IN MARKETING · ISSUE 353
● 12 SEC「相手の本音を掘り当てれば、売り出しは刺さる」。自分の商いの告知を自分で書いている人が、いちばんよく聞く言い方です。掘る、という言葉が先に置いているのは、相手の中に固定した本音が埋まっているという前提です。
この号は、その前提を二つに分けて見ます。人は自分が選んだ理由を語れるのか。そして、掘り当てるべき本音が、そもそもあるのか。「掴めば売れる」を確かめた試験は、ここには出てきません。
顧客インサイト(customer insight)は、ここでは「相手が自分では言葉にしていない、行動の裏にある動機」を指します。相手を知ってから売り出す、という順序は正しい。ただ掘るという比喩には、二つの前提が同時に入っています。相手が自分の理由を語れること、そして語られるべき理由が、相手の中に先にあること。この二つは別々に確かめられます。

一つめから。「なぜ選んだのですか」と尋ねれば、選ばせた理由が返ってくる——そう思えます。2002年に Marketing Letters 誌 13(3):269-279 へ出た報告は、本人が意識していない影響が消費者の選択に働くことを扱いました。本人が言葉にできる理由は、選択を動かしている力の一部にすぎない、という向きです。
01理由を分析した人は、専門家から離れた。1991年に Journal of Personality and Social Psychology 誌 60(2):181-192 へ出た実験は、大学生の好みを専門家の評価と比べました。材料は、研究1がいちごジャム、研究2が大学の授業です。なぜそう感じるのかを分析した人は、分析しなかった人より、専門家と一致しませんでした。すべての属性を評価させた条件でも、向きは同じでした。測られたのは専門家の評価との一致であって、売上ではありません。人数は、読めた範囲に印字がありません。
02選好は、引き出される過程で組み立てられることがある。1995年に American Psychologist 誌 50(5):364-371 へ出た論考は、人の選好はしばしば、引き出される過程で構築される——単に明らかにされるのではない、と整理しました。同じ選択でも尋ね方を変えると順位が入れ替わる現象が、その根拠に置かれています。1998年に Journal of Consumer Research 誌 25(3):187-217 へ出た総説も、消費者はしばしば、はっきりした選好をあらかじめ持っていないと書いています。どちらも新しい実験の報告ではなく、既存研究の整理です。
03「買うつもり」が売上を言い当てる条件は、一定ではない。2007年に International Journal of Forecasting 誌 23(3):347-364 へ出た研究の題名は、購買意図はいつ売上を言い当てるのか、と問うています。いつ、と問われるのは、言い当てる強さが一定ではないからです。言えるのは、そこまで。買うと答えた人の割合が、そのまま売れる割合になるとは限らない、という向きだけを運びます。

掘り当てたのか、それとも辻褄を合わせたのか。手元の言い方に、手がかりが残ります。確かめるのに、新しい聞き取りは要りません。自分が過去に書いた言葉と、実際に返ってきた反応だけで足ります。
01語られた理由を、選ばせた原因として扱っている。語られた理由は、そのとき語りやすかった説明かもしれません。1991年の実験では、理由を分析した人の選択のほうが、専門家の評価と一致しませんでした。ただしこれは大学生を対象に、ジャムと授業という二つの材料で測られた結果です。自分の売り場でも同じ大きさで現れる、とは書かれていません。
02「刺さらなかった」を、掘り方が浅いせいにしている。掘り足りなかった、と考える前に、もう一つの読み方があります。選好がその場で組み立てられるのなら、差し出した言葉のほうが、相手の選び方を形づくっていたのかもしれません。1995年の論考と1998年の総説は、その向きを整理しています。ただし整理であって、売り出しの効果を測った試験ではありません。
03「買うと答えた数」を、売れる数として数えている。「買いたいですか」への答えは、そのまま購入にはなりません。2007年の研究が題名で問うているのは、購買意図がいつ売上を言い当てるのか、です。集めた返事の多さを、そのまま見込みの数として数えていないか。数える単位のほうを見直す手がかりになります。

ここで引いたのは、心理学と消費者研究の実験・論考です。標本の国や、商いの場面についての印字は、読めた範囲にありません。1991年の実験が測ったのは専門家の評価との一致であって、売上ではありません。1995年の論考と1998年の総説は、既存研究の整理です。
この号が原典の全文まで読めたのは、挙げた6点のうち0点。読めていないものについては書きません。「インサイトを掴めば売れる」を測った試験は、読めた範囲にはありません。顧客が片づけたい用事から商品を考える枠組みを広めた2016年の論考も、経営の実務誌に載ったもので、効果を測った査読研究ではありません。
理由を尋ねる作業そのものが、
答えのほうを動かすことがある。
だから「掘り当てた」という手応えは、掴んだ証拠にはなりません。相手が語れなかった部分を、こちらが埋めて辻褄の合う話に整えただけかもしれない——というのが、この号の読み筋です。確かめる先は、相手に新しく聞きに行くことではなく、すでに手元にある記録のほうにあります。印を付けるのは、当たっていたかどうかを採点するためではありません。ずれた場所が、どの発信に集まるかを見るためです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
過去に自分が出した発信を一つ選び、今日の日付を書く。
- 02WRITE
上に「相手のどんな気持ちに向けたつもりだったか」、下に「実際に返ってきた反応」を、1行ずつ書く。
- 03MARK
二つがずれている箇所にだけ印を付け、印の数を書き添える。どちらが正しいかは書かない。
二つの前提は、外れたときの読み方が違います。掘る前提なら、外れたのは掘り方が浅かったから。作られる前提なら、外れたのは、掴むべきものがその場で組み立てられていたから。どちらも起こりえます。確かめられているのは、後者が起こりうるというところまで。どちらがあなたの売り場で起きているかは、まだ測られていません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「顧客のインサイトを掴むには?」を、もっと深く学ぶ。→