IN MARKETING · ISSUE 364
● 12 SEC年間の販促カレンダーを埋めていく。春に一度、夏に一度、年末にもう一度。予定が埋まると、一年が計画されたように見えます。
ただ、この号が到達したのは6点とも公表された要旨までで、そこに「頻度を埋めれば安定する」という結果はありませんでした。要旨に書かれていないことは書きません。代わりに出てきたのは、販促で増えた客の顔ぶれの話です。
販促の年間計画とは、値引き・セール・特典を、いつ・どれくらいの深さで出すかを一年ぶんの予定として並べることです。頻度と深さ——この二つが、計画の中身にあたります。
1992年に出た論文は、その二つを統制した実験で動かしました。販促の頻度も値引きの深さも、客が予想する価格に有意な(偶然の揺れでは説明しにくい)影響を与えた、という報告です。予想価格のまわりには価格に反応しにくい帯があり、反応は非対称で——“losses loom larger than gains”(損のほうが、得より大きく見える)。

では、その計画を一年回すと何が残るのか。要旨まで読めた6点のうち、客の感じ方・利幅・販促のあとの3つに、それぞれ別の研究が答えていました。標本も測ったものも別々で、一つの主語にまとめられるものではありません。年と対象を添えて、順に置きます。
01重ねるほど、価格と販促に敏感になっていった。よく買われる包装商品1カテゴリについて、8年3か月ぶんの購買パネルを二段階の手順で分析した1997年の研究。要旨の結論は“consumers become more price and promotion sensitive over time because of reduced advertising and increased promotions”(広告が減り販促が増えることによって、時とともに価格と販促により敏感になる)。著者は仮説と整合するという言い方をしており、測られたのはブランド選択のモデルの係数で、店の売上そのものではありません。
02毎日安くした側が、利益を18%落とした。26の商品カテゴリ・86店舗の食料品チェーンで、値付けの方針を2系列の実地実験で比べた1994年の研究。カテゴリ価格を10%下げても数量は3%増えるだけ、10%上げても3%減るだけでした。需要がさほど動かないぶん利益の差が開き、毎日安くする方針は利益を18%減らし、時々の目玉は15%増やした。第3の実験では、平常価格を高めにして浅い値引きの頻度を上げ、数量3%増・利益4%増でした。
03販促のあとの好みは、平均では動かなかった。51件の研究を束ねて、販促のあとのブランドへの好みを統合した2006年のメタ分析(複数の研究の結果を1つにまとめる手法)。要旨はこう書きます——“on average, sales promotions do not affect post-promotion brand preference. However, depending upon characteristic of the sales promotion and the promoted product, promotions can either increase or decrease preference for a brand”(平均すれば、販促は販促後のブランド選好に影響しない。ただし販促の性格と商品の性格しだいで、好みは上がることも下がることもある)。どの型でどちらへ振れたかの一覧は、要旨に印字がありません。

手元にも、見分けの手がかりがあります。効いたかどうかの判定ではなく、いまどちら側にいるかを見るための3つです。ここでも、根拠にした研究は1つずつ別のものです。
01「次のセールを待たれている」と感じる。1992年の統制した実験では、販促の頻度も値引きの深さも、客が予想する価格を動かしました。予想のまわりには反応しにくい帯があり、その外へ出た変化だけがブランド選択に効いていた、という報告です。対象は実売ではなく、実験の中で客から直接聞き取った予想価格でした。
02山の翌週、元の水準に戻っている。主要な食料品ブランドを対象にした国際調査では、価格販促はその後の売上にも、ブランドへの忠誠にも概して影響しませんでした。理由は要旨に書かれています——“the extra short-term buyers during the promotion had almost all bought the promoted brand before”(販促中に増えた短期の買い手は、ほとんどが以前からそのブランドを買っていた)。1994年の報告で、示された含意は価格販促の支出を増やす方向ではなく減らす方向です。
03小さいから効かない、と決めている。7つの商品カテゴリ・100ブランド・7年ぶんのパネルを二段階で分析した2008年の研究は、“positive sales evolution from promotional efforts is fairly common, especially for small brands”(販促努力による前向きな売上の推移はかなりよく見られ、とくに小さなブランドで)と要約しています。ただし同じ要旨は、恒久的・累積的な効果はブランドの資産が大きく、新製品の投入が多いほど大きいとも書いています。

この6点は、いずれも要旨までしか読めていません。統合の中身——どんな型の販促で好みが上に振れ、どんな商品で下に振れたか——は要旨に印字がなく、読めた範囲にその一覧はありません。「値引きだから好みが下がる」と書けるだけの裏づけも、読めた範囲にはありません。6点の内訳は、研究をまとめた統合が1件、実地実験が1件、統制した実験が1件、長期の購買パネルが2件、主要ブランドの国際調査が1件です。
標本も偏っています。繰り返し買われる食料品・日用品の購買記録と、食料品チェーンでの実地実験が中心で、手渡しの告知や常連中心の小さな商いが同じ規則で動くとはかぎりません。販促が悪いのでも、計画が無駄なのでもありません。支えられていないのは、頻度を埋めれば安定する、という約束のほうです。
販促で増えた客は、
ほとんどが前から買っていた。
それでも、この号は「値引きをやめたほうがいい」とは書けません。小さな売り手で前向きに伸びたという報告があり、利益の向きは仕入れと客層の算術で変わります。読めた範囲で言えるのは、頻度そのものは何も約束しないということだけです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
過去1年に出した値引き・セール・特典を、思い出せるだけ書き出す。
- 02LABEL
一つずつに「時期」と「下げ幅(おおよそ)」を添える。金額は正確でなくてよい。
- 03SORT
時間順に並べ、間隔が詰まっている時期に印を付ける。どれが効いたかの判定はしない。
カレンダーが埋まると、一年ぶんの見通しが立ったように見えます。ただ、埋めた頻度が客の予想に何を書き込んだかを、カレンダーのほうは表示しません。読めた範囲で言えるのは、販促のあとの好みが平均では動かず、販促の型と商品の性格しだいで上にも下にも振れるということ。安定は、埋まった予定表の側にはありませんでした。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「販促の年間計画を立てるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
