IN BRAND · ISSUE 348
● 12 SEC「ブランドがあれば、値引きしなくても高く売れる。だから安売りするな」——値段の相談には、たいていこの言い方がついてきます。
この号が見るのは、値の付け方ではありません。その言い方の中にある順序が、原典ではどちら向きに書かれているかのほうです。いくらに変えればよいかは、書きません。
価格プレミアムとは、似た商品より高い値でも選ばれる、その上乗せ分のことです。2003年に商学の専門誌へ出た研究は、これに近い物差しをこう定めました——“We define revenue premium as the difference in revenue (i.e., net price × volume) between a branded good and a corresponding private label”(収益プレミアムを、ブランド品と、対応する無印品との売上——正味価格×数量——の差と定義する)。
題名からしてこれは資産の結果を測る指標で、要旨は“a simple, objective, and managerially useful product-market measure of brand equity”(単純で、客観的で、実務に使える、製品市場ベースのブランド資産の指標)と書きます。測った先は米国の食品雑貨——ある小売1社の85店舗・17カテゴリーの週次データと、102ブランド・23製品カテゴリー・1991年から1996年の業界データです。

ただし同じ論文は、自分の物差しにこう釘を刺します——“as do all outcome measures, revenue premium has limited diagnostic ability: It does not provide insight into the customer-level sources of equity”(結果を測る指標がみなそうであるように、収益プレミアムには診断の力に限りがあり、客の側にある資産の源までは見えない)。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは1点で、4点は公開されている要旨まで、1点は発行元が公開している抜粋までです。読めていないものについては書きません。
01価格と名前は正、店の名は小さく非有意。1989年に出たメタ分析は、価格・ブランド名・店名が品質の印象に与える効果を統合しました。消費財では価格と品質の印象、ブランド名と品質の印象の関係が正で統計的に有意。ただし続きがあります——“However, the positive effect of store name on perceived quality is small and not statistically significant.”(ただし、店名が品質の印象に与える正の効果は小さく、統計的に有意ではない)。店の名については、明確な差とは言えなかった、ということです。三つを横並びにはできません。
021991年の実験では、買う意思が下がった。同じ年に出た実験は、価格・ブランド・店の情報が買い手の評価に与える効果を測りました——“Results indicate that price had a positive effect on perceived quality, but a negative effect on perceived value and willingness to buy.”(結果は、価格が知覚品質には正の効果を、知覚価値と買う意思には負の効果を持ったことを示す)。三つすべてを正の向きに動かしたのは、ブランドと店の情報のほうでした。
03もう一本の1991年は、組み立てた枠組み。同じ年のもう一本、実務向けの査読誌へ出た単著の論文は、“Discusses a conceptual model of consumers’ product evaluation … Provides a conceptual model that incorporates acceptable value range”と自ら書きます。受け入れられる価格の幅を組み込んだこの枠組みは、価格と店名の情報が品質・金銭的犠牲・価値・買う意思へどう働くかを組み立てたものであり、何かを実測して示した研究ではありません。

読めた三本は、どれも「高く付ければ資産が育つ」を測っていません。それでも値付けの相談では、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。
01「高い値は、品質の証明だ」1989年のメタ分析では、価格と品質の印象の関係は正で統計的に有意でした。ただし同じ要旨は、実験計画の型と価格操作の強さが、観察される効果の大きさを左右するとも書いています。証明ではなく、条件しだいで大きさの変わる手がかりの一つ、というところまでです。
02「値上げすれば、ブランドが育つ」2003年に立てられたのは、資産があることの結果として観察される指標でした。値札を書き替えたことが資産を育てた、と測った報告は、読めた範囲にありません。2010年の国際規格も、市場の反応は金額評価の入力の一つとして置くにとどめています。
03「高くすれば、買い手は納得する」1991年の実験で、価格は品質の印象を上げた一方、知覚価値と買う意思は下げました。しかも測られたのは品質と価値の印象、そして買う意思で、実際の購買ではありません。納得したかどうかは、ここからは読めません。

2004年に経営研究の専門誌へ出た四つの研究は、上乗せ分を払ってもよいという気持ちを、資産の一つの側面として測る尺度にしました。16ブランド・6製品カテゴリーで内的整合性と妥当性を確かめ、その気持ちが購買行動の直接の先行要因になりうるとしています。実施した国は、公開されている要旨に書かれていません。
測られた場所も限られます。2003年の研究は米国の食品雑貨、無印の対応品と並ぶ棚の上の話でした。1991年の実験が測ったのは印象と買う意思で、実際の購買ではありません。比べる相手のいない仕事では、無印との差という物差しがそもそも当てはまりません。この号は、いくらに変えればよいかを書きません。
価格は、品質の印象を押し上げた。
同じ実験で、知覚価値と買う意思は下がった。
だから最初にできるのは、値札を動かすことではありません。いまの値が、何の結果として今の額なのかを、手元で書き出してみることです。これは研究結果そのものではなく、向きを取り違えないためにALIFEが提案する実践入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分の商いの価格を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02LIST
その値が何の結果として今の額なのかを、思いつくまま三つ書き出す。続けてきた年月、手のかけ方、戻ってくる人など。
- 03MARK
三つのうち、値札を書き替えるだけでは手に入らないものに印を付け、印の数を書き添える。
この号は、いくらにすればよいかを、ひとつも書きませんでした。書けたのは、2003年に立てられたのが結果を測る指標だったこと、1989年のまとめでは店の名だけが小さく非有意だったこと、1991年の実験では価格が品質の印象を上げて買う意思を下げたこと——ここまでです。
矢印は、資産から価格へも、価格から印象へも出ています。片方だけを取り出すと、順序が入れ替わります。今日残せるのは判定ではなく、価格を一つと、その理由を三つと、印の数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「安売りせずに選ばれるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
