IN BRAND · ISSUE 346

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

理念を共有して、みんなで同じ顔を見せる。人に手伝ってもらう段になると、たいていこの筋書きが出てきます。教えれば、誰でも同じように体現できる、という前提つきで。

この号が見るのは、教え方ではありません。その前提が、どこまで測られているかのほうです。どうすれば体現者になるかは、書きません。

インナーブランディングとは、そこで働く人がブランドを理解し、それに沿って振る舞えるようにする、内向きの働きかけのことです。ブランド市民行動は、決められた仕事の範囲を超えて、ブランドらしく自発的に振る舞うことを指す研究上の呼び名です。

2023年にマーケティング戦略の専門誌へ出たメタ分析は、38件の研究を統合して、内向きのブランド管理が、働く人のブランドへの愛着と、このブランド市民行動のどちらも予測すると報告しました。統合されたのは、どれも働く人の側で測られた指標です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
理解・愛着・振る舞い。三つとも、答えているのは同じ人です。 Visual: ALIFE

ただし、何が何を予測したかは、ひとつにまとまっていません。同じメタ分析は、内向きの働きかけのどの面が、どちらの指標を予測したかを分けて書いています。要旨は、ブランド中心の人的資源管理については、どちらの指標に対しても影響は控えめだったとも書いています。

この号が当たったのは6点。全文まで読めたものはなく、6点とも公開されている要旨までです。読めていないものについては書きません。

01愛着の予測で一位だったのは、伝達。要旨はこう書きます——“Among all dimensions of IBM, brand communication was found to be the most crucial factor in predicting EBC, followed by brand-oriented leadership.”(内向きのブランド管理のあらゆる側面のうち、ブランドの伝達が、社員のブランドへの愛着を予測するうえで最も重要な要因であり、次いでブランド志向のリーダーシップだった)。一位は、愛着のほうについての順位です。

02振る舞いの予測では、順位が変わる。続く一文で向きが変わります——“Of the different dimensions of IBM, brand-oriented leadership has the greatest impact on BCB.”(内向きのブランド管理の異なる側面のうち、ブランド志向のリーダーシップが、ブランド市民行動に最大の影響を持つ)。要旨はさらに、ブランドの理解が市民行動への影響としては最大だったとも書いています。

03二つの順位とも、測った先は働く人の側。順位が指しているのは、働く人のブランドへの愛着と、働く人の自発的な振る舞いです。客がその振る舞いをどう受け取ったかは、この38件の統合には入っていません。「教えれば伝わる」の前半は測られ、後半の欄は空いたままです。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いコートと白いパンツの女性がひとりで下りている写真
同じ統合の中で、一位は指標ごとに入れ替わります。 Visual: ALIFE

読めた六点は、どれも「教え込めば客に伝わる」を測っていません。それでも、人を巻き込む相談では、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。いずれも、原典が書いている限定を一段はずしたところで成り立つ言い方です。

01「同じ研修なら、誰にでも同じように届く」2024年に出た別のメタ分析は、65件の研究(62本の刊行物から)・226の効果量・のべ21,706人を統合してこう報告します——“employee’s personal (education, age and gender) and job (tenure, work status and level of customer orientation) characteristics significantly moderate the internal branding–employee commitment relationship.”(社員の個人的特性〔学歴・年齢・性別〕と職務特性〔在職の長さ・雇用の形・顧客志向の水準〕が、この関係を有意に調整する)。

02「本人が体現していると答えたのだから、伝わっている」2016年の研究は、豪州のウェブ調査名簿から集めたサービス業の375名への一時点のオンライン調査。2018年の研究はドイツの観光企業1社の790名。2024年に公開されたサービス業のメタ分析は31件の研究(2009-2023年)で、愛着がこの連鎖を部分的に橋渡しすると報告しました。答えているのは、いずれも働く人自身です。

03「枠組みがあるのだから、埋めれば体現される」インナーブランディングという考え方の出どころは、2005年にブランド管理の専門誌へ出た論文にさかのぼります。ただしこれは効果量を持たない概念モデルの論文で、添えられた実例は深層面接からの例示です。由緒は、枠を埋めれば体現が生まれるという保証ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
三つとも、教え方ではなく、何が測られたかの話です。 Visual: ALIFE

出どころには、はっきりした偏りがあります。2016年の研究は、著者自身が限界としてこう書いています——“the empirical basis of this study comes primarily from the tourism and hospitality industry in one domestic market”(本研究の実証的な基盤は、主として一つの国内市場の観光・宿泊業から来ている)。2018年の研究も、単一の国の観光企業1社です。

そして、測っている場所です。ここまでの数字は、働く人に質問紙で答えてもらう、ある一時点の設計に多くを負っています。客が受け取った体験を測った報告は、読めた範囲にありません。一人で、あるいは家族や少人数で商いを回している場合は、浸透させる相手と体現する人が同じになります。この号は、どうすれば体現者になるかを書きません。

38件の統合が予測したのは、働く人の愛着と振る舞い。
客が受け取ったかどうかは、同じ表に載っていない。

だから、最初にできるのは、誰かに体現を求めることではありません。自分が今日出したものが、自分の掲げた一行とそろっているかを、手元で数えることです。人に求める言葉は、そろっているときにはじめて重みを持ちます。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    今日の日付と、自分のブランドを一行で書く(「うちは○○な店」「私は○○を届ける人」)。

  2. 02PICK

    今日か直近に自分が出した発信物を三つ選ぶ。返信、投稿、貼り紙、説明書き、値札の言葉など。

  3. 03MARK

    その一行と、合っている〇/ずれている△/どちらでもない—の印を自分の発信物にだけ付け、△の数を書き添える。

10分。自分が出したものと自分の記録だけで完結します。社員・同僚・取引先を評価したり、誰かに感想を尋ねたりする課題ではありません。これは研究結果そのものではなく、掲げた一行と手元の言行がそろっているかを数えるためにALIFEが提案する実践入口です。勤め先や取引先から見せ方に指示・制限が出ている場合は、そちらが優先されます。つらさが続く・強まる場合は、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

この号は、体現者の作り方を、ひとつも書きませんでした。書けたのは、38件の統合が予測したもの・65件の統合が示した条件の差・六点とも要旨までしか読めていないこと、この三つです。予測された先はどれも働く人の側にあり、順位は指標ごとに入れ替わりました。

教えた記録は取りやすく、伝わった記録は取りにくい。取りやすいほうが、いつのまにか取りにくいほうの代わりに置かれます。埋まったのは働く人の欄で、客の欄は、まだ空いたままです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「社員をブランドの体現者にするには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。