IN MARKETING · ISSUE 362
● 12 SEC人に見せたくなる、感情を揺さぶる、役に立つ——話題になったものに共通して見える要素を並べた覚えやすい枠があります。これに沿って作れば広がる、と読まれてきました。
けれど、その枠は広がったものを後から観察して共通点を並べた整理です。拡散そのものを大きく測った側から見ると、順番が入れ替わります。人づてに何段も燃え広がる話題は稀で、人気の大半は一度に届いた分の大きさで決まっていました。この号は、広げる手順を書きません。
構造的バイラル性は、ある投稿が何段も人づてに枝分かれして広がったのか、それとも一人の発信源から一斉に届いただけなのかを測る物差しです。片方の端は一斉発信——大きな発信力を持つ誰かが一度に届ける形。もう片方の端は人づての連鎖——一人ひとりが全体のごく一部にしか関わらないまま、何世代も伝わっていく形です。

では、実際に広がったものはどちらの形だったのか。ここから出てくるのは、大きな交流サイトに残った拡散の記録と、人工の市場をつくった実験です。どれも、あなたの一件を測ったものではありません。
01形は多様だったが、人気は一斉発信の大きさで決まっていた。2016年に Management Science 誌 62(1):180-196 へ出た研究は、ある短文投稿サイトの10億件の拡散——ニュース記事・動画・画像・署名の伝わり方——を構造的バイラル性で測りました。報告されたのは——“structural virality is typically low, and remains so independent of size, suggesting that popularity is largely driven by the size of the largest broadcast”(構造的バイラル性はおおむね低く、規模によらず低いままで、人気の大半は最大の一斉発信の規模によって駆動されていることを示唆する)。記録の観察であって、割り付けた実験ではありません。
02誰が大きく広げるかの予測は、あてにならなかった。2011年に国際会議の会議録(65-74頁)へ出た論文は、同じ短文投稿サイトで160万人の利用者と7,400万件の拡散を、2009年の2か月間にわたって追いました。フォロワーの多い利用者ほど大きな連鎖を生みやすい傾向は出たうえで、こう書いています——“predictions of which particular user or URL will generate large cascades are relatively unreliable”(どの利用者・どのリンクが大きな連鎖を生むかの予測は、比較的あてにならない)。
03連鎖が伸びるかどうかは、条件がそろえばよく当たった。2014年に別の国際会議の会議録(925-936頁)へ出た論文は、ある交流サイトの写真の再共有が連なる様子を大量に集めました。結論は——“we find strong performance in predicting whether a cascade will continue to grow in the future”(連鎖が今後も伸び続けるかどうかの予測で、強い性能が得られた)。観察が進むほど予測は良くなります。ただし最初のわずかな観察だけで最終の大きさを当てるのは、大きい連鎖ほど難しいとも書かれています。

当てられるつもりでいる状態は、日常の言い方のほうに先に出ます。
01「この人に頼めば広がる」で、賭けている。2011年の同じ論文は、費用の置き方しだいでは、最も影響力のある利用者よりも平均かそれ以下の影響力しか持たない多数の発信者に広く張るほうが割に合うと結んでいます。2007年に Journal of Consumer Research 誌 34(4):441-458 へ出た論考も同じ向きですが、こちらは実データではなくコンピュータによるシミュレーションで、大きな連鎖を動かすのは影響を受けやすい人々の厚みだと論じました。影響力者の役割を完全には否定していません。
02同じ内容なら、同じ結果になると思っている。2006年に Science 誌 311(5762):854-856 へ出た実験は、参加者14,341人が無名の曲をダウンロードする人工の音楽市場をつくり、他人が何を選んだかが見える条件と見えない条件を比べました。抄録の一節は——“Increasing the strength of social influence increased both inequality and unpredictability of success”(社会的影響の強さを増すと、成功の不平等さと予測不可能さがともに増した)。同じ曲が、条件の違う世界では大きく当たりも埋もれもしました。
03内容の質は関係ない、と言い切っている。同じ抄録は、その先も書いています——成功は質によって部分的にのみ決まり、最良の曲がひどい結果になることはまれで、最悪の曲がうまくいくこともまれだったが、それ以外のどんな結果もありえた、と。質が無関係だという話ではありません。測られたのは、無名の曲をダウンロードするという一つの場面です。

順番を戻します。「拡散の行き先はもともと予測できない」という言い方がありますが、これは2014年の論文が反論の相手として引いた先行研究の立場であって、その論文自身の結論ではありません。その論文が出したのは、条件がそろえば連鎖の伸びはよく当たるという結果のほうでした。当てにくいのは、最初のわずかな観察だけで最終の大きさを言い当てることです。そして測られたのは、写真の再共有だけでした。
2016年の研究も、一斉発信だけだとは書いていません——“popular events regularly grow via both broadcast and viral mechanisms, as well as essentially all conceivable combinations of the two”(人気を得た出来事は、一斉発信と人づての両方の仕組みで、そして考えうるほぼすべての組み合わせで、ふつうに育つ)。そのうえで、構造的バイラル性はおおむね低いと続きます。全文まで読めたのは6点のうち2点で、残りは公式の抄録か書誌までです。読めていないものについては書きません。この号は、広げる手順を書きません。
火種は、
燃えたあとに見つかる。
それでも、拡散を狙うこと自体が否定されたわけではありません。ここに並べたのは、大きな交流サイトに残った記録と、人工の市場の実験です。手渡しの口伝えや、狭い常連のあいだの評判が同じ性質で動くとはかぎりません。支えられていないのは、「設計すれば広げられる」という保証のほうです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分の過去の投稿・告知・お知らせを一つ選び、今日の日付を書く。
- 02SPLIT
残っている反応の記録を、「自分が直接届けた形跡」と「その先へ又聞きで広がった形跡」の二つの欄に書き写す。
- 03COUNT
どちらが多いかを数えるだけにする。順位も評価もつけない。
この号が運べたのは、広げる手順ではありませんでした。10億件を測ると人気の大半は一度に届いた分の大きさで決まり、160万人を追っても誰が大きく広げるかの予測はあてにならず、条件がそろえば連鎖の伸びはよく当たるものの最初のわずかな観察から最終の大きさを当てるのは難しく、人工の市場では同じ曲が世界ごとに当たりも外れもした——そこまでです。
覚えやすい枠は、広がったものの整理であって、広げる保証書ではありません。それでも手元に残るものがあります。自分の発信が、直接届いた分で終わったのか、その先へ伝わったのか。その区別だけは、誰の推定にも頼らずに、自分の記録から作れます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「話題が広がる仕掛けを作るには?」を、もっと深く学ぶ。→