IN MARKETING · ISSUE 354
● 12 SEC損失を強調すれば動く。恐怖で煽れば効く。相手に合わせて言い換えれば刺さる——メッセージには公式がある、と教わります。その公式のもとになった研究は、たしかに実在します。
この号が見るのは、公式の使い方ではありません。束ねて測ったとき、その差がどれくらいだったかのほうです。どの言い方が正解かは、書きません。
フレーミング(framing)は、同じ事実でも言い方の枠が変わると、受け手の判断が変わることです。1981年に科学の総合誌へ出た研究がその原典で、要旨はこう書きます——“Reversals of preference are demonstrated in choices regarding monetary outcomes, both hypothetical and real, and in questions pertaining to the loss of human lives.”(選好の逆転は、仮想と現実の双方の金銭的な結果をめぐる選択と、人命の損失に関わる問いで示される)。測られたのは判断の逆転で、売上ではありません。

現象が実在することと、その枠を使えば売れることは、別の話です。差の大きさを測ったのはメタ分析——同じ問いを扱った多くの研究の結果を統計的にまとめる手法でした。ここから先に出てくる実証は、すべて健康行動を促すメッセージの標本です。検診・禁煙・身体活動・歯科衛生のために言葉を選んだ研究を束ねたもので、店や商品の告知ではありません。
01予防を促す文脈では、利得のほうがわずかに優位だった。2007年に健康コミュニケーションの専門誌へ出たメタ分析は、93研究・のべ21,656人を束ねました。手に入るものを言う利得フレームが統計的に有意に説得的でしたが、その差は相関にして.03——0なら差なし、1に近いほど強い関連という物差しで、ほとんど無いに等しい値です。しかもその差は歯科衛生を勧めるメッセージに帰せられ、安全な性行動・皮膚がん予防・食事と栄養では有意差がありません。
02発見を促す文脈では、優位の向きが逆になった。2009年にコミュニケーションの専門誌へ出たメタ分析は、53研究・のべ9,145人の別の束です。こちらは失うものを言う損失フレームがわずかに、しかし統計的に有意に説得的で、差は相関にして −.04。優位が出たのは乳がん検診のメッセージだけで、ほかの検診では出ません。原典はこう締めます——“Thus, in advocacy of disease detection behaviors, using loss-framed rather than gain-framed appeals is unlikely to substantially improve persuasiveness.”(疾病発見行動を勧める場面で、利得ではなく損失のフレームを使っても説得力は大きく上がりそうにない)。
03何で測ったかで分けると、差は片側だけに出た。2012年の号に載った行動医学のメタ分析(94研究・189の効果量)では、予防行動を促す場面で利得フレームが勧められやすく(r = 0.083、p = 0.002)、皮膚がん予防・禁煙・身体活動で見られました。2007年の分析は同じ皮膚がん予防で有意差が無く、束ねた研究も測り方も別です。態度や意図で測ると、また発見を促す研究では、効果は見られませんでした。

もう一つの俗説は、恐怖です。怖がらせれば動く、と、煽るとかえって反発する——正反対の言い伝えが並んで生きています。どちらも、束ねて測られていました。
01恐怖を使ったメッセージは、この幅で動いた。2015年に心理学の専門誌へ出たメタ分析は、127論文(9%は未公刊)・248の独立した標本・のべ27,372人を束ねました。処置群と比較群を比べた効果量の平均は d = 0.29(95%信頼区間 0.22〜0.35)——0なら差なし、一般的な目安では「小」とされる0.2をわずかに上回り、「中」の0.5には届かない値です。
02「煽ると反発する」は、探した範囲に見つからなかった。同じメタ分析は、結論をこう書いています——“there are no identified circumstances under which they backfire and lead to undesirable outcomes.”(逆効果になって望ましくない結果を招く状況は、一つも特定されなかった)。「起こらない」の証明ではなく、束ねた範囲では見つからなかった、という形の記述です。
03個別化も効いたが、大きさは同じ水準だった。相手の事情に合わせて作り分ける個別化(テイラリング)は、2007年に心理学の専門誌へ出たメタ分析が57研究・のべ58,454人を束ね、印刷物で行動が変わる効果を相関にして.074と報告しました。ゼロではありませんが、別物のように変わる大きさではありません。

まず標本です。ここまで束ねられたのは、検診・禁煙・身体活動・歯科衛生といった健康行動を促すメッセージの研究でした。読めた範囲に、店や商品の告知を扱った研究はありません。ここに出てきた効果の大きさを、そのまま売り場の数字として持ち出すことはできません。
次に、どこまで読めたかです。全文まで読めたのは6点のうち1点で、残る5点は公開されている要旨までです。要旨に書かれていない国・期間・条件は、書いていません。どの言い方が正解かは、この号では決まりません。
“No effect of framing was found when persuasion was assessed by attitudes/intentions or among studies encouraging detection.”
説得力を態度や意図で測ったとき、また発見を促す研究のあいだでは、フレーミングの効果は見られなかった。
効くか効かないか、という形ではありません。何を測ったかで、結論のほうが変わるという形です。予防行動では利得の側にわずかな優位、発見では損失の側にわずかな優位、態度や意図で測ると差は見えない。同じ問いなのに、置き場所で答えが入れ替わります。
束ねて測られた三つ——利得と損失、恐怖、個別化——は、どれも小さい幅に収まりました。優位の向きが入れ替わったのは、利得と損失です。1981年の研究は、差の大きさを測ったものではありません。だとすれば、公式を探すより自分がどの枠に偏っているかを見るほうが手元で確かめられる——というのが、この号の読み筋です(研究が示した手順ではありません)。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日の日付を書き、自分が過去に出した告知・案内・見出しのうち、手元で見られるものを三つ書き写す。
- 02LABEL
それぞれに「利得/損失/恐怖/個別化」のどれに当たるかの札を付ける。複数当てはまってもよい。どれが正しいか、どれが強いかは判定しない。
- 03NOTE
三つがどの枠に偏っていたかを1行で書く。相手に見せて反応を試す必要はない。
一つ。予防では利得の側、発見では損失の側に、どちらもゼロの近くのわずかな差が出たこと。二つ。恐怖を使ったメッセージは動いたものの、その幅は一般的な目安で「小」を少し上回る程度で、反発は探した範囲に見つからなかったこと。三つ。個別化も効いたが、大きさは同じ水準だったこと。今日残せるのは強い一言ではなく、自分の三つの文面に付けた札です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「刺さるメッセージを作るには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
