IN BRAND · ISSUE 349
● 12 SEC「商標を登録しておけば、名前もしるしも守られる。真似されても勝てる」——屋号やロゴの相談には、たいていこの言い方がついてきます。
この号が見るのは、出願の手続きではありません。止めると書いてあるのはどこまでなのかが、条文と原典ではどう書かれているかのほうです。法律の読み方も、出願をどうするかも書きません。
商標とは、自分の商品やサービスを他と見分けるための名前やしるしを、登録して自分のものとして使える状態にした権利です。日本の商標法(1959年・昭和三十四年法律第百二十七号)は、他人の業務に係る商品や役務と混同を生ずるおそれがある商標を、登録を受けられないものの一つとして4条1項15号に挙げます。
1995年に心理と市場の査読誌へ出た研究も、まずそこを確認します——“In most countries, imitation is condemned if there is a risk of confusion.”(ほとんどの国で、混同のおそれがあるなら模倣は非難される)。裏返せば、おそれが立ちにくいところまで寄せられた模倣は、この筋では止まりません。

その研究が題材にしたのは、大手小売の棚に毎年並ぶ、成功したブランドに「見える」商品です。要旨は、混同という法律の概念を、ごく短い時間だけ見せる装置(タキストスコープ)を使った実験で確かめたと述べ、混同のおそれは現実のものだと報告します。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは法令の1点だけで、4点は公開されている要旨まで、1点は発行元の頁で読める冒頭までです。読めていないものについては書きません。
01「類似の後光」で、混同のおそれは現実だった。1995年の研究の要旨はこう書きます——“The close imitation of a national brand trade dress aims at creating a ‘halo of resemblance,’ on the basis of which consumers may make inferences and attributions of similarity of use, of content, if not of origin.”(全国ブランドの装いをぴたりと模倣することは「類似の後光」を作ることを狙っており、買い手はそれをもとに、使い道の、中身の、出どころまでとは言わずとも、似ていることを推し量り、そう見なしうる)。ただし、何人に、何を、どれだけの時間見せたのかは、そこに印字されていません。
02使える語は、有限だと書かれた。2018年に法学誌(学生が編集する、査読とは別の審査の誌面)へ出た大規模な実証は、アメリカの特許商標庁に1985年から2016年までに出願された商標670万件と、1985年時点で既に登録されていた30万件を丸ごと解析し、現代アメリカ英語コーパスの頻度上位10万語と国勢調査の姓15万1,672件を突き合わせました——“The supply of word marks that are at least reasonably competitively effective as trademarks is finite and exhaustible.”(少なくともそこそこ競争力のある語の商標の供給は、有限で、汲み尽くしうる)。
03混同の要因は、似ているかどうかの外へ。1992年に同じ査読誌へ出た論文は、実測ではなく枠組みを立てた概念論文です。買い手のブランドの取り違えを、不確かさ・誤解・侵害・欺瞞といった隣の言葉から切り分けたうえで、その起こりやすさを左右する要因を——“extended beyond stimulus similarity to include individual and situational factors”(刺激の似かたを超えて、個人の要因と場面の要因まで広げる)。経路が何本あるとは、公開されている要旨には書かれていません。

読めた三本は、どれも「登録してあれば真似されない」を測っていません。それでも、名前としるしの相談では、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。
01「登録すれば、真似されない」1959年の商標法が置いた筋は、混同を生ずるおそれがある商標を登録させない、というものです(4条1項15号)。1993年に全部改正された不正競争防止法(平成五年法律第四十七号。法文の冒頭に、旧法の全部を改正すると明記)も、需要者の間に広く認識されている商品等表示との混同や、他人の商品の形態の模倣を、別の筋で止めます(2条1項1号・3号)。どちらも、おそれや広く知られていることという条件の内側までです。
02「早く押さえれば、独占できる」2018年の実証が数えたのは、出願670万件と、1985年時点の登録30万件でした。2021年に同じ著者たちが法学ハンドブックへ書いた章は、競争力のある商標の供給は実のところ汲み尽くしうるもので、すでに深刻な水準に達していると述べ、複数の制度改革の案を挙げて章を閉じます。押さえる先の棚そのものが、有限だと書かれています。
03「登録してあれば、必ず勝てる」1995年の要旨は、混同のおそれが現実だと述べた同じ場所に、もう一行を置いています——“But the final decision as to whether or not such a risk exists is left up to the judge.”(しかし、そうしたおそれが存在するか否かの最終判断は、裁判官に委ねられる)。「必ず」にあたる語は、読めた範囲にありません。

この号が全文まで読めたのは、日本の二つの法令だけです。1995年の実験は、参加者が何人で、何をどれだけの時間見せたのかが公開されている要旨に印字されておらず、行われた場所を指す語も足していません。
2018年の実証で読めたのは論文の冒頭までで、登録済みの語の割合も、上位の語の実数も取れていません。数えられたのはアメリカの登録データ、1995年の題材は大手小売の棚に並ぶ商品です。屋号だけで商い、登録もしていない小さな商いは、どちらの標本の中心には置かれていません。
止めるのは、混同のおそれのある模倣まで。
そのおそれの有無は、多くの国で裁判官に委ねられる。
だから最初にできるのは、出願できるかを調べることではありません。自分のしるしが、どこまでなら止める筋があり、どこからは条文の外なのかを、事実として書き出してみることです。これは研究結果そのものではなく、守れる範囲を言葉にするためにALIFEが提案する実践入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分の屋号・しるし・商品名から一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02NOTE
それが登録されているかどうかを、事実として書き添える。していなければ、広く知られていると言えそうな手がかりを思いつくまま書く。
- 03MARK
そっくりだが混同とは言い切りにくいところまで寄せられた場合を思い浮かべ、止める筋がありそうな範囲と、条文の外にこぼれる範囲に線を引く。
この号は、出願をどうすべきかを、ひとつも書きませんでした。書けたのは、条文が置いた要件が混同のおそれであること、1995年の実験が「類似の後光」を手がかりに混同のおそれは現実だと報告したこと、2018年の実証が使える語を有限だと書いたこと——ここまでです。
2021年の、同じ法学ハンドブックのもう一つの章は、問題は混同それ自体ではないと書きます——“the problem isn’t confusion per se; the problem is harmful confusion, or more precisely, consumer confusion that produces harms of the sort that trademark law cares about.”(問題は混同それ自体ではない。問題は害のある混同、より正確には、商標法が気にかける種類の害を生む消費者の混同である)。制度の側は、いまも書き替えの提案を受けている途中です。今日残せるのは判定ではなく、しるしを一つと、線を一本だけです。
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