IN BRAND · ISSUE 351

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「名前が知られてきたなら、その名前で次も出せばいい」——広げる相談には、たいていこの言い方がついてきます。

この号が見るのは、広げるか広げないかではありません。広げたときに、もとの名前についての思いがどうなるかを、原典がどんな条件つきで書いているかのほうです。広げよとも、広げるなとも書きません。

ブランド拡張とは、いまある名前を使って、新しい商品やカテゴリーへ手を広げること。希釈とは、その拡張が、もとの名前について人々が抱いている思い(信念)を薄めてしまうことです。1993年に商学の専門誌へ出た実験は、こう報告します——“dilution effects do occur when brand extension attributes are inconsistent with the family brand beliefs.”(拡張の属性が、家族名としてのブランドについての信念と食い違うとき、希釈は現に起きる)。

ただし同じ要旨は、続けてこう限定します——“However, they are less likely to emerge when consumers perceive the brand extension as atypical of the family brand, and typicality of the brand extension is salient at the time beliefs are assessed.”(ただし、消費者がその拡張をそのブランドらしくないと受け取り、かつその典型性が、信念を尋ねられる時点で際立っているときには、それは現れにくい)。二つそろったときに、薄まりにくいという書き方です。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートと白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真
食い違う拡張のときに、薄まりは起きた。いかにも外れて見え、それが際立つときには、起きにくかった。 Visual: ALIFE

順番を確かめておきます。1990年に出た二つの研究は、拡張への態度が、もとのブランドの品質の印象と、広げ先との噛み合い(適合)で変わることを報告しました。よく知られた六つの名前と、二十の拡張案への反応が調べられ、噛み合いと高い品質の印象がそろうとき、あるいはその拡張が、作るのが簡単すぎるとは見なされないときに、態度は高いほうへ寄っていました。

この号が当たったのは6点。全文まで読めたものは無く、6点とも公開されている要旨までです。読めていないものについては書きません。

01薄めたのは、外れきらないほうでした。1993年の実験が報告したのは、二つの条件です。食い違う属性を持つ拡張のときに薄まりは起き、いかにも外れて見え、しかもその「らしくなさ」が信念を尋ねられる時点で際立っているときには、現れにくい。同じ要旨は、広げ先がもとと同じカテゴリーでも、違うカテゴリーでも、この結果は変わらなかったとも書いています。

02失敗が響いたのは、片側だけでした。1992年に出たラボ実験は、間に挟まる拡張の成否と、もとのブランドの品質の印象を組み合わせました。成功した拡張のあと、次の拡張の評価が上がったのは品質の印象が中くらいのブランドのときだけ。失敗した拡張のあと、次の評価が下がったのは品質の印象が高いブランドのときだけでした。

03似ているかどうかは、差が薄い。同じ実験は、間に挟まる拡張の似ている度合いについて“The relative similarity of intervening extensions had little differential impact”(介在する拡張の相対的な類似性は、ほとんど差を生まなかった)と書き、複数を挟んだ場合には、一つだけの場合といくらか違う効果があったとしています。似ているかどうかを、効く要因として並べることはできません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
食い違い・際立ち・成否。分かれ目は、広げる側ではなく、受け取る側の見え方のほうに置かれています。 Visual: ALIFE

読めた範囲の研究が測ったのは、一つ一つの拡張がどう受け取られたかで、広げるほど活きるという形ではありません。1992年の実験は、成功した拡張のあと、品質の印象が中くらいのブランドではもとのブランドの評価そのものも上がったと報告しています。それでも広げる相談では、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。

01「強い名前なら、次も立ち上がる」2006年の研究は、拡張の成功を左右する十の要因を同時に調べ、“fit between the parent brand and an extension product is the most important driver of brand extension success”(親ブランドと拡張商品との噛み合いが、拡張成功の最も重要な推進要因である)と報告しました。続くのは販促の支え、親ブランドへの確信、小売の受け入れ、親ブランドの経験です。名前の強さが先頭に来る書き方ではありません。

02「失敗しても、その商品だけの損」2003年の実験は、“brand extension strategies may influence the brand image after the extension”(拡張の戦略は、拡張のあとのブランドイメージに影響しうる)と結びます。しうる、という条件つきの書き方で、負の向きは題名の側が担っています。一方1992年のラボ実験では、失敗した拡張のあとも、もとのブランドの評価そのものは、品質の印象の高低にかかわらず下がっていません。

03「出し方を工夫すれば、薄まらない」2012年の三つのラボ実験は、“dilution effects are only evident when consumers have a negative experience with a similar family branded extension.”(薄まりが明らかに現れるのは、似たカテゴリーで親の名前をそのまま冠した拡張に、消費者が負の経験をしたときだけである)と報告しました。三つがそろうときだけで、程度が変わるという話ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
立ち上がる・その商品だけ・工夫すれば。三つとも、要旨が書いている条件より広い言い方です。 Visual: ALIFE

読めた範囲で測られていたのは、提案された拡張への態度と、もとの名前についての信念やイメージです。実際の売上や購買ではありません。参加者の人数・国・場面は、公開されている要旨に印字が無いものが多く、ここでは足していません。2006年の研究も、標本の大きさ・国・商品の種類は要旨に書かれていません。

そして名前がまだ広く知られていない商いでは、薄まる先の信念そのものが、まだはっきり形になっていないことがあります。読めた範囲のどこにも、「広げるな」という結論は書かれていません。この号も、広げるかどうかを決めません。

食い違う拡張のときに、薄まりは起きた。
いかにも外れて見え、それが際立つときには、起きにくかった。

だから最初にできるのは、広げ先を選ぶことではありません。自分の名前が、いま何と結びついていると思われているかを書き出し、その隣に広げ先を置いてみることです。これは研究結果そのものではなく、何を賭けているのかを言葉にするためにALIFEが提案する実践入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分の屋号・店名・商品名を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。

  2. 02LIST

    その名前が、いま何と結びついていると思われているかを、自分の言葉で三つ書き出す。

  3. 03PLACE

    広げてみたい先を一つ、その隣に置き、噛み合うか、惜しいところで外れるかを一語で添える。

10分。自分の名前と自分の記録だけで完結します。客や取引先に反応を尋ねる課題ではなく、他人の店や商品を格付けする課題でもありません。広げるかどうかは、今日決めません。これは研究結果そのものではなく、何を賭けているのかを言葉にするためにALIFEが提案する実践入口です。勤め先や取引先との取り決めで名前の使い方が決まっている場合は、そちらが優先されます。つらさが続く・強まる場合は、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

この号は、広げてよいかを、ひとつも書きませんでした。書けたのは、食い違う拡張のときに薄まりが起きたこと、いかにも外れて見えてそれが際立つときには起きにくかったこと、失敗が響いたのは品質の印象が高い側の、次の拡張の評価だったこと——ここまでです。

薄まるかどうかを分けていたのは、広げる側の判断ではなく、受け取る側にどう見えていたかでした。今日残せるのは判定ではなく、名前を一つと、結びつきを三つと、広げ先を一つ。記録が1件、残るだけです。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。