IN BRAND · ISSUE 350
● 12 SEC「古くなったら、名前とロゴを新しくすればいい」——落ち込んだ商いの立て直しには、たいていこの一手がついてきます。
この号が見るのは、刷新のやり方ではありません。名前を変えた会社に株式市場がどう反応したかを追った研究が、実際には何を測ったのかのほうです。どの株をいつ買えばよい・売ればよいという話は、ひとつも書きません。
リブランディングとは、名前・ロゴ・世界観といった見せ方をまとめて刷新することです。そのうち名前そのものを変えるのが改名にあたります。2011年に金融の専門誌へ出た研究は、香港の上場企業・1999年から2008年を標本に、改名の公表前後の株価と、その後の長期の成績を調べました。
この研究は改名を四つの型に分けています——“Investors react positively around the announcement date to changes announced as being due to a merger or acquisition, a restructuring or a change in business type. Name changes to provide clarity or for reputational reasons generate no stock price reaction.”(合併・買収、事業再編、業態の変更を理由とする改名には、公表日前後で投資家は正の反応を示す。明確化のため、あるいは評判のための改名は、株価の反応を生まない)。

同じ要旨は、結論をこう置きます——“The results suggest that name changes have short-term stock price effects but no long-term relationship with stock price or operating performance.”(改名には短期の株価への効果はあるが、株価とも営業成績とも長期の関係はない、と結果は示唆する)。公表の前後に、異常な売買の増加も検出されていません。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは1点で、5点は公開されている要旨までです。読めていないものについては書きません。
01明確化と評判のための改名には、反応が無い。2011年の研究は、香港の上場企業・1999年から2008年の改名を四つの型に分けました。合併や買収、事業再編、業態の変更を理由とする改名には公表日前後で正の反応が出た一方、明確化のため、評判のための改名は株価の反応を生まなかったと報告されています。反応が短いのではなく、観測されていません。改名の件数は、公開されている要旨に書かれていません。
02215件の公表は、平均すると正の反応だった。2018年に商学の専門誌へ出た研究は、リブランディングの公表を看板(アイデンティティ)の変更と中身(戦略)の変更の二つの次元に分け、215件を分析しました——“rebranding decisions, on average, are associated with positive abnormal stock returns in the (-5, +5) event window”(リブランディングの決定は、平均すると公表日の前後5日で正の異常収益率と結びつく)。強弱は次元どうしの適合、自社の競争上の位置、業界の競争の強さという条件に依存するとされます。
0325銘柄の作業論文は、30日で平均+4.4%。2013年の、査読を経ていない作業論文です。ニューヨーク証券取引所に上場する25銘柄を対象に、改名後30日の株価を市場の指数と比べ、平均+4.4%(95%信頼区間 2.4〜6.4%)の上昇を報告しました。ただし著者自身が、その効果が持続するのか、一時的なのか、その先で破壊的にすらなるのかは “still unknown”(まだ分かっていない)と書いています。

読めた研究は、どれも「刷新すれば蘇る」を測っていません。それでも立て直しの相談では、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。
01「名前を変えれば、生まれ変わる」2011年の研究が長期について報告したのは、株価とも営業成績とも関係が見当たらない、という結果でした。2006年に出た研究は、166社の横断的な標本と2つの事例から、刷新に踏み切る契機として最も多いのは合併・買収などの構造の変化だったと報告しています。多くの場合、刷新は構造が動いたあとに来ていたという順序です。
02「見た目を新しくすれば、伝わる」同じ2006年の研究の所見はこうです——“a change in marketing aesthetics affects brand equity less than other factors such as employees’ behaviour”(見た目の変更がブランド資産に与える影響は、従業員のふるまいなど他の要因より小さい)。測られたのは会社で、166社の横断的な標本と2つの事例のどちらから出た所見かは、公開されている要旨には書き分けられていません。
03「刷新すれば、資産は引き継がれる」2006年の研究の表題は、刷新が資産を壊すのか、移すのか、創るのかを問いの形で立てています。答えを一つに決めた研究ではありません。2008年の単一の事例研究は、上級管理者7名への半構造化インタビューと1998年から2005年の年次報告などから、刷新のあとにブランドの構造を組み替える難しさを描きました。

2011年にもう一本、イメージの刷新にともなう改名の株価への効果を扱った研究があります。ただし公開されている要旨は、三つの問い(会社の実体の変更との切り分け、変更の大小、ブランド名を変えるか否か)と、イベントスタディという手法を述べるだけです。効果の向きも、大きさも、標本も書かれていません。要旨は自らを “We examine prior research”(先行研究を検討する)と位置づけています。要旨に無いものを、この号は補いません。
測られた場所も限られます。2011年の研究は香港の上場企業・1999年から2008年、2018年の研究は215件の公表、2013年の作業論文はニューヨーク証券取引所の25銘柄。いずれも株式を公開している会社の株価が測られた対象で、店や個人の商いの売上ではありません。どの株をいつ買えばよい・売ればよいという読み方は、ここからはできません。
香港の上場企業を十年ぶん追うと、
評判のための改名には反応が無かった。
だから最初にできるのは、名前やロゴを決め直すことではありません。いま「古い」と感じているのが、看板のほうなのか中身のほうなのかを、手元で切り分けて書き出すことです。これは研究結果そのものではなく、向きを取り違えないためにALIFEが提案する実践入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分の屋号・ロゴ・発信物のうち「古く感じる」ものを一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02SPLIT
何が古く感じるのか(言葉、色、見せ方、扱っている中身)を書き、それが看板の問題か中身の問題かを一語で添える。
- 03KEEP
看板を変えたとき、いま積み上がっている親しみや信頼のうち、何が引き継がれ、何がこぼれ落ちそうかを書き出す。
この号は、刷新すべきかどうかを、ひとつも書きませんでした。書けたのは、香港の上場企業では評判のための改名に反応が無かったこと、215件の公表は平均すると前後5日で正の反応だったこと、25銘柄の作業論文では30日で平均+4.4%だが持続は分かっていないこと——ここまでです。
そして2006年の研究は、見た目の変更がブランド資産に与える影響は従業員のふるまいなど他の要因より小さかった、と報告しています。今日残せるのは判定ではなく、古いと感じたもの一つと、看板か中身かの一語と、こぼれ落ちそうなものの一覧。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「古びたブランドを蘇らせるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。

