IN BRAND · ISSUE 347
● 12 SEC「このブランドには、これだけの価値がある」——そう言って、億単位の数字が並ぶ一覧を見かけます。無形のものが資産として金額で測れる、という言い方には、決まった手順に従えば一つの正しい額が出る、という前提がくっついています。
この号が見るのは、額の大きさではありません。その額が、どうやって作られているかのほうです。どう測れば自分のブランドに高い額が付くかは、書きません。
ブランドエクイティとは、ブランドが持つとされる価値のかたまりのこと。ブランド価値評価は、それを金額に換算しようとする作業です。一覧に載る「ブランド価値◯◯億ドル」は、この作業の出口にあたります。
2009年に経営学の専門誌へ出たレビューは、この作業をこう位置づけます——“Brands can be valued using a variety of techniques. Like any tool, each technique may be suitable for some purposes and not for others.”(ブランドは多様な手法で評価でき、どの手法も道具と同じで、ある目的には向き、別の目的には向かない)。この号が読めたのは公開されている要旨までで、要旨は用途への向き不向きで分類すると述べるだけで、目的の名前までは並べていません。

用途が違えば違う道具が要る、というだけのことです。問題は、用途の違う手法から出た別々の額が、どれも「そのブランドの価値」という同じ名前で流通することのほうにあります。名前が一つだから、聞く側は一つの実体があると思う。同じ論文は、扱うのは財務的な価値評価だけで、ほかの測り方は対象外だとも断っています。
01三つそろって上位10に載ったのは5ブランド。最大と最小の比は1.88〜2.69倍。2017年の三つの評価会社の上位10を一つの表に突き合わせた2019年の研究(全文まで読めました)。三つすべてに載ったブランドは5つだけで、その5つの最大と最小の比は1.88〜2.69倍、中央値2.19倍でした。単年・一つの表・上位10に限られます。原典の地の文は、公表された結果もまた異なる、と書くところまでで、倍率そのものは言語化していません。
02三つの評価手法の前提を比べた研究の結論は、一般に通用するものは無い。2011年の研究(全文まで読めました。本文はセルビア語)は、三つの評価手法が置く前提の違いを比べ、結論でこう書きます——いかなるブランド評価の手法も、一般に通用するものとして受容されていない。比べた三つの組み合わせは、01の研究とは同じではありません。
03二つの評価会社を比べた研究は、標準の測定法に合意は無い、と書く。2018年の研究(全文まで読めました。本文はトルコ語)は、二つの評価会社の2017年の上位10を並べ、標準となる測定法の適用について合意は存在しない、と述べます。どの評価会社を比べたかは論文ごとに違い、三本を一つの比較として束ねることはできません。

では、国際規格に従えば客観になるのか。2010年に定められたブランド価値評価の国際規格は、研究ではなく規格です。この号が読めたのは公式の抜粋——冒頭から評価の方法を定めた第5.1項までと、全体の目次——にとどまります。
その第5.1項には、“Brands shall be valued by applying the income, market or cost approach.”(ブランドは、収益・市場・コストのいずれかのアプローチを適用して評価されなければならない)とあります。よく「三つのアプローチ=財務・行動・法的」と紹介されますが、その三つは別の項に置かれた、考慮すべきパラメータのほうです。
01三つのアプローチは、収益・市場・コスト。評価の方法を定めた節が挙げるのはこの三つで、どれを使うかは評価の目的・価値の概念・対象の性質が決める、と規格は続けます。
02財務・行動・法的は、アプローチではなくパラメータ。基本要件の最後の項の見出しが「財務・行動・法的なパラメータ」で、本文は、金額評価にあたってこの三つを考慮しなければならない、評価はこの三つのモジュールから得られた知見にもとづいて行われなければならない、と書きます。読めた範囲に、この三つをアプローチと呼ぶ箇所はありません。
03規格が課すのは手続き。前提を置くのは評価者のほう。基本要件は、透明性・妥当性・信頼性・十分性・客観性の五つ。一つの正しい額を定める条文は、読めた範囲にはありません。どれだけの利益をブランドに帰属させるか、どの率で割り引くか、寿命をどう見るか——それを置くのは評価者です。入力の要件を並べた節から先は、読めていません。

この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは4点で、1点は公開されている要旨まで、規格は公式の抜粋までです。要旨までの1点については、用途への向き不向きで分類すると述べていること以上は書きません。読めていないものについては書きません。
数字のほうの狭さも置いておきます。倍率は単年・一つの表・三つそろって載った5ブランドから出たもので、分母はこれ以上広くありません。読めた範囲に、屋号で商う個人や小さな会社のブランドを評価した例はありません。金額が付かないことは、価値が無いことではない。ここで扱ったのは、金額の付け方の話だけです。
“Classification is complicated by specialist firms seeking to differentiate methodologies ('proprietary models') for their own marketing purposes. Much of this differentiation is little more than re-labelling.”
分類を難しくしているのは、自社の販売のために手法を差別化しようとする専門の会社である。その差別化の多くは、名前の付け替えにすぎない。
2009年のレビューの要旨にある一文で、分類という作業がなぜ難しいかの説明として置かれています。手法の違いがどこまで実質的なのかについて、この論文自身が留保を置いている、ということです。どの評価会社が正しいか、の話ではありません。
金額の評価だけが測り方でもありません。2003年の研究(全文まで読めました)は、収益プレミアム——同じ売り場の無印の商品と比べた、正味価格と数量の差——という、市場で観察できる指標を提案しました。
標本は米国の食品雑貨に限られます。小売1社の85店舗・17カテゴリーの週次データと、102ブランド・23カテゴリー・1991〜1996年の集計。原典自身が、結果を測る指標なので診断する力は限られる、と断っています。株価や株式の収益率は扱っていません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日の日付を書き、自分の屋号・店・活動について「これがあると価値がある」と自分が思うことを三つ書き出す。
- 02MARK
その三つが同じ一つの数字にまとめられるかを考え、まとめられないと感じたものに印を付ける。
- 03COUNT
印の付いた項目の数を書き添える。金額は出さない。残す記録は、それだけ。
一つ。同じ年の三つの上位10にそろって載った5ブランドで、額の最大と最小の比は1.88〜2.69倍(中央値2.19倍)だったこと。二つ。別の二本が、一般に通用する評価手法も、標準の測定法についての合意も無い、と書いていること。三つ。規格が認めるのは収益・市場・コストの三つのアプローチで、課すのは手続きの要件だということ。
今日残せるのは、判定ではありません。自分が価値と呼びたいこと三つと、一つの数字に丸められないものに付けた印。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「ブランドの価値を測るには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

