IN MARKETING · ISSUE 365
● 12 SEC値下げや特別陳列を打つと、売上は跳ね上がります。この跳ね上がりを、ここでは販促の「山」と呼びます。売り場の話は、たいてい山の高さで語られます。けれど高さは、売り場が何をしたのかまでは言いません。
山の中身を割った分解は、一本ではありません。価格への反応の強さで割った1999年の分解では、奪い合いが平均75%。売れた個数へ置き換えて割り直した2003年の論文では、およそ33%。同じ山を、別の物差しで割った二つの数字です。
売り場の仕掛け——値下げ、棚の端やレジ前に大きく積む特別陳列、商品のそばに置く小さな表示、チラシ——を打つと、その商品の売上は跳ね上がります。2004年に出た店ごとの記録の分解は、この山を三つに切り分けました。ほかの商品から乗り換える奪い合い、あとで買うはずの分を前もって買う前倒し、種類そのものを買う人が増えるカテゴリ拡大です。四つの店データで、三つは平均しておよそ3分の1ずつと報告されています。

同じ2004年の分解は、値下げにチラシを添えたときはほかの時期から借りる側に、陳列だけを添えたときは種類そのものが広がる側に、それぞれ強く結びついていた、とも報告しています。ここで一度、数字の置き場所を確かめておきます。いまの「およそ3分の1ずつ」は、2004年の店データの分解の値です。次に出てくる33%と75%は、別の分解から出た別の値で、同じものを指していません。似た大きさに見えても、何を分母にして割ったかが違います。
011999年の分解は、反応の強さの75%を奪い合いに割り当てた。1999年に出た分解は、13の商品分野・173ブランドの価格弾力性——値下げに対して売上がどれだけ反応するかの強さ——を分けました。平均して25%が種類そのものの需要が広がる側(買うのを早める分)、75%が同じ種類のほかのブランドからの乗り換えに割り当てられています。一次需要の増加がすべて前倒しとはかぎらない、とも書かれています。売上の記録から推定した分解で、割り付けた実験ではありません。
022003年は、売れた個数へ置き換えて33%と換算した。2003年に出た論文は、弾力性の分解を売れた個数の分解へ置き換える式を導き、すでに報告されていた分解の結果にその式を当てはめました。抄録は“approximately 33% of the unit sales increase is attributable to losses incurred by other brands in the same category”(売上増のおよそ33%が、同じ種類のほかのブランドが失った分に由来する)と書いています。新しく測り直した値ではなく、換算した値です。
03二つが別物であることは、2003年の論文自身が断っている。その論文は、先行の推定(弾力性のおよそ74%が奪い合い)について、あるブランドが販促中に100個多く売れたらほかのブランドが74個失う、という意味ではないと明示しています。割る前の分母が違うからです。33%と75%は、対立する二つの正解ではなく、同じ現象を別の物差しで測った二つの値として、幅のまま並べておくのが正確です。

自分の売り場の話が、いまどちら側にいるのか。手元の言い方に、手がかりがあります。
01高さだけを、成果として数えている。跳ね上がりは目に見えますし、気持ちもいい。けれど、その中に乗り換えと前倒しがどれだけ混じっているかは、高さを見ても分かりません。四つの店データの分解では、三つの成分がおよそ3分の1ずつでした。
02前もって買われた分を、差し引いていない。前倒しで動いた分は、あとから来るはずだった売上です。2004年の分解は、山の一部をほかの時期から借りてきた分として切り出しています。借りた分をどう戻すかまで含めて見ないと、山の高さは、売り場の働きを実際より大きく見せます。
03一つの数字を、確定した値として引いている。同じ山の奪い合いは、価格への反応で割れば75%、売れた個数へ置き換えれば33%でした。どちらかを「本当のところ」として引いた瞬間に、話が変わります。数字を引くときは、何を分母にして割った値かが、いつも一緒に要ります。

ここまでの数字は、どれも購買の記録か、店に入った人への聞き取りから採られています。手渡しで売る商い、狭い商圏の店、品ぞろえのごく少ない売り場が、同じ振る舞いをするとはかぎりません。 数字の大きさより、山が三つの成分に分かれるという構造のほうを持ち帰れます。
もう一点。この号が全文まで読めたのは、6点のうち0点です。読めた範囲を超えることは書きません。 1982年の店内実験は、値下げ・陳列・新聞広告の相対的な重みを要因計画で分けて測った、というところまで。1995年の総説は、販促の研究に共通して見つかる一般化を洗い出した総説である、というところまでです。
山の高さは、売り場の力ではなく、
奪い合いと前倒しと純増を、一緒に測っている。
それでも、売り場に効く面がないわけではありません。2009年に出た研究は、28の店で2,300人に店内で聞き取り、階層モデルで推定しました。抄録は“the baseline probability of an unplanned purchase is 46%”(非計画購買が起きる基準の確からしさは46%である)と書いています。店に入る前には決めていなかった買い物が、それだけの割合で報告されました。同じ抄録は、文脈しだいでこの確からしさが93%まで上がる場合も報告しています。効く面があることと、効いた分が種類全体の純増であることは、別の話です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分がこれまでに出した売り出しを一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02COPY
手元にある記録から、その前・最中・直後の動きを、思い出せる範囲で書き写す。
- 03MARK
狙いが「新しく買う人を増やす」側だったか、「いまある需要を動かす」側だったかに、印だけ付ける。
売り場の仕掛けは、効かないのではありません。短期の山は、確かに立ちます。けれど、その山のどれだけが新しい需要で、どれだけが乗り換えと前倒しなのかは、高さを見ても分かりません。この二十数年で確からしくなったのは「この陳列なら必ず選ばれる」のほうではなく、山の中身は、割り方を決めてから数えないと見えない、という向きのほうでした。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「売り場で選ばせるには?」を、もっと深く学ぶ。→