ。霧散までの時間・取り分の行方・長い目での弾力性。 Visual: ALIFE

自分の記録が、山だけを数えていないか。手元の帳面に現れる形で、三つ挙げます。どれも商いの良し悪しを判定するものではなく、記録の付け方の話です。

01山の月だけを、見返している。売り出した月の売上は目に見えて、月ごとの成績にもなります。前後の平常の月を並べないかぎり、平常の高さが動いたかどうかは記録に残りません。2001年の研究が測ったのは、その平常のほうでした。

02取り分の話が、片側で止まっている。2004年の研究では、製造の側の収益と小売の側の収益とで向きが違い、売り場の利幅は典型的には減っていました。どちらの取り分の話をしているのかが抜けると、同じ売り出しの評価が人によって食い違います。客足や他の種類への波及を考えに入れても、小売の側には典型的には有利ではない、と同じ研究は書いています。

03長い目の売上を、値引きだけで説明している。2010年の研究で長期の売上と強く結びついていたのは、製品そのものと配荷のほうでした。値引きの数字だけを見ていると、同じ期間に変わった品ぞろえや置かれ方が記録から落ちます。観察された関連であって、値引きが効かないことの証明ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
同じ売り出しでも、山を数えるのか、前後の平常を数えるのかで、残る記録が変わる。 Visual: ALIFE

「売上は元の水準へ戻りやすい」という広い確かめは、560の種類・4年の2001年の研究の側にあります。1995年の研究のほうは、長期の効き目を時系列から取り出す方法(持続性モデリング)を導いた論文で、載っている実例はホームセンター1チェーンの1件。しかもその実例では、一部の広告は売上に強いトレンド設定の効果を持つと報告され、従来の手法は長期の効き目を大きく見落とす、と主張されています。向きは逆です。

2004年に出たもう一本は、長期の効き目の差を生むのが競争相手の反応ではなく、企業自身の行動だと報告しました。値引きや売り場の掲示では惰性として、広告や品ぞろえの広げ方では他の手立てによる支えとして現れる、という整理です。この号が読めたのは、6点すべてについて公式の要旨まででした。要旨に無いことは書きません。別々の研究の弾力性どうしを並べて比べることも、物差しが違うのでしません。

山は立つ。
だが、戻ってきたのは元の高さだった。

手元の商いは、ここで使われた大きな時系列データ——多くの種類を長く追った小売の集計——とは、規模も品数も違います。手渡しで売る商い、扱う品が少ない商いが、同じ振る舞いをするとはかぎりません。数字の細かさよりも、「山は残りにくい」という向きのほうが、持ち帰れるものです。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    過去に費用をかけた売り出しを一つ選び、今日の日付とあわせて書く。

  2. 02LIST

    かけたおおよその費用、売り出しの前の平常の月、山が引いたあとの平常の月——三つ書き並べる。

  3. 03MARK

    前とあとの平常を見比べ、上がった・変わらない・下がったのどれかに印を付ける。

10分。新しく値引きを試したり、客に尋ねたりする必要はありません。手元の記録を写して分類するだけの作業です。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を変えてみるためにALIFEが提案する実践入口です。

販促が無力だという話ではありません。短期の山そのものは、2001年の報告でも強い効き目として測られています。ただ、その山を「積み上がるもの」として読むと、報告の並びとは食い違う。同じ2001年の報告で恒久的な需要増と結びつきやすかったのは、値引きではなく新しい品をうまく出したときのほうでした。報告の並びで戻ってきたのは、たいてい元の高さです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS販促費の効果を最大化するには?を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

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ISSUE 365同じ山が、33%とも75%とも。ISSUE 367但し書きを見た側で、劣るほうが増えた。
ALIFE · ISSUE 366

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。