IN MARKETING · ISSUE 363

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

キャンペーンの設計には勝ち筋の型がある——事例集も受賞リストも、そう読めるように並んでいます。けれど、広告の効き方を測った実証を順に置き直すと、確からしくなるのは型のほうではありませんでした。

創意ある広告の実験で上がったのは、ヒント無しで思い出せた分でした。受賞を押し上げていたのは、新規性と媒体をまたぐ統合でした。そして389件の実地のテストでは、多くの変数が施策ごとの売上効果を区別しませんでした。この号は、勝ち筋の型を書きません。

キャンペーンは、ひとつの狙いのもとに、告知・値引き・催し・作り込んだ広告などをまとめて出す、期間を区切った売り出しのことです。ここで出てくる創意(クリエイティブ)は、その作り込みの独創性と、その商い・その相手への合い方の両方を指します。測られてきたのは、主に人の注意・記憶・態度でした。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
創意は効きます。ただし測られていたのは、主に注意・記憶・態度のほうでした。 Visual: ALIFE

では、何がどこまで測られているのか。ここから出てくるのは、多数の研究を束ね直した推定、テレビCMを見せた実験、受賞という結果を説明したモデル、そして地域を二分した実地のテストです。どれも、あなたの売り出しを測ったものではありません。

01効果は頑健。ただし見るのは、独創性と適切さの両方。2020年に Journal of Marketing 誌へ出たメタ分析は、67本の論文から採った93のデータセット・878の効果量を束ねました——“The results show robust positive effects but also highlight the importance of considering both originality and appropriateness when investing in advertising creativity”(結果は頑健な正の効果を示すが、同時に、広告の創意へ投じるさいに独創性と適切さの両方を考えることの重要性を際立たせる)。効果量は差の大きさの目安です。著者らは、創意と売上を結ぶ研究を今後に求めるとも書いています。

02上がったのは、ヒント無しで思い出せた分だった。2005年に Journal of Advertising 誌へ出た研究は、実験を3つ行いました。1つめと2つめが測ったのはブランドと表現の想起(ヒントあり・ヒント無しの両方)、3つめがブランド態度と購買意図です——“creative commercials facilitate unaided recall, but that creativity did not enhance aided recall, purchase intent, or brand and advertisement attitude”(創意あるCMはヒント無しの想起を促すが、創意はヒントありの想起・購買意図・ブランドと広告への態度を高めなかった)。ヒント無しの分の利は、1週間後まで残りました。

03389件のテストで、多くの変数が売上効果を区別しなかった。1995年に Journal of Marketing Research 誌へ出た報告は、家庭を対応づけたパネルと分割ケーブルによる実地のテスト389件の結果を分析しました(うち140件は出稿側への質問紙つき)——“many of the variables did not differentiate among the sales effects of different advertising treatments”(多くの変数は、異なる広告施策の売上効果を区別しなかった)。同じ報告は、ブランド・表現・媒体の戦略を変えることが、購買機会が多く店頭の販促が弱いカテゴリでは、テレビ広告が売上に正に働く見込みを高めるとも書いています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
頑健な正の効果、ヒント無しの想起、389件のテスト。三つとも別の研究です。 Visual: ALIFE

写したつもりになっている状態は、言い方のほうに先に出ます。

01受賞作の型を、効果の型だと思っている。2012年に Business Research 誌へ出た研究は、108のキャンペーンを使って、国際的な広告賞での受賞数を説明しました——“We identify innovativeness and the integration of multiple channels as the key drivers of creativity award success. In contrast to industry beliefs, meaningful or personally connecting approaches do not seem to generate a significant benefit in terms of winning creativity awards.”(新規性と複数チャネルの統合を、受賞の主要な駆動因として特定する。業界の通念に反して、意味のある・個人的に結びつく手法は、受賞という点では有意な利益を生まないようだ)。ここで測られたのは受賞で、売上でも態度でもありません。

02巨額で話題なら、効くはずだと思っている。2018年に Marketing Science 誌へ出た研究は、巨大なスポーツ中継の枠に出た広告を、ビールと炭酸飲料の週次の販売量で追いました。試合のあとの効き方は、その後にスポーツ中継がある週に集まっていました。著者らはここから、その広告がブランドとスポーツ視聴のあいだの補完的な結びつきを、より広く築くものだと読んでいます。結びつきは文脈の側にあり、どの商いにも移せる型ではありません。

03説得の公式で、組み立てている。2002年に Journal of Advertising Research 誌へ出た論考は、ブランド広告の見方そのものを置き換えます——“Our view of brand advertising is that it mostly serves to publicize the advertised brand. Advertising seldom seems to persuade.”(私たちのブランド広告観は、それが主に、広告されるブランドを世に知らせるはたらきをするというものだ。広告が説得しているようには、めったに見えない)。これは実験でも統計でもなく、著者らの見方を述べた論考です。競争のある市場で保つべきは広さのある顕著さだ、と続きます。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
受賞、巨額、説得の公式。三つとも、写せる型があるという前提の上にあります。 Visual: ALIFE

ここまでの実証が見ているのは、テレビや大きな媒体に出せる広告主の側です。手作りのチラシや、狭い商圏の一枚のお知らせが同じ規則で動くかは、測られていません。売上の側を直接見たのは実地のテストの報告で、そこから運べるのは、カテゴリの条件つきで見込みが高まる、というところまでです。

来歴も断っておきます。全文まで読めたのは6点のうち2点で、残りは公式の抄録までです。読めていない部分については書きません。読めた範囲に、「この型で組めば売れる」と示した実証はありません。工夫することが悪いという話ではなく、型どおりなら勝てるという保証だけが、支えられていないということです。

上がったのは、
ヒント無しで思い出せた分だった。

ただし、これは「創意は要らない」という話ではありません。束ね直した推定では正の効果が頑健で、その効果は主に注意・記憶・態度に対して測られていました。測られた場所と、売れる場所が別だったということです。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分が過去に打った売り出しやキャンペーンを、記録が残っているものから一つ選ぶ。

  2. 02SPLIT

    ページを左右に分け、左に「覚えられた形跡」、右に「動いてもらえた形跡」を、記録のあるものだけ書き写す。

  3. 03MARK

    二つの欄の多い少ないが揃っていない箇所に、印を付ける。順位や優劣は付けない。

10分。新しく何かを試したり、他人の受賞作を調べたりする必要はありません。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を作るためにALIFEが提案する実践入口です。

この号が運べたのは、勝ち筋の型ではありませんでした。束ね直した推定では正の効果が頑健で、独創性と適切さの両方を考えることの重要性が際立った。創意ある広告の実験で上がったのはヒント無しの想起で、ヒントありの想起・購買意図・態度は高まらなかった。受賞を押し上げていたのは新規性と媒体をまたぐ統合で、意味のある手法に有意な利益は見えなかった。389件のテストでは、多くの変数が施策ごとの売上効果を区別しなかった——そこまでです。

それでも手元に残るものがあります。覚えられた分と、動いてもらえた分。その二つを分けて置くことだけは、誰の推定にも頼らずに、自分の記録からできます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「キャンペーンを設計するには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。